三話
主人公サイドに移行します。
フレイと別行動をとってから早くも二十分。
慎重に物陰に隠れつつ移動を繰り返す。
場所が山中だけに、ちょっとした茂みや木々の間など隠れ場所には事欠かないが、その分死角も多い。
常に発見されてしまうかもしれない緊張感、些細な違和感を見逃さないようにしつつ、かすかな音にも反応できるようにと五感その全てをフル活用して一歩一歩着実に移動する。
隠れながら移動してはいるが、傍目から見たらこちらから包囲網の敵に接近しているんだよな。
距離と範囲と剣精の数を考える限り、包囲網といえど一匹一匹の間隔はかなり離れている。
運がよければ一匹倒して包囲網脱出…なんて可能性は十分にある。
そんなわずかな希望を抱きつつ、また一歩と剣精に近づいていく。
遅かれ早かれどこかで必ず剣精とは接敵する。気は抜けない…のだが。
さすかに二十分間フルに全神経を集中していると、疲労がたまるのが早い。
「…これじゃあいざ戦闘になったら集中力不足で死亡コースかな?」
小声で独り言を呟くが、無論それに応える声などない。
元々そんなもの期待すらしてないが。
…ただ改めて実感するのは孤独感。
やべっ、体が震えてきた。
恐怖、不安、死ぬ?駄目だフレイみたいに死を受け入れるなんてマネはオレにはムリだ。
平常心を保とうとすればする程に頭の中がゴチャゴチャしてきた。
ふぅー…落ち着けカイン。深呼吸だ……よし、全周囲を警戒。
だが一息ついたにも関わらず、注意力がやはり散漫していたのだろうか?足が木の根に引っかかり態勢が大きく崩れる。
何とか踏ん張ろうとしたが……抵抗むなしく派手に転んだ。
咄嗟に両手を地面につけ、四つん這いの態勢で何とか地面とキスする事態を回避。
状況が状況だけに、思わず出かけた声だが我慢出来てよかったと一安心。
バッキイィ!
そんな一時は束の間、頭上で木が何かに削られた音が響き渡る。
なんでそんな音が?
決まってる、剣精だ!
全然接敵されてる事に気がつかなかった自分に思いっきり罵倒したい。
だが今は反省するヒマがあるなら戦う事に集中だ!後悔は後回し!
背後を振り向く時間などもったいなさすぎる。当たろうが当たるまいが構わず勘を頼りに剣を横薙ぎに払う!
「ギャアアァ!!」
手応えあり!
しかしやはり態勢が不十分だったせいか仕留めきれていないのもすぐに分かっていた。
というか静かにしろ、ご近所さんが集まってくるだろ!
下らん事を頭の隅においやって、すぐさまその場を転がりながら離脱、間合いをとる。
襲撃者である剣精と正面から対峙する。
「グウゥゥ」
威嚇しているかのようにうなる剣精。
奴のダメージを確認。
どうやら無我夢中で振った一撃は剣精の右腕を切断する事に成功したみたいだ。
まずまずの出だし。
剣精の右腕からは切断したヒジ辺りから激しく出血している。
あのまま放って置いても出血死は免れない。
いかに人間より優れた生命力があっても数十分はもたないはずだ。
…が現状、そんなに待つ時間などない。
奴のさっきの悲鳴で包囲しているであろう他の剣精に、オレの現在地は特定されたに違いない。
この一秒一秒にも、ここへ剣精の大群が押し寄せて来ているはず。
すぐにでもここを離れないと。
すぐさま走り去るオレを、しかし目の前の剣精もただでは逃がさない。
腕を斬られたのだから尚のこと、怒り心頭でオレに追いすがる。
「シャアアァ」
…速い!?
これじゃあ振り切れないぞ。
剣精は負傷を感じさせない動きでオレとの距離を徐々につめてくる。
剣精ってこんなに素早かったか!?
体格に比べて細い二本の足と尻尾を器用に使ってオレを猛追する剣精の図はなんかシュールだな……いやいや現実逃避している場合か!
まずい、追いつかれるというわけでもないが引き離す事もムリっぽい。
どうする?どうするの!どうするんだオレ!?むしろどうしたい!!?
立ち止まって交戦?いやいやいくら相手が一匹とはいえ、手負いの状態を差し引いても最低二十秒はかかってしまう。
その間に囲まれでもしたらそこで人生終了。
だがこのままでもマズイ!
このままこんな物騒な奴を連れたまま逃げるのも……うん、論外。
移動しているのにも関わらず常にオレの居場所が他の剣精に伝わっているかと思うと笑えねぇ。
……速攻で片付けるしかないな。
もちろん奴相手に二十秒もかけられない。
だが剣技を使えば予定の四分の一の時間で始末できる。
出来れば剣技の燃料とも言える魔素は今後の為にも十二分に残しておきたかったのだが……こんな状況では仕方ない、か。
決断すれば今までの迷いなどあっさり吹き飛ばし、覚悟を決める。
我ながらこういう時の切り替えの早さは一種の才能だなっと自画自賛しつつ、剣を握る手に力が無意識に入る。
「グオオオォォ!」
こちらの覚悟を本能で察したのか、剣精が防御など一切を捨てて捨て身で襲いかかる。
一瞬で縮められる互いの距離。
剣精の雑じり気なしの殺気。
恐怖は感じる。
だが…体は動く。
やれる!
愛剣であるC級、分類は聖剣。
八つある属性のうち火を司る、この剣の名は赤刃。
名の通り赤い刀身がオレを勇気づける、世界にただ一本のオレだけの剣だ。
「属性剣技、赤嵐」
切っ先を剣精に向け、幾分かの魔素を消費し剣技が発動!
真横に一直線で、攻撃目標である剣精に小規模な炎の竜巻が襲いかかる!
その攻撃速度はオレの使用できる剣技でも一番!
故に剣精は回避する動作(というかすでに捨て身だったからどうにもならなかっただろうが)すら許されず、その竜巻に胴体を丸ごともっていかれた。
正に竜が巻きとらんってか。
剣精は断末魔を響かせる事なく、残った剣精の下半身がグラリと支えを失って地面に倒れた。
よっしゃー!……と勝利の余韻にひたりたいが、今は一刻を争う。さっさとこの場から離脱だ。
斬った張ったのバトル回~。自分の想像力は貧困なので細かいバトルシーンは苦手です。やっぱドカーンと一発デカイのが気持ちいいよね~




