その4:ウォルガレンの滝防衛作戦
「いやいや、よくやってくれたハンター君。約束どおりあの役立たずの前金を支払おうではないか」
ハンターたちの控え室とは別の、工事の資料や指揮をとるための簡易事務所に、ハンターとレスチアは戻ってきていた。
黒い革張りのソファーは、プレハブ小屋にはまったく不釣合いだ。残りのスペースには事務のために使われるであろう机が四つ。ハンターはその机の上に腰掛けていた。
ハンターの脇に、先ほどシェラが投げ返した封筒がドンと置かれる。ハンターは中身を確認してから、迷彩服の内ポケットへと入れた。
レスチアがソファーへ全体重をかけ、大きく息をついた。ソファーは迷惑そうに見上げながら、表情を大きくゆがませている。
「それに比べてあの女剣士は見かけ倒しだった。まったく、もうちょっと骨のある悪党はいないのか」
「そりゃアンタに比べれば、おれだって骨のある悪党じゃないからな。そうそういない」
「ほう、それはどういう了見かね?」
大袈裟にハンターへと指を突きつけ、レスチアはハンターの言葉を待つ。
ハンターは手近にあるファイルの一つを手に取ると、パラパラとめくって一枚の資料を取り出した。それには工事許可証という見出しにいろいろとかかれており、最後に王都のものであろう印鑑が押されている。
その許可証をレスチアに突きつけると、ハンターは口元をほころばせた。
「王都の許可を取ったなんて嘘だろ?」
「な、なにおぉ!」
慌てふためくレスチアを尻目に、ハンターは持っていた許可証の印鑑部分を指差す。
「あらゆる許可を王都からもらうとき、必要不可欠なのがこの印章だ。本来の印章は王都シングマスという表記に続き、王の名前と即位番号が表記されている。だがこの印章には王都シングマスという表記と王の名前は書かれているものの、即位番号が足りない」
「ばかな、そんなはずはない! 今までの印章だって即位番号など記されていたものはないぞ!」
「普通はわからんだろうさ。特殊なレンズを通すことで、初めて浮かび上がる代物だ」
言いながら、ハンターはポケットから直径五センチ程度のレンズを取り出した。
「な、なぜそんなことをお前のような賞金稼ぎが知っているのだ!」
「昔、王都で働いてたことがあったのさ。このレンズもその時に失敬したものだ。この印章はこのレンズで見ても、即位番号は記されていない。つまり、この許可証は偽物ってわけだ」
「ぐぐぐ……」
反論できずにギリギリと歯軋りを立てるレスチアの前で、フッとハンターは表情を和らげた。
「まっ、おれは金さえもらえれば細かいことを言うつもりはない」
「ほ、本当か?」
レスチアの歯軋りが止まり、パッと顔を明るくさせる。ハンターは工事許可証をファイルへと戻した。
「もちろん未払い時には雇い主と言えど牙をむくがな」
ファイルを置くとほぼ同時に、素早く抜いたデザートイーグルをレスチアの眉間へと突きつける。だが、レスチアは慌てもせず、逆に不適な笑みを浮かべ出していた。
「フッフッフ、君の言うとおりだよハンター君、確かにその許可証は偽物だ。だがそうなると、きみも相当な悪党だな。偽りの許可と分かっておきながらわたしの手伝いをするのだからな」
「なんとでも言え。そんなことよりさっさと工事の準備を完了させたほうがいいんじゃないか?」
ハンターの意見であごに手をやり、レスチアは小さくうなずいた。
「そうだな。まだ準備は完全とは言えんからな。ハンター君、きみはマスカーレイドの連中が来るまで待機しておいてくれたまえ」
「そうさせてもらうよ。工事の手伝いなんてできないし、したくもないしな」
鼻歌を歌いながら事務室を去っていくレスチアを見送り、ハンターはソファーへと腰を下ろした。
「さてと、もうすぐ仕事も終わりだな……」
指の骨を鳴らし、腕を組んで事務所を見渡すハンター。一瞬だけ不敵な笑みが浮かんだものの、戒めるようにすぐさまその笑みは消えていった。
