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気のせいではなく、ブリーゼの周りのピカピカが減っています。
残った妖精も輝きが減っているような気がします。
あれだけブリーゼ大好き輝かせてやるぜ! な妖精達に、どのような心変わりがあったのでしょうか。
それか、ブリーゼの方に何か変化が?
「今まで公費は何に使っていたのですか?」
手元の資料を閉じて、席を立ちます。
『空白の地』に肥料として使用した物を書き出し、資料としてまとめていたのです。
私達の後継者試験が終わっても、領地で肥料農法を続けてもらうためです。
使用済みの茶葉や野菜クズなどが主ですが、最近では藁や籾殻も増えてきました。
効果を実感した雇われ農夫の方々が、知り合いに話して集めているようです。
色々試してみて記録をするように頼んだのを、忠実に実行してくれているのです。
自分達の畑でも、撒く物を変えて実験しているとも言っていました。
こういう方々が領地を発展させていくのでしょうね。
頼もしいです。
ブリーゼの居るソファまで行き、前の席に座ります。
ぶすくれて座っているブリーゼに、もう一度同じ意味の質問を繰り返しました。
「後継者試験用の公費は、何に使ったのですか?」
ブリーゼは私の顔をチラリと見た後、フンッと顔を逸らしてからソファの背もたれに片肘を突き、勝ち誇ったように笑います。
「ヴァッサー様とぉ、視察に行ってきました!」
その顔が今までの純粋な幼子のような笑顔と違い、違和感を感じました。
「海辺に行って、とても素敵な宿に二人で泊まって……きゃぁっ」
最後の照れた悲鳴の時に両手で顔を覆い、指の隙間から私の表情を窺っているのが見えます。
これは、この顔には、見覚えがあります。
女です。女の顔です。女としての優越感に浸った、マウント女子の顔です。
思わず【鑑定】を使っていました。
[ブリーゼ・アデリナ・クロイツァー 貴族籍上は伯爵家次女 風属性 称号聖なる乙女〈ギリギリ〉]
とんでもない結果が出たよ。マジか。
妖精が減った理由が判りました。
称号に「ギリギリ」が付いたからでしょう。
無垢な魂に引き寄せられていたのに、ドロドロとした女の部分が出てきたので嫌になったのですね。
称号が完全に変わった時、妖精も居なくなる気がします。
今まで聖女としてチヤホヤされてきたブリーゼは、ただの人になった時の周りの対応に耐えられるのでしょうか。
まぁ、それを心配するのは私ではなく、ヴァッサーや両親なので、放置しますが。
その頃には平民になっている予定ですし、好きに生きれば良いと思います。
もっと良好な関係を築けていれば、私もここまで非情な決断はしなかったでしょうに。
恨むならば、貴女だけを可愛がって依怙贔屓した両親と、それに便乗した自分自身にお願いしますね。
数日後。学校へ行くのに玄関を出ると、私用の馬車の前にヴァッサーが立っていました。
ブリーゼを迎えに来たのでしょうが、なぜ私の馬車の前に居るのでしょうか。邪魔くさい。
「おい! 今日は一緒に行く事を許可してやる」
は? 馬鹿なのかな?
「なぜ一緒に行かなくてはならないのか、理由が解りません。邪魔なので、退いてください」
馬車に乗るには、ヴァッサーを動かさないと乗れません。
貴族らしい遠回しな言い方では通じないだろうと、ハッキリと邪魔だと言ってやります。
「婚約者にそんな態度をとって良いと思ってるのか!!」
馬鹿がヴァッサーな事を言っております。
間違えました。
ヴァッサーが馬鹿な事を言っております。
いえ。言い直さなくても、同じ意味ですね。
「貴方の婚約者は、私ではなくブリーゼですわよね」
ふざけんな、違うわバーカバーカ! と言いたいのをグッと堪え、冷静に返事を返しました。
こちらとしても万々歳ではありましたが、婚約破棄を宣言したのはお前やろがい。
「ふん、だから、お前を婚約者に戻してやろうと言っているんだ」
誰か、この馬鹿に、自分がどれほど馬鹿な事を言っているのか、馬鹿でも解るように教えて差し上げてください。
婚約中は婚約者らしい事を一つもせず、異母妹と不貞を犯した上に、婚約破棄を衆人環視の中でするような公爵家次男のヴァッサー。
品行方正で文武両道な上に、この短い婚約期間で既に好感度爆上がりの、公爵家嫡男のエールデ様。
一般的にどちらを選ぶかなど、火を見るより明らかなのに。
誤字報告ありがとうございます!
乙女〈ギリギリ〉との表記にしたかったのですが、こちらでは()で書くと、ルビ→『乙女』に変換されてしまうのでした。忘れてた




