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剣と龍と神  作者: カナメ
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六十八話

皆さんの予想をいい意味で裏切られれば幸いです。

ヴェルガードの過去話が一段落つくと、各々複雑そうな表情で一息ついた。

キーリカは困惑、ルシスは呆れ、ファラは無表情。

ちなみにオレは愕然としていた。



当時十二才で高位剣使に仲間入りしたヴェルガードも確かにすごい。

だが『直刃』セトはその上をいく規格外な人物だった。

なりたてとはいえ高位剣使を素手で圧倒する人物など初めて聞いた。

なるほど最初にして最強の『剣神』の称号に偽りはないのだと改めて再認識させられた。



「幼い頃とはいえヴェルガード様に手も足も出させないとは……その者は本当に人間ですか?」



内容が内容だけにキーリカは恐る恐るヴェルガードに問いかけた。



「人外の強さだったが奴は間違いなく人間だ。……おそらくいま戦ってもセトに勝つ見込みはない。最盛期のワシでも勝率は四……いや三割だな」



その発言に誰もが目を点にし、耳を疑った。

最盛期の『鬼神』でも勝率が半分以下だと!?

どんな化け物だ!



「それほどなのか、『直刃』は?」



ファラの確認に、ヴェルガードは重々しく頷く。



「前世の記憶はうろ覚えだが肝心なものには強烈なインパクトがあってな。『龍神』と戦った時は底が見えたが……セトの底は見えなかった」



「化け物とは思っていたがそれほどの領域か……。奴に野心がなくてよかったと心底思うな」



ファラに激しく同意するよ。

セトが野心の塊だったらロードギアは消えない戦火が燃え続けていただろう。



「一度目の邂逅はセトの正体などまったくわからなかったが、二度目の邂逅で素直に納得したよ。これが『剣神』かと」



「二度目もあったのか?」



「七年前、ワシが十五の時に。あの時のセトも誰かを捜していたように見受けたが……突然嵐のように現れ、嵐のように去っていったから詳細はわからん」



「ならなんで『剣神』だとわかったんだ?」



「すぐ傍らに『剣龍』がいたから嫌でもわかるさ。姿形は人間だったが、魔素量が明らかに人外だった」



「人間の形態になれる……つまりセトもマスター同様に支配権限を『剣龍』に委ねているのか」



セトとの対面の時にそんな人物とは会ってないよな?

シキロやフィフラがそうなら同族であるルシスが気付かないわけないし。

あの時、傭兵ギルド本部にはいなかったのか?



「……カインがどうやって『鬼界』に来たかは理解した。あのセトが手を貸すなんて到底信じられないが」



ごめん、セト。

オレにはこれ以上お前をフォロー出来ないよ。

だってお前の評判、散々なもんだから。



「そういうヴェルガードはどうやってここに?お前はカギとなる『神剣』を持っていないだろ?それとも何か別の手段でもあるのか?」



「ん?ああ、ワシにはコレがあるから問題なく、好きな時にいつでも『鬼界』に来れるんだよ」



オレの疑問に、ヴェルガードは自身の妖刀を具現化し、かざした。

妖刀を具現化した瞬間、ファラとルシスが反射的に身構えたがアイコンタクトして落ち着かせる。



「すまんな、配慮が足りなかった」



こちらの過剰反応にヴェルガードが真摯に謝罪、頭を下げた。



「こちらもすまない……話題が逸れたな、その刀でこっちに?」



「あぁ。ワシの刀はカイン達の剣位で言うと『神剣』レベルでな、同様の事が出来る」



へえ、さすがは『鬼神』の武器だな。



「何よりこの異界を創ったのはワシだからな、ロードギアと『鬼界』を渡り歩くのは造作もない」



…………何かとんでもない事を口走っているぞ。



「ヴェルガードがこの異界を!?」



「いまさら驚く事か?元々前世のワシと『剣鬼』もロードギアの住人だったんだ、異界など必要あるまい。まぁ大戦の終盤では引き際かと考え『鬼界』を創った。ロードギアには残れないし、残ったところで全滅は避けられなかっただろうしな」