ニオの意識が戻ったとき、最初に視界に入ったのは天井だった。
体の上下にはふんわりと柔らかい布団の感触、どうやらベッドの上にいるらしい。
鼻をくすぐる薬品のにおいに、白を基調とした清潔感あふれる部屋。
そこがアクサ医院だと理解するのに、そう時間はかからなかった。
「やっと気がついたかい、ニオちゃん」
目線を声のほうへと向けると、そこにはユキの姿があった。隣ではラビが心配そうに手をあわせている。
「わたし、どうしちゃったの?」
「覚えてないのかい?」
ユキに向かって軽くうなずく――と、とつぜん首筋に痛みが走った。
「いたっ!」
顔をしかめつつ首筋を押さえる。触った限り異常は感じられなかった――が、ラビの目が潤みだしたところをみるとそうでもないらしい。
「あまり無理はしないほうがいいよ。アクサ先生もそう言っていた」
微笑むユキにニオは少し安心していた。ここにもしラビしかいなかったら、首筋の痛みが重症だと勘違いしただろう。
「ハンターにからかわれて、突っ込んで行ったのは覚えてるかい?」
「うん、なんとなくだけど……」
「ニオさんったらハンターさんにからかわれたとたん、とつぜん目の色を変えてハンターさんに襲いかかったんですぅ! ラビたちびっくりしちゃって、もうどうなることかと思いましたぁ!」
ラビの容赦ない大声に、ニオは耳に指を入れて音量を調節する。
ニオの記憶が正しければ、ハンターへと突っ込んだあと、一瞬にして目の前が真っ白になったはずだ。
「撃たれるかとおもったらハンターさん、銃のグリップでニオさんの首筋を殴ったんですぅ! ニオさんそのまま気絶しちゃってぇ! 慌てて店長と一緒にアクサ医院まで運んできたんですからぁ!」
横ではユキが腕を組んで、うんうんと何度もうなずいている。
「わたし、重かった?」
「そうじゃないですぅ!」
ラビはニオの寝ていたベッドに、両手をおもいきりたたきつけた。
「どうしてあんな危ないことをしでかしたのかと言いたいんですぅ! 相手は拳銃を持っててニオさんは丸腰ですよぉ! 勝ち目なんてないじゃないですかぁ!」
顔をニオの側、おでこがくっつくぐらいまで近づいてきたラビの真摯な目線に、ニオは顔を伏せてしまった。
「なんか、悔しかったんだ……」
ボソッとつぶやく。ユキには聞こえていなかったが、近づいていたラビには十分に聞こえていた。
「だって、ハンターさんとは毎日顔を合わせてたし。いつも談笑して、仲間だって、ずっと思ってたから……」
ニオの目から、水滴が落ちる。あわててラビは身を引き、ポケットの中に入っていたハンカチをニオに手渡した。
だがニオは受け取らず、服の袖で豪快に拭いさってしまった。
「困った時とか、いつも相談に乗ってくれてた。その時はお金なんていらないって言ってくれたのに。こんなことなら……」
「ニオ……」
二人はニオを慰める言葉を懸命に捜していた。ラビの目は再び潤み始め、ユキはあごをこぶしの上にのせて、顔をしかめている。
そんな二人の心配をよそに、ニオは拳を振りかざして叫んでいた。
「こんなことなら、Aランチの肉抜きなんて注文、拒否してやればよかった!」
ユキのあごはきれいにこぶしから落ち、もう少しでイスから転げ落ちそうになった。ラビにいたっては目をうるませたまま、周囲から声の出所を探そうと見回している。
「だって、Aランチって決めてる仕込みから肉を抜くんだよ! 手間がかかるったらありゃしない! それに料金はAランチと同じだけ払ってるんだから、肉の分損してるじゃない! お金が大事ならそのぐらい気づけっての!」
「ちょっと、静かにしてくれないかしら?」
呆気にとられてポカーンと口を開けている二人の背後から、メガネをかけた女性が現れた。
金に近い茶色の髪をダラリと腰までのばした風貌は医者とは判断しにくいが、彼女はれっきとしたここの院長だった。
