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Messenger  作者: 人肉遊離
11/11

メッセージ

 陽人が仕事を済ませて部屋に戻ると、中には誰も居なかった。妙にしん、と静まり返っている。

 カサ、と物音が聞こえた。人の気配に気が付いたのか、ハナが物陰から顔を覗かせていた。陽人はふっと表情を緩めて、着ていたジャケットをイスの背に掛けた。

 男はおそらく隣の老人に誘われたか、散歩にでも出掛けているのだろう。

「ああ、おかえり」

 そう言って笑う姿が見えないことが少し物足りないように感じた。男が来る前はそれが当たり前だったことを忘れていた。

 空になっていたトレイにエサを入れてやると、ハナが顔を突っ込んで夢中になって食べ始めた。ふと見た、テーブルの上に封筒を見つけた。

「何だ、これ」

 その白い封筒には陽人へ、と書かれていた。確かに、自分に宛てられたものだ。裏返して見たが、差出人の署名は無かった。中には1枚の便箋が入っていた。3つ折りのそれを開いた。

 陽人はその手紙を読み終えるや否や、上着を引っ掴んで慌てて部屋を飛び出した。



『……陽人。俺は、もうすぐ消えちまうみたいなんだ。なあ。わけわかんねえかもしれねえけどさ。信じらんねえのは俺も一緒だよ。ほんとの俺って奴がお前に会いたいって言ってるんだ。そいつから詳しい話は聞いてくれ。お前と俺が、初めて会った場所。そこに居るから』



 息を切らして駆け付けた先の公園には、既に先客がいた。時計台の下、そこに座っていた男が陽人に気付いて立ち上がった。

 顔を上げた、男はにっこりと微笑んで陽人を迎えた。間近に見た、男は平助とそっくり同じ姿をしていた。

「……黒谷さん、ですよね。初めまして」

「ああ」

 男が差し出した手を、陽人が握り返した。

 陽人は男と並んでベンチに腰掛けた。昨日からずっと振り続いている雪がちらちらと舞っていた。男はどこか落ち着かない素振りをしていた。

「僕は、ベルといいます。急に呼び出したりしてすみません。……あの」

 ベルは少し戸惑った様子をしていた。すう、と息を吸い込んでから、ふうと吐き出した。

「……黒谷さん、超能力だとか、その、……不思議なことが本当に起こるなんて話を、信じてもらえますか?」

 陽人は静かに頷いて答えた。ベルがふっと表情を緩めた。

「ここに居たんだ、お前の言うことなら信じるよ」

「ありがとうございます」

「んな、堅っ苦しい話し方しなくてもいいよ。俺のことも、陽人でいい」

 ベルはにっこりと頷いてもう一度、ありがとうございます、と言った。

「僕は10年前に、あなたに助けてもらったんですよ。あなたと、もう一人。あの場所で、閉じ込められていた僕の事を助け出してくれたおかげで、今ここに居られるんです。もうずいぶん昔の話になってしまうんですけど、覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、覚えてる。いや、忘れられなかった。俺はお前のことを助けるどころか、あんな町ん中で置き去りにしちまったんだって。ずっと、どうしてるか気になってたよ」

 ベルはふっと笑った。

「僕のことは、あれから朝早くに散歩をしていたおばあちゃんが見つけてくれたんです。その時、僕は口が利けない状態でした。まともに喋れるようになったのはそれから随分後の事です」

 ベルは陽人をじっと見つめた。

「僕は、……あなたに会いたかった。あの時は、お礼も言えないままでした。あなたに、ちゃんとお礼が言いたかったんです」

 ベルがぐっと顔を顰めた。陽人は怪我の事を思い出し、ベルの体を支えてやった。未だ癒えない傷が痛んで、辛そうに見えた。陽人はベルの体を支えて、ベンチに横たわらせた。ベルの姿と、遠い昔の少年の面影が重なって見えた。

「お前が生きてるってわかっただけで、俺には十分だよ。……ありがとうな」

 しばらく楽な姿勢で体を休めるうちに、ベルの具合は良くなったようだった。雪はまだ降り続いている。クリスマスの日を彩るように、辺りを白く染め上げた。

「寒いか?」

 陽人が訊いた。

「いえ、平気ですよ」

 ベルがそう答えた。

「無理すんな」

 陽人が着ていたジャケットを脱いで、ベルに羽織らせてやった。

「……はい、僕は、寒いのは苦手なんです」

「……知ってるよ。まあ、これじゃ気休めにもなんねえけど、ちっとはマシだろ」

「不思議ですね。あなたとは、なんだかずっと一緒にいたような気がします」

 ベルがくすっと笑った。

「……そっか、平助は、もう居ねえんだなあ」

 2人は、他愛もないことを話した。次第に暮れていく中、公園のベンチに横並びに腰掛けていた。



 ベルを乗せた車が遠ざかって行くのを、陽人は見送っていた。

 1人、時計台の下に座った。辺りはすっかり暗くなっていた。男が倒れていた辺りを、見るともなしに陽人は見ていた。ポケットから取り出した手紙を広げてみた。

 手紙の最後にはこう書き込んであった。


『俺は、陽人への伝言も忘れちまった、マヌケなメッセンジャーだよ。短い間だったけど、ありがとう。俺から、あんたに伝えたい言葉があるんだ。あんたは、あんたの大切な人を見つけなよ! ……それじゃあ。平助より』



 後部座席に乗り込んで直ぐ、ベルは疲れたのか眠ってしまったようだった。隣でジルが心配そうに見つめている。匠海の運転する車は南の方角へ向かっていた。それに気付いた浩平が言った。

「匠海ー、どこ行ってんだよ?」

「なんだ、君は僕のやることに口を出すのかい? 少しぐらい寄り道をしたっていいじゃないか」

 浩平がにやにやと笑っている。

「素直じゃないね」

「信号待ちが楽しみだ」

 車は匠海の研究所とは反対方向に向けて進んで行った。ベルが幸せそうな顔をして、がっくりと項垂れた。



 陽人は10年ぶりに海辺の町に戻ってきた。町は長い年月を経てすっかり様変わりしていた。

 焼け落ちたアパートの代わりに、立派なアパートが建てられていた。陽人は昔を思い出すように、町の中に面影を探して歩いた。

 浜辺は今も変わらずにそこにあった。季節柄、陽人以外に人は居なかった。陽人は岩場にある、小さな穴を見に行った。奥を覗き込んでみた。ヒナタの指輪が見当たらない。台風やなんやで飛ばされでもしたのかもしれないな、と陽人は思った。

 ふと、奥に何かを見つけた。手を伸ばしてみた。掴んだ物は、見覚えのある大きな巻貝だった。陽人はああ、と声を上げた。

 波が絶えず寄せては返す音が響いている。陽人はその貝殻を上着のポケットに仕舞い込み、砂浜を蹴って走り出した。

読んで下さった皆様、ありがとーございました!

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