「我々『剣龍』側としては『鬼界』が出来る前に貴様らに止めをさしたかったが」



ボソリと呟くルシスさんが恐いです。



「無事に『鬼界』を創った直後だったよ、『龍神』が殴り込みに来たのは。いや、あの時はギリギリのタイミングだった」



今明かされる歴史の分岐点だな。



「ですがそうやって生き延びた『剣鬼』も、今回の大戦ばかりは厳しいところです」



キーリカのまるで他人事のような発言にヴェルガードは困ったように唸る。



「そうだな、少なくともロードギアに帰還した『剣鬼』は多分こちらには帰ってこれないだろう」



唸りながらも断言した。



「何故だ?」



「ロードギアと『鬼界』、既にどちらのゲートも閉じられているからだ。キーリカから聞いた話だとゲートを開いたのは『鬼神の巫女』と名乗る女らしいが……」



「心当たりは?」



「ある。というかカインも知っている女だ」



オレも?…………『鬼神の巫女』を名乗りかつゲートを開ける『神剣』持ちで女……………………。



「レラフか?」



「十中八九間違いないだろ。時期的に丁度そのころからあの女の姿を見ていない」



「……その口振りからするとゴルドーの一件以後も絡まれてたのか?」



「度々な」



うわ、御愁傷様。



「他人事のように思っているかもしれんが、カインとてあの女に気に入られてる事を忘れてないか」



「……え?」



そうだったか?

そういえばそんな記憶もあるような、ないような?



「なら何か?ヴェルガードの次はオレの番だと?」



頼む、否定してくれ。



「あの女は強欲だからワシ一人で満足はせんだろうな」



「ヴェルガード、全力で逃げ続けろ。お前が捕まらなければオレは安全だ」



「一緒に立ち向かうという選択肢はないのか友よ?」



「あんな危ない女の前にわざわざ狙っている獲物であるオレ達が二人同時に現れてみろ、狂喜乱舞して近場の街の一つや二つ吹き飛ばすぞ」



「馬鹿な事を言うなと否定したいが、容易に想像できるからシャレにならんな」



互いに真顔でレラフという女の危険性について話し合うと意気投合した。

二人そろってあの女は苦手の部類みたいだ。



「まあそのレラフのせいで『剣鬼』はほぼ死ぬだろう。生き残れるのはこちらに残ったキーリカの私兵のみだ」



ヴェルガードはあっさりとそう結論した。

ロードギアにいる『剣鬼』は全滅すると。



「『剣鬼』が勝者になる可能性は欠片もないと?」



「万が一にもあり得ん。せいぜいあの三人の『剣神』に磨り潰されるまで利用されるだろう。死ぬまで気付かずに」



ヴェルガードの太鼓判付きか、嬉々としてロードギアに帰還した『剣鬼』が哀れすぎる。



「特に今回の大戦は敵味方入り交じるだろう。あまり頭の回転がよろしくない『剣鬼』はいい的であり、駒だ。……キーリカは別としてな」



「恐れながらヴェルガード様、『八鬼王』の中にはもう一人頭の回る輩がおります。普段は愚者を装っていますが、水面下では色々と動き回っておりました」



「ほぅそんな奴がいたのか?」



「はい。ただズル賢いだけの奴ですが、立ち回りは慎重かつあざとい性格です。奴が他の『八鬼王』をうまく誘導すればあるいは……」



「なるほど、認識を改めるべきか」



一人納得しているヴェルガードに、オレは今回の大戦の勢力図を聞いた。



「どうやらキーリカの助言をもとに考え直してみると大きくわけて三つだ」



キーリカが用意した大きめの紙にヴェルガードがデカデカとした文字を書きこんでいく。



「まず一つめの勢力は『剣鬼』だ。兵数はキーリカが事細かに教えてくれたから大きな誤差はないだろう。その総数はおよそ五千。これにキーリカの私兵は入っていない」



「最盛期の『剣鬼』勢力から随分と少なくなったが……やはり人間にとってはまだ脅威だな」



ファラの指摘にヴェルガードが大きく頷く。



「まだ確定はしてないがほぼ間違いなく『剣鬼』が降り立った別大陸はその全土を制圧下に置くだろう。連中は下位存在である『剣精』を無条件で支配下に置けるのでそれも利用する……総数はおよそ十倍にはねあがるな」



