三十七・五話
恋する乙女は時には暴走するもんです。
「失礼致します」
部屋の主たる女主人に、部下である隻眼の男…名をトラード…が報告する為に入室する。
室内は本人の性格ゆえか、物がごった返している。
無価値な物、高価な物と関係なく一緒にされている部屋は中々に混沌としている。
そんな部屋の主たる女主人は布面積の少ない…下着姿と言っても差し支えない…実にキワドイ服装で机の上に足を投げ出し、座っている。
だが常日頃から、肌を露出している女主人に、今更驚くトラードではない。
確かに驚く事はなくなったが…女主人に仕えて十年経つというのに、欲情するのは抑えきれない。
何せ女主人は出会った頃から何一つ衰えをみせない…むしろ更に美貌は増し、美しい肉体を惜し気もなくさらしているのだから。
そんな部下の視線にこもる感情など、とうに知っている女主人は別段、気にもとめていない。
事実、女主人の視線はトラードが入室した時から、天井に固定されている。
「それで…件の男は見つかったかえ?」
放っておけば、そのまま見惚れているままの部下に、報告を促す女主人。
トラードは表には出さないようにしながらも、心中はやや冷や汗をかきながら、女主人に報告を正確に伝える。
つまりはまだ見つかっていないという失敗を。
「……見失った、か。特徴ある男だから、すぐに見つかるとおもったが……存外隠れるのが上手いのぅ」
「申し訳御座いません」
トラードが見失ったわけではないが、女主人には関係ない。部下の失態は筆頭従者たる己の失態。
言い訳など出来ない。
床にまで頭がつくほどの深いお辞儀に、しかし未だ女主人の視線は天井から動かない。
「まぁ、あの男相手なら仕方あるまい。なんと言っても…」
そこでようやく女主人の視線が動き、頭を下げたままのトラードへ向ける。
そしてトラードだけではなく、女主人に仕える全ての部下が欲してやまない言葉を、どこぞの輩に告げる。
「あの男は妾の愛した唯一の存在、ゆえに手強いが…必ず妾の前に跪かせてみせよう」
女主人は濡れた瞳をうっとりと窓の外へと向ける。
その声音に含まれた女主人の感情にはもちろん気付いたトラードは、油断すれば思わず洩れそうになる嫉妬の言葉を必死に飲み込んだ。
だが溢れんばかりの怨嗟は隠せない。
女主人の想い人たる存在をただ呪う。
何故、女主人の寵愛を無下にするのか…トラード達には信じられない。
女主人の想いは一方通行。
誰もが羨む美貌をもつ女主人の告白を断るなど、そんな愚か者には殺意しか湧かない。
それは何もトラードだけの感情ではない。
今、その相手を探す探索部隊の全員も同じ気持ちだろう。
やや暴走しがちともいえるが、トラードは止める気はない。無事にその相手を探しだし、女主人の招待を断ったなら直後に躊躇いなく殺しても部下達を責める気にはならない。
むしろそうしたら褒めてやりたい位だ。そんなトラードの心中など歯牙にもかけない女主人は
「あぁ…早く会いたいぞ、ヴェルガード」
想い人の名を呟く。うっとりと。
トラードはその名をひたすら呪う。
必ずや女主人の元に引きずり出し、少しでも不快にさせたなら、くびり殺してやると決意し部屋を後にする。
「必ず見つけ出す……!」
憤る感情に更に燃料を注ぎ込み、トラードは廊下を歩き出す。
その背には殺意が隠せぬほど滲みでていた……
男の嫉妬はみっともないと言われますがそんだけ本気って事ですよね~。