「どうかしたのかしら? 他にも病人はいるんだけど……」
「アクサ先生! 聞いてよわたしの話!」
首筋の痛みもなんのその、ニオはベッドから立ち上がると、軽い足取りでアクサに近づいていった。
開こうとしたニオの口を、アクサがとっさに塞ぐ。
「マミモンガガ?」
「気がついてたんなら早く言ってくれない? 用事があったんだからさ」
「モウミ?」
アクサは口から手を離すと、ニオのポニーテールをつかんで引っ張っていった。
「いた、いたいって、首筋もいたい!」
「それだけ元気があるんなら大丈夫でしょ。早くついてきて」
呆然と成り行きを見送ったユキとラビ。最後に思い出したようにユキが声をあげる。
「おれたちはオートエーガンで待ってるからな! 対策を考えよう!」
「わかった。すぐ行くから待っててね。ちょっと、本当に痛いってば!」
アクサに反抗を続けながらも、ニオは引きずられたまま病室から運ばれていった。
別の病室につれてこられたニオは、目の前の光景に愕然としていた。
ベッドで眠っているアルマの顔は、脂汗でびっしょりと濡れていた。布団に隠れた部分は見えないが、この調子では全身を汗で濡らしているだろう。
「傷口から高熱が出ちゃってね……このままじゃ近いうちに亡くなるかもしれないわ」
「亡くなるって……死ぬってこと!?」
「他になにかあるかしら?」
平然と言ってのけるアクサに、ニオが食ってかかろうとしたその時、
「ニ、ニオ……」
アルマの口から蚊のすすり泣くような声が洩れる。
「さっきからうわ言のようにあなたの名前を呼んでるのよ。ずっと目を覚ますの待ってたんだから」
「おか、さん……」
ベッドの側に歩み寄り、ニオがアルマの手をぎゅっと握る。
するとアルマはまるで待っていたかのように、ゆっくりと目を開いた。
「ニオ、ニオか?」
「母さん!」
涙を目に溜めたままアルマへと抱きつくと、右手だけでニオを抱き返し、力なくぼやく。
「わたしは、もうダメかもしれない」
「なに言ってんの! 弱気な発言なんて、母さんらしくないよ!」
娘に怒鳴られ、アルマは苦笑した。直後、抱いていた右手に力が込められる。
「そうだな。こんなのわたしらしくない。絶対に生きてみせるさ」
抱いていた手を離すと、アルマは力いっぱい微笑んでいた。だが、ニオは密かに感じていた。思っていた以上に撃たれた傷は深く、アクサの宣告がおおげさではないことを。
「ニオ、滝のことは頼むぞ。ウォルガレンの滝はマスカーレイドの宝であると同時に、守り神でもあるんだ。絶対に壊したりしちゃいけない」
「わかってる。絶対に工事なんてさせないから。わたしの命に代えてもね!」
強くアルマの手を握ると、アルマは一瞬だけ微笑を見せた。それも束の間、すぐに表情を暗くし、ニオから目を逸らしていた。
「母さん?」
呼んでも返事をせず、アルマはただ呆然と窓の外を眺めているだけだった。
「どうしたの? 傷でも痛むの?」
「わたしは、母親失格だな……」
「えっ?」
想定外の話題変更に、ニオは少なからずも戸惑いを見せていた。
アルマの目から涙が一粒、頬をつたってベッドへと落ちていく。
「ニオ、前言撤回だ。ウォルガレンの滝はどうなってもいい」
「えっ、どうして!」
ようやくニオの方を向いたアルマは、再びニオを自分のもとへと抱き寄せていた。
「ニオはわたしたち夫婦の宝なんだ。滝よりもニオのほうが大切だ」
「母さん……」
「滝を守ろうと無理をして、ニオには死んでほしくない。自分の命を第一に考えて、余裕があったなら、滝も守ってほしい。それで十分だ」
ニオの肩を軽く叩いてから、アルマは再び顔を背ける。表情は見えなくなっていたが、わずかに震えているのがニオにはわかった。
「ちょっと喋りすぎたみたいだ。疲れたから眠るよ」
「うん、待ってて母さん。次に来る時は朗報を持ってくるからね」
「期待しないで待ってるよ」
