叔母様、「預かる」とは「貰う」ではありません——薬草も給金も持ち主へ返していただきます
「薬草泥棒を店には置けないわ。出ておゆき」
叔母様は台秤の脇に立ち、私が表へ返した乾燥札を指で弾いた。
札は裏向きだと、どの棚の、誰の薬草か分からない。分からなくして得をする者には便利だろう。私は困る。乾燥職人なので。
「泥棒を店に置けない? では先に、私の給金をどちらへお預けになったのか教えてください」
「家族同然の娘に給金だなんて。寝床も食事も与えたでしょう!」
干し棚の脇に押し込まれた寝台と、昨日の鍋底で冷え固まった豆を、世間では給金と呼ぶらしい。帳面の用語は日々進歩している。嫌な方向へ。
叔母様は、返事を挟ませまいと声を重ねた。
「それに、この薬草は店の物よ。店の物を勝手に触れば泥棒でしょう。皆さんもそう思うわよね?」
ちょうど二束のエルダーフラワーを受け取りに来ていた買い手へ、叔母様は順番に同意を求めた。買い手たちは受取証を持っていない。目を合わせ、口を閉じた。黙った分は、あとで別の欄に載せておこう。
私は帳場から受取証の控えを出した。
預かり品——所有権は委託主に残る。
「店が預かっているのだから、店の物でしょう?」
「見事な飛躍です。崖まで一足でしたね」
「何ですって!」
叔母様は二束を買い手へ渡し、代金を自分の引き出しへ入れた。
私は止めなかった。委託主の署名、乾燥前の目方、乾燥後の目方、棚番号。二枚の乾燥札を表へ返し、作業日誌へ書く。
売却済み。代金、店主受領。委託主への支払い、なし。
ついでに、私の給金は十八か月分が未払い。食費は店の経費に計上されているのに、私の皿だけ毎晩残り物。寝床代も計上済み。実物は干し棚の横。
叔母様は「出ておゆき」ともう一度言った。
承知しました、と私は答えた。追い出す側が、受取証の控えまで私の荷物だと認めてくれるなら話が早い。
* * *
「救護所へ送るカモミールを十束。すぐに包め」
次の週市、領主様は店へ入るなり命じた。
叔母様の腰が、普段は見せない角度まで折れた。
「まあ、ローレンス様。すべて私が仕入れ、私が丹精した品でございます」
昨日まで私の顎先を干し棚へ向けていた人と同じ背骨とは思えない。人の体は奥深い。
「十束ございます。すぐにご用意を」
「七人分です」
私が浅い木枠を引くと、叔母様の笑顔だけがこちらへ向いた。目は笑っていない。よく乾いている。
「マリナ。口を挟まないの」
「カモミール十束、委託主七人分です。三束には同じ方の札がついていますが、残りは別です」
私は裏返された札を一枚ずつ表へ返した。署名、目方、棚位置。九束目を持ち上げ、花床へ指を差し込む。
「これは中心が生乾きです。救護所へは出せません」
「見ただけで分かるのか」
「触りました」
「なら、なぜ十束として並べた?」
領主様の問いに、叔母様の声が急に細くなった。
「店の慣習でございまして。乾燥の加減には個人差が——」
「領主様。購入者欄へご署名を。委託主への代金支払いは、受取証の指図に従います」
「その前に、この女が君を泥棒と——」
「お気持ちは欄外です」
ペンを差し出すと、領主様は私と叔母様を見比べ、署名した。命令より署名が早い男は嫌いではない。命令自体が多すぎるのは、今後の要修正事項だけれど。
表へ戻した札どおりに束を分け、乾燥の足りない一束を除く。領主様は私の指先をずっと見ていた。
十束は店の在庫にならず、七人の委託品として九束だけ売れた。
叔母様は人前でにこやかに代金を受け取った。
その夜、帳場の引き出しに「マリナによる薬草十束の窃盗」と書かれた盗難届の下書きが入っていた。
十束は領主様の荷馬車に載っている。
なかなか大胆な泥棒がいたものだ。
* * *
冷えた豆は、器を逆さにしても落ちなかった。
私の待遇に最後まで忠実である。感心している場合ではない。