五万か。

『剣精』の大軍を率いる『剣鬼』の軍勢……人間側からしたら悪夢のような光景だな。



「さて二つめの勢力はホトが短期間で建国した『ミクトラン帝国』だな。これは三つに分裂していた国々を元の一つの大国に戻しただけだが……今ではロードギアでも二番目に大きい領土を誇る。今のところその軍事力は謎だが、まあホトの協力者として《魔神》と《狭間》もこの勢力側だろうから現世界最強国家だな」



ヴェルガードの奴、軽いノリで言ってるがこの国だけ突出した戦力だぞ。

『剣神』が三人も所属している国なんて未だかつてなかっただろ。



「最後に《神壊》ラーズが率いる『アースガルズ王国』だな。ロードギア一の領土と剣使数を誇る最大最強勢力。……最強の方は返上だな」



「この三つの勢力が今回の大戦の面々か……。どの勢力も漁夫の利を狙うだろうな」



「多分、な。この情報はあくまでワシがこっちに来るまでに収集したものと、キーリカが独自に集めてくれたものを合わせた結果だ。細かい差異は今現在も生じているだろう。一刻も早くロードギアに行くべきだ」



「……わかった、異論はない。オレに道雪をぶつけた理由をまだ聞いてないから道すがら聞かせてもらうぞヴェルガード」



「わかったよ。だがほぼわかってるだろ?」



「…………」



肯定しないし、否定もしない。

つまりはそれがオレの答え。

ああわかってるよ。 あれがオレのレベルを底上げする為の茶番だという事くらい。

そして道雪に勝つ事が、今回の大戦にオレが参戦する為の条件だという事もだ!



「最低でも『八鬼衆』に勝てなければ犬死にするようなものだ。ならばテストは必須、だろ?」



「……お前達と一緒に行けるって事はテストに合格できたと受け取っていいのか?」



「もちろん。『神剣』なしで道雪を圧倒したんだ、安心してカインに背中を任せられる」



悪びれもしなければ、照れることなく応えるヴェルガードにオレはただ呆れた。



「お前は何で今回の大戦にも関わる気なんだ?参戦する意味なんてないだろ?」



かつてのロードギア管理権限を賭けた戦いでもなければ、一方的に巻き込まれたわけでもない。

今回のは『剣龍』から『剣神』に管理権限が移った余波のようなものだ。

あと性悪『剣神』三人組の悪質な企み。なぜ生まれ変わりとはいえ『鬼神』であるお前が介入するんだ?

不思議でならない。



「参戦する理由?理由か……ワシも『超越者』というものに興味があるから、だな」



「『超越者』?」



なんだそれ?



