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剣と龍と神  作者: カナメ
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一話

やっと主人公がキター!

「フレイ何とかしろ!」



全力で走りながらも隣を並走する相棒に、焦りと不安が五分五分で入り雑じったオレの叫びにしかし肝心の相棒は



「ムリだ。二人とも死ぬ方向で決まりだ」



と、冷めた声で返す。

そんな方向は死んでも御免だ!

…ちなみに決して相棒はどんな状況下でも余裕をなくさないとか、最後には何とかなるというポジティブ思考の持ち主ではない。

言葉通り、死を受け入れているのだ。

はっきり言って戦場で生き残れるタイプではない。

だが過去三年間、出撃回数は百を超えるというのに未だ生き残っている。



理由は簡単かつ簡潔。

ただ強い。

その一言。



「カインしゃがめ」



先ほどと同様の相棒の声のトーン。しかし逆らいがたい何かにオレの体は拒否せず素直に指示に従う。

直後、頭上を何かがすさまじい勢いで通り過ぎる!

すぐさま態勢を立て直し、背後へと視線を向ける。

そこには人外の化物がいた。



剣精



その外見は名前からは想像しにくい異形の物。

黄色い血走った四つ目。体格は平均的な成人男性と同じ。足だって二本だ。…他の部位は違うが。

剣精の姿勢は常に前屈みが基本だ。尾てい骨から生えているであろうシッポでバランスをとっている。

体格のわりに足が細いのがその理由だと考えられている。



そして人間とは最も違う部位こそ腕だ。指と呼ぶべきものはない。人間でいうヒジから先が刃なのだ。

まさに戦うだけの為に生まれた存在。

無差別に人間を襲うまさに害悪!人間の敵!



「ガァ……ゴァ………」



その敵である剣精の体がガクガクと震えているのは、オレの気迫に圧されて……などという事ではない。

フレイの剣が剣精の心臓を突き刺さしているからだ。

フレイは剣精の体を荒々しく蹴りつけ剣を引き抜く。



「どうやらコイツがボク達に引導を渡す存在ではなかったようだね」



揺るがないネガティブキャラだな。

だが強い。頼りになる相棒だな。



フレイとは同じ国に仕える剣使。

剣使一人で一般武装兵百人と同じ戦力とされる。ちなみに最低でも百人だ。

剣使のランクは五段階に分けられる。

一番下からD、C、B、A、そしてS級。


ランクが上がれば上がる程、その戦力比は飛躍する。

フレイは少なくとも五百人分の戦力をもつ剣使。

階級でいえばB級だ。

本来なら中隊規模を丸々一つ任せられる実力をもちながらも未だ中隊の副隊長におさまっているのは本人の出世欲のなさと性格ゆえだろう。

ちなみに同じ副隊長であるオレはC級。

戦力比は三百人。

…たった一つの階級でこれほどまでの差がある。デカイ壁だな。



そもそも剣使とは何か?


常人をはるかに凌ぐ異能力者。


純粋な暴力が形となった剣を振るう者。

心弱き者は剣に使われ、強き者だけが剣を使いこなす。

前者は己と周囲に破滅を。

後者は己と周囲に恩恵を。


それぞれ平等に与える。


無償で。

無差別に。

無慈悲に。


その者が望もうと望むまいと。


剣の化身、剣獣は平等にその姿を現す。

…その異能を手にした者は例え女子供であろうとも常人をはるかに超えた次元へと強制的に招き、絶大なる力を授ける。


だからこそ、どの国々も優秀な…高位の剣使を求めている。

一人で城をも落とすA級。

それが十人もいれば一国を手にしたと同等の戦力。

今や戦争は兵隊の数ではなく、剣使の数で他国への抑止力としていた。



…そもそも、今回の剣精討伐においてもただの一般兵より剣使部隊を送った方が犠牲は少なく、金もかからないし何より確実だったのだ。


そう、確実に成功するからこそ剣使一個中隊二十名が動員されたのだ。



なのに……



「現状はオレ達を除いて全滅とは…最悪だ」



理由は簡単。情報が古かったのだ。



「中央の情報士官を半殺しにしたいよ。辺境の情報士官じゃなかった時から嫌な予感はしてたけどな」



過去にも何件かあったのだ、誤情報の類いは。

しかし今回はそれら全てが可愛く感じる誤情報だった。



「確か事前情報は三十匹だったね。……会敵した状況を思い返すとその三倍はいたね。やばいね」



……相棒のこの危機感のなさはどうにかならないのか?

いっそのことオレも死を受け入れればあんな境地に立てるのか?

とにもかくにもそんな考証はここから生き延びてからだな。



「さて、この危機をどう乗り切るべきか…何か作戦はないかフレイ?」



「そうだねぇ……少なくともボクとカインにあまり時間は残されていないね。囲まれているよ」



大した事でもないとばかりの、いつも通りの口調。ただ内容は物騒極まりない。

あまり詳しくは知らないが、フレイの剣は探査能力が備わっており、しかもその情報は信頼性が高い。

本国の情報士官よりは百倍役立つ。

ただこういう状況でなければ非常にありがたい情報なのだが…今は絶望を突きつけられた事と同意義なのであまり嬉しくはない。



「何で討伐前に探査しなかったんだ」



今更こんな事を言ってもムダなのは百も承知だが、どうしても恨み言の一つや二つは口から出てしまう。

相棒が悪くないのは知っていてもだ。

仕方ないじゃん人間だし。オレは聖人君子じゃない。

ただそれでもフレイの声音はいつも通り。



「隊長が我先にと突っ込んでいったからね。探査するヒマもなくこんな山中まで来て突如の奇襲……正直に言わせてもらえば、あの奇襲から生き延びたのはボクだけだと思ってたよ」



ホントに正直なお言葉だね、フレイ君。



「……剣精ってこんなに頭よかったか?」



何となく気になった疑問をフレイに問いかける。

今までの経験で奴等が奇襲なんてものを仕掛けてきたのは今回が初めての事態だ。

今までは一匹ずつ個体で動き回っている奴としか戦った事がない。

何せ剣精が群れる事などないはずだからだ。生態学者もそう結論したのは有名だ。

だからこそ隊長も深く考えずに突撃したのだろう。

剣精は決して弱くもないが強くもない。剣使であれば最下級のD級でも倒せる。

一般武装兵でも五十人から百人いれば倒す事は可能だ。


だからこそ今回は異常すぎる。


剣精が三桁近くの群れをなし、集団行動を行うなど。あまつさえ奇襲を仕掛けるなんて・・・・・・

上司である中隊長や部下だった隊員も経験した事のない出来事だっただろう。

剣精の奇襲により戦場は一瞬で混沌と化し、部隊は混乱。

一対一なら遅れをとらない剣使達も数の不利もあって次々に倒れ伏していった。

一般武装兵、百人分とも言われる戦力を持つD級剣使が十七人。そのことごとくが殺されていった光景は正に悪夢。



そんな中でもフレイと同じB級剣使だった隊長はさすがというべきか、混乱極まる戦場で十体以上もの剣精を斬り伏せていたが………



「剣精に知能なんてものは皆無だよ。アレはただ本能の赴くままに、だよ」



「ならなんで今回に限ってこんな……」



「考えられる可能性は角アリだね」



オレの言葉を最後まで言わせず遮ったフレイの意見は最悪の可能性だった。

主人公が活躍しない…そんな物語もアリだと思う。……やっぱないか。こういうのは徐々にだよね、ジョジョだけに。……サーセン。

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