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その6:三日後……

ウォルガレンの滝破壊未遂の事件から、三日が経過した。マスカーレイドは普段どおりの平和な毎日が続いている。

 オートエーガンの店内は開店からまだ時間が経っておらず、いつもの位置にいつもどおりクネスがいるだけだ。

「いらっしゃいませ。あ、ハンターさん!」

 現れたハンターに、ニオが明るく声をかける。そばでは白いフリフリのエプロンを着けたシェラが、モップで床を掃除していた。

 ハンターは顔を曇らせたまま店内へと入ってきた。顔色も悪く、どうも元気がない。

「どうかしたの?」

 コップに水を入れて、ハンターの前に出しながらニオが尋ねる。ハンターはぼそりとつぶやいたが、ニオには聞こえなかった。

「えっ、なんて言ったの?」

「レスチアが無罪になったって言ったんだ」

「へぇ、無罪かぁ……って、無罪! どうしてよ!」

 慌てふためくニオに、ぼそぼそとハンターが話を続ける。

「王都警備部隊ってのがいてな。まあこいつらが各地で起こった犯罪者を取り調べたり、有罪か無罪かってのを裁判で判断したりするんだが……どうやらその部隊の上層部に、レスチアと組んでいる輩がいるらしい」

「レスチアと組んでいるって、どういうことなの?」

「つまり、ウォルガレンの滝を壊し、ホテルを建てることに賛成だってわけだ。レスチアがホテルを建てた暁には、相当な額がそいつに転がり込むことだろう」

 バンッ! とカウンターに拳を叩きつけ、ハンターが歯軋りを鳴らす。

「それじゃあ、そいつがいる限りレスチアを有罪にすることは出来ない……」

「そういうことだ。そしてレスチアはいろいろな手段を用いて、ウォルガレンの滝を破壊しに来るだろう」

「そんな……」

 緊迫した雰囲気が、店内を駆け巡る。

 と、突然クネスがハンターの元へと歩いてきた。

「気にしなくてもいいんじゃない? ハンターさん」

「どうしてだ?」

 ハンターが訪ねると、クネスは事も無げに答えた。

「まず、レスチアは偽の許可証を使って工事をしようとしていた。ということは、正式な工事の許可を取るのは難しいと考えられる」

「まあ、そうだろうな。王都を統べるシングマス五世はウォルガレンの滝が大のお気に入りで、時折お忍びで観光に来てるぐらいだからな」

「そうだったの?」

 驚きの声を上げたのはニオだ。生まれてからずっとマスカーレイドに住んでいるニオも、王都から王様が来ているなど初耳だった。 

「となると、これから先も許可を得ることはないだろう。だったら工事を中止させるのは簡単だ。それに……」

「それに?」

 いつの間にかそばに来ていたシェラが、会話に参加しようと聞き耳を立てる。

「それに、僕たちはウォルガレンの滝が狙われてることを知っているし、レスチアの顔も知っている。滝は日ごろから警備すればいいし、レスチアがマスカーレイドに現れたら警戒を強めることもできる」

 三人とも納得したのか、ほぉーと感嘆の声を上げる。

「他にも理由はあるさ……ん?」

「どうかした?」

 クネスは口の前で指を立て、ニオを黙らせる。そしてポンと手を打つと、

「そうか、なるほどな。うんうん」

 一人で頷いている。三人がどうしていいか迷っていると、クネスは自分の特等席へと戻っていった。

「ちょっと、クネス!」

「そうかそうか……主人公の友人に情報通を入れれば、話がドンドン広がるぞ!」

 言いながら原稿に小説を書き進めていく。どうやら小説に使ういいアイディアが浮かんだらしい。

 こうなると当分、クネスは小説の世界から出てこなくなる。周りがまったく見えなくなるのだ。

「ふーっ、まあ気にしてもしょうがないのかもね」

「そうだな。おれも昔の友人とかに声をかけてみよう。うまくいけばレスチアを無罪にした黒幕が分かるかもしれん」

「昨日の今日で、また来るほどレスチアも馬鹿じゃないだろうし」

 三人はそれぞれ納得して、それぞれの仕事に戻った。シェラは掃除、ニオはハンターの注文になるであろうAランチ肉抜きを調理しに、そしてハンターはそれを待つ。

 数分後、ニオは裏のキッチンからAランチを持って現れた。

「はい、お待ちどうさま。ハンターさん」

「んっ?」

 ハンターは運ばれてきた食事がいつもと違うことに気がついた。見た目は普通のAランチ――そう、普通のAランチなのだ。

「ニオ、これ肉が抜いてないぞ?」

 ハンターが尋ねると、ニオはペロッと舌を出した。

「今日だけはハンターさんにお仕置きだよ」

「おれにお仕置き? どうして」

「ウォルガレンの滝を売って、わたしたちを裏切ったお仕置き」

「ちょっと待て。あれは芝居だったんだぞ」

 抗議するハンターにもニオは動じず、ニッコリと笑ってみせた。

「そう、だから今日一日だけ。もし本当に裏切ってたなら、出入り禁止になってたんだから。そう考えたら安いもんでしょ?」

 店内の隅で、シェラがクスクスと忍び笑いをしている。ハンターはAランチの肉を突っつきつつ、脇にどけようとした。

「言っておくけど、オートエーガンでのお残しは、わたしに対する挑戦状として受け取るからね」

 口に手を当てつつ高笑いを放ったニオは、裏のキッチンへと入っていった。

「シェラ、こっそり肉だけ食ってくれよ」

 ハンターの申し出にシェラは、

「肉の追加なら喜んでするわよ。わたしも傭兵としての職を失った恨みがあ、る、し」

 ププププと口を閉じたまま笑い続けるシェラ。店内に着いたときよりも、ハンターの顔色が一層悪化していく。

後ろを振り向いてクネスを見るも、やはり小説の世界に入り込んだまま戻ってきていない。

「くぅ……」

 意を決して口の中に肉を放り込む。苦虫を噛み潰したような顔に、こっそり覗きこんでいたニオとシェラの笑声が、豪快にこだまする。

 今は平和な日々をこなしていくマスカーレイド。だが、これから先、マスカーレイドはいろいろな事件へと巻き込まれていくことになる。

 ウォルガレンの滝との共存を望むマスカーレイドの住民の願い――それだけはいつまでも変わらない。たとえ、どんな事件に巻き込まれようとも――。



〜END〜

 初めまして。水鏡樹というものです。

『マスカーレイドに異常なし!?』はいかがだったでしょうか?

 このマスカーレイドという街は、個性的な住人の多い面白い(住人にとってはそうでもないかもしれませんが……フェミリーとか(笑))街です。

 今後も住人たちの活躍&災難をどんどん執筆していきたいと思いますので、気に入っていただけた方は時折覗いてもらえると幸いです。

 感想などすごく力になりますので、暇があれば評価&コメントもお願いします。

 それでは♪


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