「貴様もか……」



その単語にいち早く反応したファラが険悪な空気を発散し、ヴェルガードを睨んでいる。



「勘違いしないでくれファラ。ワシはどこぞの《不死神》のような事は考えていない。むしろそれらに対する対抗策を模索している」



何かオレだけをおいてけぼりにして会話は進む。



「対抗策?」



「仮にホト達の計画が完遂した場合、『超越者』がこのロードギアに干渉してくるのは避けられない事態だ。それはワシの望むところではない」



「ならば完遂する前にあの三人を殺せばいいだけだ」



「出来るか?」



まさに言うは易く行うは難し……。

ヴェルガードの問いかけに、ファラは悔しそうに唇を噛む。



「何もせずとも阻止出来れば、ワシも喜ばしいのだが、あいにくと人間に生まれ変わってからは疑り深くなってな、保険がないと不安で仕方ないんだよ」



「……その為の対抗策はすでに何かしらの形にはなっているの?」



憮然とするファラと交代するようにルシスが口を開く。



「まったく全然」



だからこそ能天気に答えたヴェルガードに非難するような視線が集中した。

主に龍たる四つの眼から。

紅髪美女と銀髪美女からの苛烈な視線に、ヴェルガードは困ったように苦笑い。



「そんな簡単にポンポンと『超越者』に対抗できる策は思い浮かばんよ。実際にどのような領域に奴らがいるのかなんて知りようもないんだぞ」



「見つかりそうか?」



ファラとルシスからの視線を遮る形で立ち位置を変えたオレに、ヴェルガードは気楽そうに



「何とかするさ、時間はまだある」



そう答えた。

「そう長くはないだろうが」と付け加えた部分も、オレは聞き逃さなかった。



「そういうカインもなぜ参戦するんだ?遠く離れて傍観してても誰も文句は言わんぞ」



切り替えるように今度はヴェルガードが何故オレが参戦するのかを口にした。



「オレも『剣神』の一人だからな、今回の大戦は無関係じゃないんだよ」



「責任を感じて戦うと?」



茶化すようなヴェルガードを一睨みして黙らせる。



「オレには『超越者』とは何なのかすら理解出来てないが、さっきの会話内容からしてヤバイってことは伝わってきた。ならオレはそれで何かを企むホト達の計画を阻止するだけだ」



「直接カインに関係なくともか?」



「オレにはなくても、ファラやルシス、それにヴェルガード……みんなにあるならオレも一緒に動くだけだ。オレが参戦する理由なんてそれだけで十分だ」



オレの宣言に一同静まりかえっている。やばっ勢いで何か恥ずかしい事を口走ったかも。



「素晴らしい!素晴らしい心意気だよ!感動した!!あんた人間にしておくにはもったいない男だよ!!」



賞賛、絶賛しているのは今まで堅苦しい敬語で話していたキーリカだった。

それがお前の素かよ。



「いや~ヴェルガード様の友人と聞いてただの人間じゃないとは思っていたが素晴らしい!なるほど、これがヴェルガード様の友なのですね!?」



「あ、あぁ」



キーリカの勢いに呆気にとられているヴェルガードが何とか返事をすると、キーリカはまたも素晴らしいと一人感動していた。

……キャラが激変するのは『七欲』だけでお腹いっぱいなんだけどなぁ。



「おいヴェルガード、あいつはいつもあぁなのか?」



「いや二千年前は思慮深い誠実な奴……だったはずなんだが」



時の流れはこうまで残酷なものなのかと涙を誘う事態だ。



「一番最初にカイン殿を目にした時はこんなヘナチョコがご友人とは……と嘆き、悲しみましたが杞憂でしたね。申し訳ありません」



ヘナチョコって……。

本人を前によくもまあ堂々と。

こらこらファラさんとルシスさんや、落ち着け。

殺気を撒き散らすな、射殺さんとばかりに睨むな、あと剣を具現化するな。



「いやお気になさらず?」



そう返すのが正解なのかわからないので疑問符がついたままに返事した。



「おや、心が広いね~。ヘナチョコ呼ばわりされても怒らないなんて。チ〇コついてるの?」



「この野郎……!」



OKわかった、お前はオレをおちょくっているってわけだな?喧嘩売ってるなら買うぞ?

その色男な顔をボコボコにしてやるよ!キーリカに詰め寄るオレの怒りは、しかしキーリカの衝撃発言により綺麗さっぱり霧散した。



「野郎なんて失礼な。訂正を求める、正しくはこのあま!だと」



「「「はっ?」」」



オレとファラとルシスの声が綺麗に重なった。

見事な三重奏だ。

いやそんな事どうでもいいわ!



「…………なんだって?」



「だから、わたしは、女です」



「「「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………なにーーーーーーーー!!!?」」」



この日一番の大絶叫が『鬼界』に響き渡る瞬間だった。

そんなわけでようやくここで三人目のヒロイン解禁です。

外見は色男。

だけど中身も色男。だから身体は女。

意味わからん。

あまり類のないヒロインですがまあこれはこれで需要があるかなと。

…………ないか!

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