二話
こんな駄文を読んで下さってる貴方に感謝を。
「角アリって……マジか?」
今なら冗談って言ってくれれば笑うぞ。
だがフレイは嫌になる位にいつも通りに
「十中八九、間違いないね。剣精がこんなに群れる事自体が非常なのに、あの奇襲に現在の包囲網形成……こんな軍隊並の統制とれるのなんて角アリ位だよ」
淡々と絶望的な事実を告げていく。
改めて…これは本気に死亡確定コースだと認識。
角アリとは剣精が更に一段階上へと進化した存在だと言われている。
角アリ自体の目撃件数も少ない為、個体数自体が非常に少ないと、剣精の生態学者が報告している。
その割合は通常の剣精の一万分の一が妥当だとか。
外見の特徴らしい特徴も呼称されている角が生えている位のもので、他の部位は通常の剣精とあまり大きな違いはないらしい。
らしいのだが……その強さは通常の剣精の数倍から十数倍とも言われ中身は全く別物らしい。
しかも知能が高く、剣使のみが使用できる剣技すらも使いこなすというのだから恐ろしい。
ただあくまで生態学者の書物の内容を全て信じればの話だ。
あまりにも作者の主観が入り過ぎている書物は半ばフィクションだとすら思っていい。
これは自分の経験談ではあるが、昔読んだ一冊の古い書物には角アリよりも更に上位種が存在し、この世界とは別の世界にいると書かれていたのだ。
…別の世界って。
内容は面白かったがそのあまりの突拍子もない内容に思わず苦笑いしたのを覚えている。
「カイン」
思わず現実逃避していた所をフレイの声で呼び戻される。
「何だ?遺書ならすでに用意してあるぞ」
半ば投げやりに応答。角アリという存在に行き当たったせいか下らん冗談すら口に出来る。
無論、遺書など用意どころか一文字も書いていない。
だがフレイは意外にもそれを信じたらしい。口からはまるでこの世の終りだと言わんばかりに
「な…に……すでに用意してあるだと!?」
と驚愕している。
いやそれ程の事か?もっと違う反応があるだろ相棒よ。むしろその驚きぶりにオレが驚くわ。
「くっ……不覚!死の前準備でカインに遅れをとるとは…」
なんかスゲーショック受けてるよ。本気か?だとしたらイタイな~
「ブツブツ…ブツブツ……カインに………遅れを…ブツブツ………」
うわ本気だった!?いくら数少ない友人とはいえこれは引くわー…
地面を睨んでいたフレイの視線が突然オレへと向けられる。
ちょっ、目が血走ってて怖いわ。
「このままでは死ぬに死ねん。生きてこの場を脱するよカイン」
「………………」
「カイン?」
僕の空耳か?
それとも神は本当に存在するのか?
たった今、フレイの口から奇跡の言葉が発せられた。
生きる、だと!?
年中ネガティブ思考のネガティブ発言しかしないフレイの口からそんな言葉を…………
今日は本当にオレの命日になりそうだ。それほどにあり得ない。
「おーい、カイン。どうしてフリーズしてるんだ?」
「…………あぁ、いや予想外の外の外のその外側の言葉があり得ない所から聞こえたから思わず脳がフリーズした。うん、よし、もう大丈夫」
「?……大丈夫ならいいが。とりあえずこの包囲網を抜けるとしよう」
「簡単に言うけど…何か策でもあるのか?」
ちなみにオレには一つも策は思いつかないのだが。
「策と言うほどではないけど…とりあえずここからは別行動だね」
「はぁ!?」
何をほざくこのバカは?
「その方がお互い生き残れるよ」
「いや逆だろ!二人一緒の方がまだ可能性が……」
「そっちの方が危険だよ。少なくとも別行動で抜けた方がどっちかは生き残れる可能性がふえる。二人一緒だと…まぁほぼ全滅だね」
今までフレイの推測はあまり外れた事はない。つまりは…選択肢はないってことか。
「別行動なら…一人は生き残れるんだな?」
「確率が若干上昇するね。まぁ運と実力の数値が足し算じゃなく掛け算でもされない限りはお互いどころか一人も生きては帰れないだろうね」
……それはほぼ不可能って事か?
喉までそれが出そうになったが押し止める。
そして同時にフレイに対して畏怖を感じた。
他人だけではなく、自分の命すら数値として計るその感覚に。
長くもないが短くもない時間を共にしてきたが未だにコイツの本質…というべきか?底が見えない。
「生き残れるとしたらB級剣使であるフレイの方だろうな」
冗談半分、本気半分でそんな事を口にするオレをフレイは
「僕としてはどっちでもいいけど…もし生き残れたらこのまま中央で死亡扱いされて忘れ去ってほしいよ」
と、これまたフレイの口からも本気なのか冗談なのか判別出来ない事を口走る。…いや半ば以上は本気か?
結局どちらとも判断がつかない間にフレイが続ける。
「国なんてものに執着はないし、剣使の位もまたしかり。もし生き残る事が出来たなら…当面は自分の墓を建てるにふさわしい土地を探し回ろうかな」
…すでに人生の終着点がビジョン化されているのか?
やっぱよく分からん奴だ。
思いついたままに聞いてみよう。
「候補地としては南方の大雪原?北方の砂海?東方の果ての荒野?……どこだ」
「西方の草原」
意外とマトモな返答に少なからず驚いた。一番ないと思っていただけに候補にすら挙げなかったんだが…
「そこの野生の肉食獣に死体となったボクの体を余す事なく食いつくしてほしい。骨も残さず」
…やっぱ変人か。
「さて、そろそろ本格的にマズイね。包囲網が徐々に狭まって来てる。行くとしよう」
「ああ」
「運よく二人共生き延びるか、どちらかが死ぬか、あるいは全滅か…どうなるかは神のみぞ知る、だね」
「どうなるやら…でもお互い運がよければまたどこかで会えるだろ?」
「確かに。…それじゃあカイン、また」
これが今生の別れになるかもしれないというのに、実に軽い足取りでこの場を去っていくフレイ。
これから死線をくぐり抜けるとは思えない自然体なその後ろ姿がなんだかとても頼もしく見えた。
別行動での包囲網脱出。
要は互いが互いの為に囮となる。
先にみつかれば圧倒的に不利だがどうせ二人とも包囲網の中だ、いずれは見つかる。
それに見つかった方は、粘れば粘る程に包囲網の形は崩れ、残る相方を逃がす事につながる…
「はずだよな?」
不安は残るがもう遅い。すでに状況は開始されたのだ。
あとはなるようにしかならない。
次はちょっち短い予定っす。あくまで予定だぴょん。