15:誰がための
私の【鑑定】結果を聞いたエールデ様は、難しい顔をした後に、遠くを眺めるように視線を上げました。
「確か今頃は、領地内で種蒔きが始まるな」
おそらく視線の先には、領内の農地があるのでしょう。
「ここは言わば捨て地である『空白の地』だから、他で魔法が使われたら栄養を奪われて当然なのかもしれない」
確かに! と思って『空白の地』と普通の土地の境目に目を向けると、不思議な光景に気が付きました。
私達の担当している土地の方が、ブリーゼ達の土地よりも『空白の地』が広がっているのです。
え? 逆なら解るけど、何で?
私達のやっている事が間違っているの?!
……と、不安になったのですが、その謎はすぐに解けました。
逆側、要は肥料の素を撒いた土地側は、私達の土地の方は広がっていなかったのです。
肥料の素、もう肥料で良いか……を撒いた土地は『空白の地』から外れて、精霊的には普通の土地だと認識されたようです。
だから、栄養も取られなかったのでしよう。
農夫とは別に人を雇い、『空白の地』の測量をお願いしました。
こっそり隣の土地も。
当然、アンドロシュ公爵の許可は取ってます。ブリーゼ達に内緒にしたのは、要らぬ詮索をされたくない、要はいちゃもんつけられたくないからですね。
結果。ブリーゼとヴァッサーの土地の方が、少しだけ荒地が広がってました。
こちら側は植えた苗が犠牲になった分、広がりが抑えられたようです。
世知辛い。
そりゃ精霊も泣くな。
肥料モドキが有効だと判ったので、農地魔法だけの土地にも追い肥をする事にしました。
追い肥の方法は、土魔法保持者のエールデ様と農夫が色々話し合っていました。
今回は撒くわけではないので、風魔法の私は役立たずです。
それから境界よりもこちら側にある農地保有者に、肥料の素を土に混ぜてから農地魔法を使用するようにお願いしました。
既に農地魔法を使用してしまった土地でも、種蒔き前なら施行してもらいました。
種蒔き後の農地は、今更どうしようもないので諦めました。
境界を跨ぐ土地には、境界よりもこちら側だけにするように、と念押しをしておきます。
おそらく『空白の地』に立てた境界は、延長してそのまま土地全ての境界になっていると思われるからです。精霊も今回の後継者試験を理解しているようなので。そうでなければ、あちら側とこちら側で荒地化が違うなどありえないのです。
あちら側の土地まで肥料を撒いては、敵に塩を送る事になりかねません。
勝負は勝負ですからね。
「おねえさま! 私達のお金を勝手に使ったでしょう!」
相も変わらず、ノックもしないで扉を乱暴に開けたブリーゼが部屋に踏み込んで来ました。
あら? 気のせいかでしょうか。いつもより輝きが少ないですね。
「私達のお金とは、どれの事をおっしゃっているのかしら?」
個人維持費は完全に分けられているし、クロイツァー伯爵家のお金の事を言っているのならば、そもそも貴女のお金ではありませんよ。
「私とヴァッサー様のお金の事よ!」
予想の斜め上の答えが返って来ました。「私達」がブリーゼと私、ではなくブリーゼとヴァッサーの事だとは気付きませんでしたわ。
「それは『空白の地』改善の為の公費のことかしら?」
確か既に全額引き出されたってエールデ様が言っていたわね。
「私が宝石を買おうとしたら、もう残高が無いって言われたのよ! おかしいでしょう?!」
おかしいのはお前の頭だ、馬鹿。
なぜ改善費で宝石を買おうとしてるんだ、馬鹿。
「なぜ『空白の地』の改善に宝石が必要なのかしら?」
気になったので、一応聞いてみましょう。
「だってまずは私達の心と体を豊かにしないと、駄目でしょう? そうしないと安定して魔法が使えないじゃない」
ヴァッサー様もそう言ってたし、とかドヤ顔で言ってるけど、ち・が・う・か・ら・な!
まさか水撒きしているだけで公費が貰えるとでも思っているの?……思っていそうだな。
時給いくらだよ。
農夫を六人とりあえず一ヶ月雇って、測量師四人を二日、これから肥料として配る物を回収する人と、配布する人をそれぞれ十五人の計三十人。
それら全てを雇っても、公費にはまだまだ全然余裕があります。
それなのに全て使い切ったらしいブリーゼ達は、どこにどれだけつぎ込んだのでしょうか。
公費は先払いなので、領収書などは必要ありません。
何に使うか申告するだけで大丈夫なのですが、『宝石購入』ではさすがに通らないので、嘘を申告したのでしょう。




