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知らない、とは怖い事なのですね  作者: 猫卜雪乃


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05:後継者と試験




 すったもんだ? の末、馬……ヴァッサーとの婚約は相手の有責で無事破棄されました。

 不貞相手が異母妹だった為に、家同士の慰謝料などは発生しません。が、個人的にはしっかりとヴァッサーに請求しますよ!

 ここでしっかりと罪に問わないと、『浮気相手が婚約者と同家の者』との不貞ならば大丈夫! みたいな変な前例が出来てしまいますからね。

 むしろ、通常よりも厳しく取り立ててやります。


 勿論、ブリーゼにも罪は償ってもらいます。

 クロイツァー伯爵家からの廃籍です。

 ブリーゼは、父と継母の婚姻前に生まれているので、庶子であり養子です。

 伯爵家当主である父が養子にしたのですが、私が伯爵家当主になった時には、その立場を剥奪する事が可能なのです。

 だって、クロイツァー伯爵家の血が一滴も入っていませんので。


 継母の実家の男爵家の籍になるのか、父の実家の子爵家の籍になるのか、どちらにしても下位貴族になるでしょう。

 下手をすると平民かもしれませんが、その辺は父に任せましょう。



 貴族籍は貴族法に(のっと)り貴族院が管理していますが、精霊に認められた当主の意見の方が尊重されます。

 精霊の守護がある国だから、貴族法よりも血統が優先されるのです。

 この辺が日本の法律とは違います。


 犬とか猫とか馬とか、そういう血統書とかで価値が決まるものに自分がなった気がして、何となく違和感を感じるのは、私が元日本人だからでしょう。

 元々貴族階級のある国からの転生だったら、大丈夫だったのかしら。


 でも、その価値観を守る事に抵抗はありません。

 それはこの世界に生まれて、この世界で育ち、ここで生活し、教育を受けたからです。


 そう。ヴァッサーとブリーゼ、そして父と継母を我が領地から追い出す事に、何も躊躇などしません。

 完膚なきまでに叩きのめし、無一文で放り出してやりますよ。




 あれから一ヶ月。

 後継者試験の内容が決まったと、アンドロシュ公爵から連絡が来ました。

 どこかの小さな村でも管理するのかと最初は思っていたのですが、それではヴァッサー達の管理する村が潰れてしまいます。

 それに、もしその勝負に私達が勝ったとしても、ヴァッサーが納得しないでしょう。


 その村の位置がアンドロシュ公爵領にあれば、エールデが有利だと言い、クロイツァー伯爵領ならば、私がいる方が有利だったからだ、と言うでしょう。

 精霊に認められた後継者が有利なのは本当です。

 しかしそれを解った上で後継者の座を奪おうとしているのは自分なのに、我儘ですよね。



 呼び出されたのは、二つの領の境を跨いでいる『空白の地』でした。

 元はそれぞれの領地でしたが、精霊の守護から外れ、何も無くなってしまった(あれ)()です。

 貴族法……王国の地図上ではそれぞれの領地なのですが、所謂(いわゆる)負の遺産ですね。

 まだ荒地ですが、このままだと砂漠化するかもしれません。


「この土地を再生出来た者を、新たな後継者とする。どちらも出来なかった場合、現状維持でエールデが後継者だ」

「な! それではエールデが有利じゃないか!」

 アンドロシュ公爵の宣言に、ヴァッサーが異を唱えます。


「当たり前だろう。そもそも精霊に認められた後継者はエールデだ。それを覆そうと言うのだから、お前に精霊から認められる功績が必要なのだ」

 アンドロシュ公爵の厳しい視線と物言いに、さすがの馬鹿も口を(つぐ)みました。

 納得のいかない表情をしていますが、精霊に認められないと領主になれないという事は、子供でも知っている常識なのですけどね。




 再生する土地の境界は、お互いの領地に跨った状態を半分ずつになりました。

 アンドロシュ公爵領とクロイツァー伯爵領を半分ずつ、です。

 精霊の守護が無い土地ですが、一応念の為。

 荒地になる理由が不明ですので、再生しやすい土地としにくい土地があるかも知れないからです。


 私達とヴァッサー達の範囲を決める為、荒地の真ん中に杭が立てられ、網で区切られました。網なのは、風が通らないと空気がこもりますからね。

「私達の方が広いです。おねえさま(ずる)い」

 いやいや。測量の職人(プロ)がきちんと計測して、範囲を決めたの見てたでしょう?


「皆もそう思うでしょう?」

 いつものように、ブリーゼが妖精達に同意を求めようと周りを見回しました。

 ブリーゼが妖精を味方につけて、我儘を押し通す……いつもの手です。

 そこで気付きました。

 ブリーゼの周りに、妖精がいません。


「あれ? 妖精さん?」

 ブリーゼがキョロキョロと周りを見回しました。

 私の目の錯覚ではなく、本当に妖精がいないようです。

 どうりで、今日は視界が落ち着いていると思いました。


「妖精さぁん、どこぉ?」

 ブリーゼが呼ぶと、『空白の地』と守護地の境に妖精達が固まってました。ブリーゼを呼ぶように、ピカピカと点滅しています。

 眩しいわ!


 どうやら荒地には、妖精は入れないようです。精霊の守護が無いから?

 物心ついた時からいつも妖精の光でキラキラしていたブリーゼ。

 普通の状態のブリーゼを見るのは、初めてかもしれない。




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