ニオはベッドの側から離れ、深く一礼してから部屋を出ていった。廊下では壁に寄りかかったアクサが、腕を組んだままニオを凝視している。
「あとはわたしに任せてちょうだい、最善は尽くすから。ニオは……分かってるよね?」
「はい!」
アクサにも頭を下げたニオは、全速力で廊下を走り出した。
「こら! 病院の中は走っちゃダメ!」
ニオの頭の中は滝を救うことで一杯で、アクサの声が届かなかったようだ。制止に反応することなく、ニオは病院を飛び出していった。
目指すはオートエーガン――作戦会議に適したニオ陣営のホームだ。
店内にはニオと共にハンターと向かい合っていたユキ、ラビ、マックスが、一つのテーブルで各々コーヒーを飲んでいた。
加えて入り口横の定位置にクネスがいる程度で、他の客は見当たらない。
「お帰り、ニオちゃん」
「ただいま。で、いい作戦は思いついた?」
「それが結構厄介でね……」
ふさぎこんでいるユキは、目の前のコーヒーを飲み干し、深くため息をついた。
「コーヒー、おかわり入れますね」
マックスが空になったカップを持つと、カウンター内に入ってコーヒーを作り出す。
「ちょっと、なんであんたがわたしの店の勝手を知りつくしてんのよ!」
マックスの後頭部にげんこつを食らわし、ひるんだすきにカップを取り上げる。
「ほら、さっさと座って! コーヒーはわたしがいれるからカウンター内に入るな!」
マックスのでん部を蹴飛ばしてカウンターから追い出すと、ニオは素早くコーヒーを五人分入れなおした。沸騰した湯が小さな気泡と共に音を出し、カップへと注がれていく。
ニオは一人一人の席を順に回り、入れたてのコーヒーを配達した。
「厄介って、なにが?」
最後に空いた席へとコーヒーを置き、椅子へと腰掛けながらユキへと質問する。
「ハンターが言うには、あの近辺に地雷をいくつか仕掛けたらしいんだ」
「地雷?」
「踏んだ人はもちろんだが、その衝撃でウォルガレンの滝も破壊してしまうかもしれないというんだよ。これではおいそれと手出しできない」
頭を抱えてしまったユキを、ラビが心配そうに覗き込む。
と、店内に轟音が響き渡った。同時にテーブルの上にある四つのカップが共鳴する。ニオが机に両手を叩きつけ、勢いよく立ち上がったのだ。
「バッカじゃない! そんなのハンターさんのハッタリに決まってる!」
「確かにその可能性は高い。だが、嘘だという百パーセントの確信はない。工事が終わればハンターの仕事は成功となり、その終了過程が滝の崩壊なら、爆発物で片をつけるのが一番手っ取り早いはずだ」
コーヒーを音を立ててすすったユキは、苦かったのか砂糖を二さじほど追加していた。
「地雷を踏む可能性があるのは百パーセントこちらの人間だ。むこうにとっては失っても痛手ではないからね」
「有り得ない話じゃないってわけか……」
現状を把握したニオは、ユキと同じように塞ぎこんでしまった。
「で、作戦としてはなにかできたの?」
「とりあえずいまのところ候補としてあがっているのはこの三つぐらいだ。ニオの意見も聞いて、どれにしようか決めようと思う」
無地の紙に箇条書きにしてあった作戦を、ニオは目だけを動かし黙読する。
――ウォルガレンの滝防衛作戦――
一 作戦名――ウォルガレンのモグラ作戦 提案者――マックス=フォール
オートエーガンの庭からウォルガレンの滝まで穴を掘り、敵の背後から奇襲をかける。ハンターとレスチアさえ捕らえれば、相手は士気を失うはず!
二 作戦名――ウォルガレンの爆弾処理班作戦 提案者――ユキ=ボウ
地雷探知機を使って、地雷を探し出す。解除しながら進めば敵のアジトまで安心してたどりつけるはずだ!
三 作戦名――ウォルガレンのサケ作戦 提案者――ラビ=ラリィ
ウォルガレンの滝から続いているアケイトン川の中を上流に向かって進みますぅ。滝まで行けば敵のアジトは目の前のはずですぅ!
