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知らない、とは怖い事なのですね  作者: 猫卜雪乃


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16:

 


 気のせいではなく、ブリーゼの周りのピカピカが減っています。

 残った妖精も輝きが減っているような気がします。

 あれだけブリーゼ大好き輝かせてやるぜ! な妖精達に、どのような心変わりがあったのでしょうか。

 それか、ブリーゼの方に何か変化が?


「今まで公費は何に使っていたのですか?」

 手元の資料を閉じて、席を立ちます。

 『空白の地』に肥料として使用した物を書き出し、資料としてまとめていたのです。

 私達の後継者試験が終わっても、領地で肥料農法を続けてもらうためです。

 使用済みの茶葉や野菜クズなどが主ですが、最近では藁や(もみ)(がら)も増えてきました。


 効果を実感した雇われ農夫の方々が、知り合いに話して集めているようです。

 色々試してみて記録をするように頼んだのを、忠実に実行してくれているのです。

 自分達の畑でも、撒く物を変えて実験しているとも言っていました。

 こういう方々が領地を発展させていくのでしょうね。

 頼もしいです。



 ブリーゼの居るソファまで行き、前の席に座ります。

 ぶすくれて座っているブリーゼに、もう一度同じ意味の質問を繰り返しました。

「後継者試験用の公費は、何に使ったのですか?」

 ブリーゼは私の顔をチラリと見た後、フンッと顔を逸らしてからソファの背もたれに片肘を突き、勝ち誇ったように笑います。


「ヴァッサー様とぉ、視察に行ってきました!」

 その顔が今までの純粋な幼子のような笑顔と違い、違和感を感じました。

「海辺に行って、とても素敵な宿に二人で泊まって……きゃぁっ」

 最後の照れた悲鳴の時に両手で顔を(おお)い、指の隙間から私の表情を(うかが)っているのが見えます。


 これは、この顔には、見覚えがあります。

 女です。女の顔です。女としての優越感に浸った、マウント女子の顔です。

 思わず【鑑定】を使っていました。

 [ブリーゼ・アデリナ・クロイツァー 貴族籍上は伯爵家次女 風属性 称号聖なる乙女〈ギリギリ〉]

 とんでもない結果が出たよ。マジか。



 妖精が減った理由が判りました。

 称号に「ギリギリ」が付いたからでしょう。

 無垢な魂に引き寄せられていたのに、ドロドロとした女の部分が出てきたので嫌になったのですね。

 称号が完全に変わった時、妖精も居なくなる気がします。


 今まで聖女としてチヤホヤされてきたブリーゼは、ただの人になった時の周りの対応に耐えられるのでしょうか。

 まぁ、それを心配するのは私ではなく、ヴァッサーや両親なので、放置しますが。

 その頃には平民になっている予定ですし、好きに生きれば良いと思います。


 もっと良好な関係を築けていれば、私もここまで非情な決断はしなかったでしょうに。

 恨むならば、貴女だけを可愛がって依怙贔屓した両親と、それに便乗した自分自身にお願いしますね。




 数日後。学校へ行くのに玄関を出ると、私用の馬車の前にヴァッサーが立っていました。

 ブリーゼを迎えに来たのでしょうが、なぜ私の馬車の前に居るのでしょうか。邪魔くさい。


「おい! 今日は一緒に行く事を許可してやる」

 は? 馬鹿なのかな?

「なぜ一緒に行かなくてはならないのか、理由が解りません。邪魔なので、退()いてください」

 馬車に乗るには、ヴァッサーを動かさないと乗れません。

 貴族らしい遠回しな言い方では通じないだろうと、ハッキリと邪魔だと言ってやります。


「婚約者にそんな態度をとって良いと思ってるのか!!」

 馬鹿がヴァッサーな事を言っております。

 間違えました。

 ヴァッサーが馬鹿な事を言っております。

 いえ。言い直さなくても、同じ意味ですね。



「貴方の婚約者は、私ではなくブリーゼですわよね」

 ふざけんな、違うわバーカバーカ! と言いたいのをグッと堪え、冷静に返事を返しました。

 こちらとしても万々歳ではありましたが、婚約破棄を宣言したのはお前やろがい。


「ふん、だから、お前を婚約者に戻してやろうと言っているんだ」

 誰か、この馬鹿に、自分がどれほど馬鹿な事を言っているのか、馬鹿でも解るように教えて差し上げてください。


 婚約中は婚約者らしい事を一つもせず、異母妹と不貞を犯した上に、婚約破棄を衆人環視の中でするような公爵家次男のヴァッサー。

 品行方正で文武両道な上に、この短い婚約期間で既に好感度爆上がりの、公爵家嫡男のエールデ様。


 一般的にどちらを選ぶかなど、火を見るより明らかなのに。




誤字報告ありがとうございます!

乙女〈ギリギリ〉との表記にしたかったのですが、こちらでは()で書くと、ルビ→『乙女ギリギリ』に変換されてしまうのでした。忘れてた

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