私は干し棚脇の寝台で毛布を畳み、作業日誌と受取証の控えを木箱へ移した。私物はそれで全部だった。二十二年も生きれば、もう少し増えてよさそうなものだけれど、叔母様の帳面では私の持ち物まで店の利益へ吸い込まれるらしい。
「食べろ」
領主様が湯気の立つ皿を差し出した。鶏肉と根菜。湯気! 温度のある食事! 危うく領館への忠誠を誓いかけたが、皿一枚で雇用先を決めるほど安くはない。十八か月の未払い給金が私の相場を押し上げている。
「ありがとうございます」
「それから護衛を置く。店の裏口、干し棚、寝台の脇に二人ずつだ」
広げられた図面では、衛兵の線が乾燥小屋の内側どころか私の寝台まで囲んでいた。薬草と職人をまとめて領主倉庫へ収める気満々である。
「領主様。これは護衛案ですか、包囲図ですか」
「君が危険だからだ。必要なら領館へ移す」
「私の仕事場と行動範囲は、領主様の購入品ではありません」
「なら、どこまでなら許す」
私は図面の乾燥小屋を囲む線を消し、入口の外へ一本引き直した。
「護衛はここまで。小屋の内側へ入るには、その都度、私の許可が必要です」
「夜間は」
「同じです」
「緊急時は」
「緊急の内容を記録して、事後に私が確認します」
「寝台を小屋に置くのは危険だ」
「お気持ちは欄外です」
署名欄を作ると、領主様は眉間を押さえたあと、ペンを取った。
命令を修正文へ変えられる。よし。一束なら預かってもいい種類の面倒さだ。
温かい皿は一度だけ受け取った。食べ終えると、私は木箱を抱えて委託主たちを回った。
「次の週市には受取証をご持参ください。預かり品をお返しします」
薬草採集人にも、薬房にも、救護所の納入人にも同じ順番で告げた。
叔母様は、私が店の在庫を横流しする相談をしていると思ったらしい。窓からこちらを見て、口元を吊り上げていた。
想像力は豊かだ。所有者欄だけ読めない。
* * *
「この女は、私の店から薬草を盗もうとしています!」
三度目の週市。
叔母様は店主用の椅子に腰を据え、集まった委託主たちの前で盗難届を読み上げた。私には顎を突き出し、領主様には腰を折り、記録官ヘンリーには慣習という名の煙を吹く。忙しい首である。
「マリナは恩を忘れました。娘同然に育てた私を裏切り、店の全在庫を持ち出そうとしております。皆さんも、この子を薬草泥棒だと思うでしょう?」
いつものように同意を順番に求めた。
けれど今日は、全員の手に受取証がある。
白い紙が一枚、二枚、次々と掲げられた。
「盗難届の対象を確認します」
ヘンリーは定型句を一音も崩さなかった。
「対象物の所有者、保管の根拠、数量ではなく同一性を証明する記録を提示してください」
「ですから、店の棚にある薬草です。預かっている間は店の物よ」
叔母様は言い切った。
私は一枚目の受取証を開いた。
「読み上げます。委託主署名、あり。乾燥前後の目方、記録あり。乾燥札、現物あり」
そして、冒頭の定型文へ指を置く。
「預かり品——所有権は委託主に残る」
「だから店に処分を任せるという意味でしょう? 今までもそうしてきたわ」
「今まで売った分は、のちほど別の債務欄へどうぞ」
私は受取証を委託主へ向けた。
「預かるとは、持ち主を変えず、乾燥と保管を行うことです。指図をお願いします」
薬草採集人が受取証を掲げる。
「私の預けたセージを返してください」
「承りました」
秋摘みのセージ一束。署名を確認する。乾燥前は十二斤、乾燥後は三斤半。札には棚の上段、右から四枠目。
私は札を表へ返し、浅い木枠を下ろした。棹秤は三斤半を示す。数字が勝ったのではない。この三点が、目の前の束を持ち主の名へつないでいる。
採集人が受け取る。
「セージ一束、返還完了」
ヘンリーの筆が市場台帳を走った。
「店の薬草を勝手に渡さないで!」
「私の預けた薬草です」
採集人は受取証を胸の前に掲げたまま言い直した。
