11:空白の地
荒地再生勝負が始まり、早くも十日が経ちました。
今まではエールデ様と学校帰りにお会いして、荒地開拓の為の会議を開いておりました。
街で評判のカフェで食べるケーキセットはとても美味しかったです。
実は意外と甘党のエールデ様は、今まで婚約者がいなかったので、カフェに来る事が出来なかったのだと、ケーキを前に嬉しそうに笑っていました。
引く手数多のはずなのに、なぜ今まで婚約者がいなかったのでしょうか?
不思議です。
ほぼ毎日、楽しくカフェでお茶です。
色々な案を話し合い、お互いに高めあっている実感があります。
婚約者との交流って、本来こういうものですよね。
ヴァッサーは、伯爵邸に勝手に来て、ブリーゼとお茶して食事して、帰り際に私の勉強室へ来て、罵倒して帰って行ってました。
一応顔を合わせれば、交流したと主張出来ると思っていたのでしょう。
「このお茶の木というのは、紅茶を作るための木では無いのか?」
荒地再生の為の下見で一緒に植物園に行った時、エールデ様は私の購入希望のお茶の木を見て質問してきました。
「はい。紅茶も作れますが、私が作りたい緑茶も同じ木なのです」
緑茶も紅茶も烏龍茶も、同じお茶の葉から作られるのです。
今現在、この国には紅茶しかありませんが。
今までに無いお茶、緑茶を荒地で栽培から加工まで出来れば、荒地再生だけでなく領地への貢献にもなりますよね?
そう提案した私にエールデ様は、とても良い笑顔をくださいました。
因みに黒くはない、本当の良い笑顔でした。
爽やか王子様スマイルです!
実は、自分が飲みたいだけなのです、とは言えませんでした。
今日は学校の帰りに、エールデ様と荒地で待ち合わせをしております。
思ったよりも早く着いたようで、まだエールデ様は居ませんでした。
目の前には雑草一本生えていない荒地。
下を見ると、結界でも有るかのようにくっきりと分かれた草地と荒地。
持って来た木箱を従者に持ってもらい、一緒に荒地へと歩みを進めます。
荒地の土は乾燥も激しく固そうで、見るからにカチカチの栄養不足。
水を撒くだけでは改善しそうもないですね。
そのような事を考えていた私の視界の隅に、激しい水が落ちてくる光景が映りました。
半分に分けられた土地の、境界杭より向こう側。ヴァッサーとブリーゼ側の荒地に、集中豪雨が起きていました。
というか、滝? 滝だよね?
「わはははは! 水だ! 水を降らせれば、荒地など復活するに決まっている!」
馬鹿……いえ、ヴァッサーの高笑いが聞こえてきました。
その程度で復活するのならば、今頃この国から荒地は無くなっているわよ!
「土壌から水分を奪って、上から水を降らせているだけだな」
いつの間に来たのでしょうか。私の頭上からエールデ様の声が聞こえてきました。
魔力の色が見えるエールデ様は、ヴァッサーの水魔法の動きが見えるようです。
カラカラの土に水を撒いたからといって、土壌が復活するはずないのに。
それに水を撒いた後は?
種も苗も用意してないようだけど、荒地を濡らして何がしたいの?
前世知識が無くても、それくらいは解るものではないの?
ぬかるんだ泥沼を作ったヴァッサーとブリーゼは、満足そうに帰って行きました。
これ、このまま乾燥したら、ひび割れた土地が出来上がるだけだと思うのだけど……。
境界は杭と網しかないのに、ヴァッサーの水は一滴もこちらには入って来ていません。何か特殊な魔法がかけられているのでしょう。
[泥濘 枯れた土 過剰な水に浸かっている 栄養不足]
思わず隣の土地を【鑑定】してしまったよ。
あらら、こりゃ酷い。
何もしていないこちら側も、似た結果ではあるのですけれどね。
[荒地 枯れた土 乾燥が激しい 栄養不足]
水の前に、栄養不足が問題なのかもしれません。
予想通りですね。
待ち合わせをしていたエールデ様は、隣の惨状から私の足元へと視線を移しました。
少しだけ怪訝な表情をした後、にこやかに挨拶をしてきます。
「お待たせしてしまい、すみません」
「いえ、私も今来たところですわ」
お決まりの挨拶の後、私は足元の木箱を開けました。
木箱の中身は枯れ葉や灰、野菜クズなどです。本当は腐葉土や肥料を用意したかったのですが、それを作っている時間はさすがにありません。詳しい知識も。
だから土魔法で、土に栄養を蓄えるのです!通称、農地魔法です。
しかし何も無い所を栄養豊富な土にする普通の農地魔法ではなく、栄養の素になりそうなものを混ぜてからの魔法です!
「エールデ様、これを土に混ぜて栄養の素にしてから、土魔法で農地に出来ますか?」
私の問いに、エールデ様はキョトンとした表情をしていました。
普通の農地魔法は「土に栄養を」と唱えるだけで、土壌が栄養豊かになります。
その栄養はどこから来るのでしょうか?
この世界の人は、誰もそれを疑問に思いません。そういうものだから。
魔法で楽に何でも出来てしまうので、肥料という概念が無いのかもしれません。
魔法は精霊により使えるとされています。
おそらく精霊は、必要な栄養を他から持って来るのでしょう。
水もそうです。有る所から、持ってくる。
精霊達は苦肉の策で、それぞれの領地の一部に捨て地を決め、そこから必要なものを調達するのでしょう。
だから、色々と足りない土地が発生してしまう。それが荒地……『空白の地』と呼ばれる土地になると考えれば、納得です。