「………」
「どうですかぁ? わたしの案がやっぱり一番ですよねぇ?」
無言で固まっているニオに、ラビが追い討ちをかける。
ニオは名ばかりの作戦書を拾い上げると、ビリビリと破ってしまった。
「ぜんぶ却下!」
「なっ、ど、どうしてですかぁ!」
ラビが身を乗り出して怒鳴り散らす。ラビ以外の二人もニオの結論にのけぞっている。ラビ同様に納得できないようだ。
「なんでですかぁ! ラビの作戦は完璧のはずですぅ!」
「ラビの作戦は間違いなく却下!」
「そんな、ひどいですぅ……」
涙を目にためて今にもわめき散らしそうなラビを無視し、ニオは全身の力を抜いた。
口から望んでもいない嘆息があふれ出る。
「いい? まずラビの作戦が却下のわけは、今の季節を考えてないから。秋から冬に移ろうかって時期に川の中なんて通ってみなさいよ。アジトについた頃には全員凍えてるわ」
「じゃあ、おれのは?」
返事の代わりに、マックスのおでこを人差し指ではじく。
「いまから穴掘って、滝の側まで開通するのにどれくらいかかると思ってるの? ふもとに着いたときには、ウォルガレンの滝の姿は消えうせてるでしょうね」
「だったら、わたしの案はどうなんだね。時間もかからないし、寒くもないが……」
腕を組んで見返してくるユキに、ニオは小さくうなずく。
「確かにこの三つの中だったら、ユキさんの作戦が一番まともだけど……無理なものは無理。だれも地雷の解除なんてできないじゃない」
「たとえそうだとしても、地雷の位置を探知できればそれを避けて進むことができる」
意地でも自分の意見を通そうと、少しムキになりつつあるユキ。
ニオはめんどくさそうに顔をしかめつつ、頭を掻きながらぼやいた。
「じゃあ聞くけど、この平和な村で地雷探知機なんて代物、だれが持ってるの?」
「あっ……」
「肝心なとこを見落としてるじゃない。もし持ってる人がいるとしても、きっとハンターさんぐらいよ。もちろん、貸してくれるはずないけどね」
ニオの反論はどれも理にかなってるもので、三人は反論できずにうつむくしかなかった。
「じゃあニオちゃんは、なにかいい案があるのかい?」
「……あったら、真っ先に説明してるわ」
「そうか、そうだろうね」
ユキは両手をあげて、背もたれへと全体重をうつした。
ギィと寂しそうに鳴く木製のイスは、まるで四人の心情を表しているかのようだ。
「それじゃあ、こんなのどうだ?」
マックスがとつぜんイスから立ち上がると、テーブルの真ん中まで体を乗り出してきた。
つられて残りの三人もマックスへと体を近づける。
マックスは一度咳払いした後、小声で作戦を述べた。
「あいつらの作った簡易ステージがあっただろ? あそこでニオがシェラの好きな人を大きな声で暴露するんだ! この作戦で間違いない!」
マックスとて、本気でいってるわけではないのだろう。場を和ませようとしたマックスの心意気なのだ。
当然三人の反応は予測できたらしく、マックスは素早くテーブルから離れて身構えた。
だが、三人はまったく怒りもせず蔑みもしなかった――むしろ微笑をもらしてなにやら楽しそうだ。
「あ、あれれ? なんだってんだ」
あてがはずれてマックスは、全身から力を抜いた。とたんに、肩の上へと誰かの手が乗せられた。同時に力が込められ、マックスの肩が嫌なきしみ音をもらす。
「いてっ! だれだっ!」
首だけ振り向かせた瞬間、マックスの顔から血の気が引いていった。三人の微笑が、爆笑へと変化していく。
「いい作戦だね、マックス。わたしも参加したくなっちゃう」
口元を痙攣させながら現れたシェラは、マックスをつかんだ手に更なる力を込める。長袖のシャツにジーンズというラフな服装――武装を解除しているシェラの姿だ。
「シェ、シェラ! これは誤解だ! おれはハメられたんだ!」
「どっちでもいいから、ちょっと奥まで来てくれる?」
店の隅へとひきずられていくマックスに、三人は手を振る。続くはニオの送る言葉。
「じゃあ五分間休憩にしよっか。シェラも五分で終わらせてね!」
「そ、そんな殺生な! うぎゃああ!」
それからの五分間、マックスの悲鳴が続いたのは言うまでもない。