叔母様の指が椅子の肘掛けをつかんだ。
二枚目。
「委託主署名、あり。乾燥前後の目方、記録あり。乾燥札、現物あり」
薬房の者が受取証を上げる。
「私の預けたカモミールを返してください」
「承りました」
初夏摘み。乾燥前九斤、乾燥後二斤。中段、左から二枠目。花床まで乾いている。領主様へ売らなかった、あの一束だ。
札を表へ返し、秤へ載せ、薬房の者へ渡す。
「カモミール一束、返還完了」
「私が乾燥させたのよ!」
叔母様が叫んだ。
「乾燥作業欄は私の署名です」
「店主の指示で働いたのでしょう!」
「給金支払欄は空白です」
叔母様の口が止まった。空欄は便利だ。書いていないことまで、よく喋る。
三枚目。
「委託主署名、あり。乾燥前後の目方、記録あり。乾燥札、現物あり」
救護所の納入人が紙を掲げた。
「私の預けたエルダーフラワーを返してください」
「承りました」
春摘み。乾燥前八斤、乾燥後二斤一分。下段、中央。
札を表へ返す。
隣の二枠は空だった。最初の週市に叔母様が売った二束の場所だ。返還すべき束が消えている事実まで、空の木枠はたいへん正直である。
残っていた一束を納入人へ渡す。
「エルダーフラワー一束、返還完了。売却済み二束は未返還債務として記録してください」
「店の経営に必要だったのよ!」
「使途の弁明は債務を消しません」
ヘンリーの声は相変わらず平らだった。叔母様の顔色だけが忙しく変わる。
受取証が、また上がった。
「私の預けた薬草を返してください」
「私の分も」
「こちらも返還を指図します」
私は受取証番号を読み、署名、目方、札を確認した。ヘンリーが所有者欄を叔母様へ示す。叔母様がその名を読むまで、返還は進まない。委託主が指図し、私が束を渡し、ヘンリーが完了を記す。
同じ手順でも、棚は一枠ずつ空になる。
叔母様の言う「店の在庫」が、持ち主の腕へ戻っていく。ずいぶん風通しのよい在庫だ。
「待って!」
叔母様が立ち上がり、奥の棚から一束を抱えた。
「これには札がないわ。記録がなければ、その子が勝手に書いた帳面でしょう!」
口頭で預けたという者が前へ出た。
「それは私が預けた束です」
「受取証はありますか」
「昔から口約束で済ませてきた。私の物に決まっている」
私は束へ手を伸ばさなかった。
「本日の返還対象から外します」
「なぜだ。あんたなら分かるだろう」
「分かることと、証明できることは別です。署名がない。乾燥前後の目方もない。札もありません」
「店の物ではないんだろう?」
「はい。ですが、あなたの物だと第三者が確認できる記録もありません」
相手の腕が下がった。
助けてあげたい。たぶん、その人の束だ。たぶんで棚を空にしたら、私は叔母様と同じ穴へ落ちる。穴の中で店主椅子を奪い合う趣味はない。
「未確定品として記録してください。今日は返せません」
「未確定品一束。返還対象外」
ヘンリーが記した。
叔母様が勢いを取り戻した。
「ほら! 記録なんて完全ではないのよ。ほかの束だって怪しいわ。特にこの二束は札が混じっているもの!」
上段の二つの浅い木枠には、別々の委託主の札がついていた。だが乾燥日と棚位置が、私の日誌と逆だった。
札を表へ返してきた指が止まる。
片方は風の強い日に上段へ移した。もう片方は茎が太く、二日遅れて干し上がった。日誌はそうなっている。ところが札は逆。署名と目方だけでは、目の前の束へのつながりが切れている。
「この二束は返せません」
叔母様が笑った。
「マリナが混ぜたのでしょう? 盗むつもりで!」
同じ口が、自分の委託品売却を棚へ上げて私を泥棒と断定する。棚が空き始めたので、罪だけでも載せたいらしい。
「管理中の取り違えは私の責任です」
私は二人の委託主へ向き直った。
「同一性を証明できません。返還ではなく、私個人の弁償として記録してください」
週市のざわめきが、そこで切れた。
