四話
読んで下さっている方々ありがとうございます。正直嬉しいでござる。
「ハァハァハァハァ」
あの剣精を片付けて走り続けること約十分。
多少は体力に自信があったのだが……さすがにキツくなってきた。横腹がいてぇ。
一旦停止。
全神経は相変わらず周囲を警戒しつつ体力だけでも回復させよう。
出来れば立ち止まりたくはないが、このままだと酸欠で自滅するかも。
途切れ途切れの息を整えつつも……フレイの事を少しばかり考える。
まだ生きてるよな?
……今はまず自分の事だな。
フレイはオレより強いし、ただの剣精に遅れをとるはずがない。
ようやく呼吸が落ち着いてきた。
よし、行くか!
「破壊剣技、衝破」
突然、体が吹き飛んだ。
比喩でもなく、揶揄でもなく、文字通り体が宙を舞っているのだ。
視界が上下左右と正確に判別できない。
どっちが空でどっちが地面だ?
答えはすぐに出た。
この体が地面に叩きつけられた事によって。
「ぐあっ!?」
頭の中で情報が錯綜する。
やられた?何を?誰が?
決まってる、この状況でこんな剣技をかますやつは……最悪の中の最悪だ。
ハズレをひいたのはオレの方か。
揺れる視界でその姿を視認する。
角アリだ。
先ほど始末した剣精と姿形はほぼ同じ。
ただその額に角が生えているのを除けばだ。
そしてただの剣精に比べて分かった事だが…凶気というべきか邪気というべきか、纏う空気が禍々しすぎる。
…なるほど。剣精の生態に詳しい学者さん、確かにこれは剣精の進化バージョンっていうのが頷けるわ。
剣精がまるで子供のように可愛くすら感じるよ、こんな化物を前にすると。
決して強力とはいえない衝破をたった一撃くらっただけでオレの体はボロボロなのがこれ以上ない証拠。
さて、人生最大の山場だな。
乗り越えられるか否か?
ふらつく体を何とかふるい立たせ立ち上がるが…
それだけで一苦労だ。剣を支えにしなければ立っている事さえ難しい。
角アリと目が合った。
その口が裂けるように、ニヤリッと大きく歪んだ。
オレを獲物と認識、更には弱者と判断したらしい。
事実、オレは狩られる立場にいる。
なめられたという悔しさよりも恐怖がそれを上回った。
化物風情がという怒りより、生物としての格の違いを見せつけられたんだ。
自覚した瞬間、体がガクガクと震えた。
死が形となって目の前にいる。
だが……それがどうした?
この程度の事で、オレは諦めがつくほどカワイイ存在じゃねぇって事をその気持ち悪い体に叩き込んでやる!
震えてる?
さっきのダメージが残ってるだけだ。
あと武者震いってやつ。
ふぅーー…
溜め込んだ空気を長い時間をかけて吐き出す。
「強化剣技、筋力増強設定」
対象は自身の肉体。
ムリヤリ戦闘に耐えられるように体を自己強化。
出し惜しみはなしだ、ありったけの魔素を赤刃に注ぎ込む!
赤々と輝き出したオレの剣に、しかし角アリは別段さほどの脅威を感じなかったのだろうか、無造作にこちらへと間合いをつめてくる。
狩られる獲物が何をしようとも無駄だってか?
…なら見せてやるよ、追いつめられた獲物の足掻きってやつを!
「ラアァ!!」
叫び、全速力で間合いをつめる。
筋力強化は腕と足の二ヶ所。
強化された足の筋力は普段よりも強く地面を蹴りつける事が可能となり、それによって速度は通常時に比べ三倍の速さを実現。
角アリにとっては予想外の速さだったのだろう、オレは完全に死角にまわりこんだ……はずなのだがさすが角アリと言うべきか、その反応速度がケタ違いにすさまじい。
すでにこちらへと体が向いている。
だが…遅い!
オレの強化した腕力は、今なら大木どころか大岩すら簡単に断ち切れる。
さすがに角アリといえどこれは防げない!
血が一面に散る。
「なっ!?」
驚愕。
現状を把握した瞬間はその一言に尽きる。
確かにオレの剣は角アリを斬った。
手応えも確かにあった。
しかしその戦果は角アリの腕一本に終わった。
角アリはオレが首を狙っている事を即座に見破り、たった腕一本を犠牲にしてオレの渾身の一撃を防いだ。
……やられた。
角アリもオレと同様に強化剣技を使っていたのか。
腕一本を硬化し、オレの攻撃を無効化。
硬化さえしていなければオレの斬撃は腕もろとも首を叩き落としていたはず。
攻撃直後の硬直。誰もが逃れられない絶対の法則。
腕一本を犠牲にしたとはいえ、角アリはオレの無防備な状態を対価として得た。
それはつまり勝利を手にしたと同じ意味。
角アリの残っているもう片方の腕……死の刃が今まさにオレの頭を叩き割らんと振り下ろされる。
これで終わりか…しょーもねぇ人生だったな。
フレイ、お前は生き延びろよ。
再度、一面に血が飛び散る。
先ほどよりも大量に。
それは誰の目から見ても致死量は確定だと断言できるほどに…………
vs角アリ戦!
主人公はやっぱ運がないのが相場。その分可愛いヒロイン達に会える女運が半端ないが…べ、別に悔しくなんかないんだからね!




