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選ばれなかった人は、消えない

作者: かりすと
掲載日:2026/04/08

※少しだけ大人向けの恋愛の話です。


曖昧な関係のまま終わった相手と、数年後に再会したらどうなるのか。


そんな「ありそうで、ちゃんと向き合うことが少ない関係」をテーマに書きました。

その名前を消したとき、指は止まらなかった。



昔なら、少し迷っていたと思う。


開くかどうか。

消すかどうか。


意味のない時間を、少しだけ引き延ばしていた。



でも、その日は違った。



削除。



それで終わりだった。



何も変わらない。


軽くもならないし、痛くもない。



ただ、


もう何も残っていないことだけが、はっきりした。



最初に会ったのは、夜の店だった。


煙の匂いが染みついたカウンター越しに、何気なく話した。



距離の取り方が、うまい人だった。


近づきすぎない。

でも、離れすぎもしない。



踏み込めば、受け入れる。

けれど、自分からは来ない。



その曖昧さが、ちょうどよかった。



気づけば、通うようになっていた。



店の外で会うようになるのに、時間はかからなかった。


昼に会って、歩いて、話して、

気づけば夜になっている。



何を話したのかは覚えていない。


ただ、空気だけが残っている。



帰り道、手を繋いだ。



それだけで、何かが始まる気がした。



でも、何も始まらなかった。



「これって、どういう関係?」



ある夜、そう聞いた。



「どうしたいの?」



答えは返ってこなかった。


選ぶことだけ、こちらに残された。



「ちゃんとしたい」



言った瞬間、分かっていた。



「今のままじゃダメ?」



その一言で、全部決まった。



嫌われたわけじゃない。

ただ、選ばれなかった。



それでも、しばらく離れられなかった。



楽だったからだ。


無理をしなくていい関係は、思っているよりも深く残る。



だから、自分で終わらせた。



煙みたいな関係だった。


形はあるのに、掴めない。



そのあと出会った人は、違った。


言葉があって、輪郭があって、ちゃんとこちらを選んでくる。



安心できた。



それで終わったはずだった。



数年後、再会するまでは。



店の外、煙草の煙の向こうに、その人はいた。



時間が、少しだけ戻る。



「後悔したことある?」



「あるよ」



「私も」



それで足りた。



言葉にしなかったものが、そこにあった。



三日迷って、連絡を送った。



送らない理由は、いくらでもあった。


でも、それより少しだけ、確かめたい気持ちが勝った。



やり取りは、驚くほど普通だった。



だから、崩れるのも早かった。



「少しだけ、電話できる?」



声を聞いた瞬間、分かった。


戻る。



「会わなきゃよかったかも」



本音だった。



でも、同時に——


会ってよかったとも思っていた。



「今、会ったらダメかな」



止まれる場所は、ちゃんとあった。



でも、止まらなかった。



会えば、すべてが早い。


距離も、温度も、記憶も。



煙が、もう一度形になるみたいに。



確認したかった。



あのとき違う選択をしていたら、

今とは違っていたのか。



答えは出なかった。



彼は変わっていなかった。


優しくて、曖昧で、

そして、選ばないまま。



「プロポーズされたの」



言葉にした瞬間、煙が散る。



彼は驚かなかった。


ただ、少しだけ頷いた。



それで、分かった。



あのときと、同じだ。



「ちゃんとするよ」



それは、区切りだった。



振り返らなかった。



結婚して、時間が経つ。



穏やかな生活だった。


正しいと思える日々。



それでも、ときどき思い出す。



夜、静かな部屋で、ふと。



煙みたいに、形だけ戻ってくる。



触れようとすれば、消える。



だから、そのままにしておく。



そして、また時間が経つ。



ある日、連絡先を整理していた。



名前を見ても、何も動かなかった。



「ああ、いたな」



それだけだった。



削除。



迷いはなかった。



煙は、もう残っていなかった。



思い出は消えない。



ただ、



形を失う。



それだけだ。



——あなたなら、あのとき、どちらを選びましたか。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


この話は、

「どちらが正しいか分からないまま終わる関係」

を書きたくて作りました。


もしよければ、


・踏み込むべきだったのか

・踏み込まなかったのが正しかったのか


あなたならどうするか、コメントで教えてもらえると嬉しいです。

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