叔母様の爪が椅子の肘掛けを叩く。
「聞きました? 自分で責任を認めたわ!」
「はい。認めました」
痛い。未払い給金すら取り戻していない財布に二束分はかなり痛い。だが、痛くないふりをして他人の束を差し出せば、乾燥札はただの飾りになる。
私は弁償額を書くためにペンを取った。
「確認のため、保管場所を検分します」
ヘンリーが立ち上がった。
「そんな必要はございません。店の慣習で——」
叔母様の声は、記録官が帳場へ近づくほど小さくなった。
ヘンリーは何も言わず、干し棚、台秤の下、帳場の引き出しを順に確認した。最後に、店主椅子の座面と背板の隙間へ指を入れる。
二枚の木札が出てきた。
叔母様の爪が、肘掛けから外れた。
「それは、片づける途中で……」
私は札を受け取った。
乾燥日。乾燥前後の目方。元の棚位置。二枚とも、日誌と一致している。
叔母様は薬草を混ぜてはいなかった。札だけを逆につけ、元の札を椅子へ隠したのだ。二つの浅い木枠は別々のまま。私が取り違えを認めれば、盗難届へ一行増やせる。
なかなか手の込んだ椅子である。座り心地は最悪だろう。
「弁償記録を取り消します」
私は偽の札を外し、隠されていた札を日誌どおりの木枠へ戻した。必ず表へ。
「委託主署名、あり。乾燥前後の目方、記録あり。乾燥札、現物あり」
二人の委託主が同時に受取証を掲げる。
「私の預けた薬草を返してください」
「承りました」
二束をそれぞれの持ち主へ渡す。
「返還完了。乾燥札の隠匿について、店主ベアトリスの行為として付記します」
ヘンリーの筆先が紙を擦った。
よし。
私の財布は助かった。ついでに叔母様の逃げ道が一つ、正式な記録になった。溜飲とは、温かいスープより胃に優しいのかもしれない。
残る受取証が掲げられた。
「私の預けた薬草を返してください」
声が重なる。
私は返した。持ち主へ。指図どおりに。
最後の束が店の棚から下りる。
空の木枠。表を向いた返還済み札。叔母様が「店の在庫」と呼んでいたものは、一束も叔母様の所有ではなかった。
口頭委託の一束だけはヘンリーの机上に封じられ、返還されない。証拠のない善意まで都合よく救う神様は、この週市には出勤していない。
「これで、盗まれたという店の薬草を示してください」
私は叔母様へ尋ねた。
「棚が空になったじゃない!」
「預かり品ですから、持ち主へ返しました。叔母様は、何を盗まれたとおっしゃるのですか」
叔母様は椅子から立てなかった。
領主様が空の棚と、返還できなかった一束と、取り消された私の弁償欄を見た。それから私の前へ一枚の紙を置いた。
「マリナ。私と結婚してくれ」
週市で薬草を返し切った直後に求婚。人を手元へ集める癖が、ついに婚姻欄まで来た。
「理由を伺っても?」
「君は証拠のある物だけを返した。証拠のない一束を奪わず、自分に不利な二束は自分の損失として記録した。私は、私の領地の救護薬を任せる職人に、君以上の者を知らない」
「妻ではなく職人の評価に聞こえます」
「その正確さごと欲しい。だが、所有はしない」
領主様は以前の護衛図を取り出した。私が引いた線が残っている。
「乾燥小屋の管理権はマリナに属する。護衛は小屋の外まで。入室には本人の許可を要する。職人名義、委託契約、勤務場所および外出は、婚姻後も本人が決める」
声に出して読み、署名した。
それから自分で靴を半歩下げ、図面の線の外へ立つ。
「これで求婚することは許されるか」
「精算完了後に婚約成立。その条件なら」
「分かった」
「まだです。購入契約と婚姻契約は別紙にしてください」
領主様はもう一本ペンを求めた。
学習が早い。かなり押しが強い。返品期限については、もう少し考えよう。
* * *
「盗難届は無効です」
ヘンリーが届出書へ横線を引いた。
「所有者欄にあなたの名はありません」
叔母様の前から店主用の椅子を一脚ずらす。
