義隆のこと
いつの時代にも
追いかけている後ろ姿がある
走っているわけではない
ぼくの前をゆっくりと歩み
たまに振り返る
そういう男の話をしよう
古い記憶
奈良時代
蹴鞠をやっているころ
義隆はいつも上手で人気者
幼馴染のぼくは大の苦手
でも義隆はいつもまりを回してくれる
あるとき都にいくことになって
見送るぼくにまりをくれた
いつもありがとうと
やがて戦乱が起き行方不明になったと聞く
戦中の子供時代
ぼくは注意散漫で
学校でいつもおこられていた
義隆はいう
彼は聞いていないのではありません
あらぬことを考えているだけなのです
みんな大爆笑
あほみたいだけどいやじゃなかった
義隆の母は華族だったときく
力持ち妖怪みたいなうちのかーちゃんとは大違い
でも彼女は言うんだ
いまは身分の差などないのです
みなさまとおなじですよ
実は再婚らしい
だんなさんは薬を作る仕事だった
どうしてあんな妻が、と思われますよね
彼女はね植物が好きなんです
ほら、薬草育てるでしょう
わたしとなら植物の話がいくらでもできるから
だから来てくれたんです
だんなさんは身内がいなかった
つつましくても二人は自由だった
丹精こめて作られた薬袋には葵の模様が書かれていた
奈良時代の義隆が好んだ文様だ
戦火が激しくなって義隆の父は都へ召し出された
村長が彼のことを役人へ知らせたからだ
薬の知識、とくに薬草に詳しいものを探していた
褒賞がでるという
だんなさんは自分のことを知らせるように
村長に勧めたそうだ
これでお金をもらって
娘さんに精の付くものを食べさせてください
いまが大事な時ですから
村長の娘は体が弱かった
貧しい村では村長といえども暮らし向きは大差ない
1年ほどかけて娘はだんだん丈夫になっていった
娘は大きくなっても義隆の家に感謝を忘れなかった
嫁いでからも自分の家より足しげく訪れ
季節ごとにいろんなものを持ってきた
義隆の母はとても喜んで薬草などをお返しにあげていた
まだ子供たちは無邪気に遊んでいたころだ
チャンバラごっこをすると
義隆はいつも大将になる
ぼくはいつも斬られるがわになる
ことがおわると
義隆はいつも手を取って起こしてくれた
ありがとな
そういいながらにっこり笑うのが常だった
年を経るごとに情勢が不穏になり、
青年たちが徴兵されていく
義隆は成績もよく、
早くから官位を与えられた
ときおり手紙を書くけれど届いているかさえわからない
義隆はそれでも母に手紙を書き続けた
ある夜、義隆と話すことがあった
子供のころの話をしていて
あらぬことを考えている、のくだりがでたとき
父もそういうひとだった
薬草をさがしながら、でもちがうことを考えているんだ
それでよく違うのを引き抜いてきて
母から指摘されていたな
そういいながら笑っていた
おい、そりゃーだめだろー
そうじゃないんだ
ものごとを他人と同じように考えるだけではいけなんだよ
それまでにわかっていることの、
もっと遠くを見られるようにならないと
未来を得ることはできないんだよ
父も、君も
ぼくにはできないそういうことができるんだ
だからぼくはふたりを尊敬している
その数日後、義隆は極秘に出撃した
わずかな部下だけを連れて敵の拠点を叩いたのだ
敵は不意をつかれて大きく撤退した
故郷の村のすぐそばだったとあとで聞かされた
義隆だけが帰ってこなかった
やがて戦いは終わり、ぼくたちは故郷に帰された
わずかな遺留品を持って義隆の母を訪ねた
義隆の母はたいそう喜んだ
でも義隆はいない
うつむくぼくの手をとって言ってくれた
あなたがご無事でよかった
義隆も喜んでいると思いますよ
しかし・・・
ぼくの言葉をとどめるように首を横に振って言った
義隆から手紙をもらっています
まもなく出撃すると
だから知っていたのです
気になさることはありません
手紙を見せてくれた
母上、まもなくおそばへ戻ります
どういうことだ??意味が分からない
義隆の母は以前と変わらずおだやかに微笑んでいた
大人になった
ツマラナイ会社に勤めて毎日くたびれて帰る
家庭はささやかだったが居場所としては悪くはなかった
娘はもうあんまり近寄ってくれない年齢になっている
ただ、いま夢中になってるアイドルの話はしてくれる
義隆にそっくりだ
すごい人気だったがアイドルにありがちなトラブルがあって
海外へ活動拠点を移してしまった
あきらめるかと思った娘は
義隆が芝居に出るときくやいなや英語の猛勉強をはじめた
たくましいことだ
もしかしたら留学もしそうな勢いだな
時代がどうかわっても義隆にはかなわない
でもそれでいいんだ
いつも俺の前を歩いていてくれ
お前を目指して進むから