椅子の脚が石床を擦った。叔母様はその音が終わっても立たなかった。
市場台帳には、返還完了の記録が並んだ。その下に、未返還債務が続く。
売却済みのエルダーフラワー二束。委託主への未払い代金。乾燥札二枚の隠匿。私の未払い給金十八か月分。
さらに店の経費帳が開かれた。
「食費は毎月、住み込み雇員一名分が計上されています」
ヘンリーが言う。
「マリナへ提供されたのは売れ残りのみ。独立した寝室の維持費も計上されていますが、寝床は干し棚脇です。給金支払記録はありません」
「家族同然に育てたのです。家族へ食事や寝床の代金を——」
「お気持ちは欄外です」
私は確認書を叔母様の前へ置いた。
「売却、不払い、札の隠匿を認めるなら署名を。認めないなら、返還を求める委託主全員へ今ここで異議を述べてください」
受取証が一斉に持ち上がった。
叔母様は、委託主たちを見た。領主様を見た。ヘンリーの市場台帳を見た。
逃げ道は紙で塞ぐに限る。怒鳴り声は風で消えるが、署名はしぶとい。
「署名したら、店はどうなるの」
「即時閉店し、全債務を一括で請求するか、管理者を交代して営業を続け、給金から分割返済するか。委託主の皆さんは後者を認めています」
「管理者は」
「私です」
「私があなたの下で働くの?」
「店主として残る欄はありません」
叔母様の指が署名欄の上で止まった。
「マリナ。私はあなたを育てたわ」
「確認書には、謝罪、店主権放棄、賠償計画、雇員への役割変更が必要です。養育についての欄はありません」
叔母様はペンを握った。
「薬草の売却と代金の不払い、給金の不払い、札の隠匿を認めます。マリナを薬草泥棒と届けたことを謝罪します」
声は途中で何度も細くなった。それでもヘンリーは言葉を補わない。叔母様自身が最後まで読み、署名した。
次に店主権放棄書。管理者交代書。分割賠償契約。雇用契約。
四枚すべてへ署名が入る。
「立ってください」
ヘンリーが告げた。
叔母様は店主椅子の肘掛けへ手を置いた。立ち上がりかけ、また座る。腰の鍵束へ手をやり、爪だけが金具を滑った。
誰も手伝わなかった。
二度目で立つ。
ヘンリーが椅子を帳場の中央へ移した。叔母様のためではない。管理者の席だ。
「鍵を、新しい管理者へ」
叔母様は鍵束を外した。
私の掌へ置かれた金具は、ずしりと重かった。家族の情ほど曖昧ではない。棚、帳場、裏口、薬品庫。四本ある。検証可能。たいへん結構。
「最初の返済金もお願いします」
叔母様は自分の財布から銀貨を三枚出した。
ヘンリーが受領額を読み上げ、私が受取欄へ署名する。未払い給金の一部として、初回返済完了。
叔母様の生活費を私が肩代わりする欄は、最初から最後まで存在しない。
「雇員ベアトリス。最初の仕事です」
私は空になった棚を示した。
「返還済みの札を外し、受取証番号順に束ねてください。札を裏返さないこと」
「……分かりました、管理者」
「呼称が違います」
叔母様の口が固く結ばれた。
「マリナ親方」
「はい。作業を始めてください」
叔母様は店主椅子ではなく、干し棚の前の作業椅子へ座った。表向きの札を一枚ずつ外す。謝罪したから家族へ戻るのではない。給金を受け取り、その給金から返す有責雇員として残る。それだけだ。それでいい。
私は帳場の椅子へ座り、鍵を所定の金具へ掛けた。
店の外では、領主様が護衛線の手前で待っていた。靴先が白い線へ半寸かかっている。
「領主様。線の内側へ靴先が入っています」
「婚約者にも駄目か」
「契約をお読みください」
領主様は足元を見て、自分から小屋の外へ下がった。
受取証を抱えた委託主たちが、新しい束を運んでくる。今度は口頭ではない。署名欄も、目方欄も埋まっている。
「秋の分も頼めるか、マリナ親方」
私は新しい乾燥札へ棚番号を書き、表を向けて木枠へ掛けた。
「承りました」




