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第四話「ストレンジ家の小客間にて」

 憎たらしいほどの快晴の下、私は一人で本を読んでいた。束の間の休息とでも言おうか。レスターだって毎分毎秒エイドリアンをいじめていたわけではない。エイドリアンも今の時間は訓練をしていてるし、レスターはレスターで勉強や社交マナーの暗記などやらなければならないことがある。

 

 魔法の才能がない分他のことで補わなければ、いよいよストレンジ家での居場所がなくなってしまうからな。

 作中のレスターも少しでも周囲に認めてもらうためだけに、かなりの時間を勉学に費やしていたはずだ。結果として、その努力が報われることはなかったが。

 

 レスターは三男坊なので家業を継ぐことはないが、この先シナリオ通りに進めるなら学園への入学は避けられない。いざとなればコネや金も惜しまないつもりだが……そう、この乙女ゲームは学園ものなのだ。

 

 王立魔法学園はかなりの実力主義で、成績次第では平民でも入学が可能なのである。ヒロインは平民でないものの、なんというんだったか……没落貴族? そういう、あまり恵まれない環境に生まれ、光属性が使えることを知るまでは齢九歳にして二回り以上年上の貴族に嫁がされることになっていた。

 

 光属性への適性の有無……たったそれだけで、人間の立場は変わってしまうのである。


 それにしても、学園に入れば嫌な貴族に目をつけられ、攻略対象と結ばれるまでは決して報われることがないなんて、つくづく不幸な少女だ。

 こういうのも乙女ゲームでは王道の設定なのだろうか。物語のために不幸であることを定められているなんて、ちょっとかわいそうだな。

 

「レスター様、もう少しでアルガ様とのご予定のお時間です」

「あー、そういえば……そうだったな」


 メイドに言われるまですっかり忘れていたが、今日は大事な予定があった。

 

 数少ないレスターの知り合いであるアルガ・イーストウッド。イーストウッドの三男坊で、このゲームの攻略対象の一人だ。レスターとは身分も境遇も近いものがあり、ゲーム内でも幼少期からの関わりを匂わせるような描写があった。

 

 レスターとの明らかな相違点は、アルガが誰からの期待も背負ったことがないという所だろう。平凡な容姿と能力に加え優しい性格で、これと言った問題を起こす事もないので皆が彼に無関心になっていた。ここで損なわれた自信を与えるのが主人公の役目なのだ。

 

 定期的に設けている彼とのお茶会は、名目こそ社交の情報共有だが、本当にただの雑談をすることも少なくなかった。人間不信なレスターが交流を続けていたということは、少なからず情があったのだろうと思う。友情か同情か、判別はつかないが。



 

「久しぶり、レスター」


 すでに部屋に通されていたアルガは、少し前にあった頃となんら変わらず、落ち着いた様子で座っていた。


 平凡な容姿と言ったがそれは異世界での価値基準であり、純日本人の私から見れば、燻んだ緑髪に純朴の金の瞳がまるで森の大精霊のような雰囲気を醸し出している。見た目だけで選ぶなら、個人的に攻略対象の中で一番好みだ。

 

 彼は攻略対象の中で唯一レスターの断罪に手を貸さないキャラクターだった。どれだけ相手が非道な存在であっても、傷つけることを拒むのだ。本物の聖人君子である。彼が手を貸そうが貸さまいが、レスターの断罪は確実だけど。


「少し顔色が悪いね、体調が優れないのかい?」


 自分なりに乱暴な感じで向かいに座ると、純粋な瞳でそう言われ、なぜか居心地が悪くなった。こんないい子にも悪態をつかなきゃいけないなんて、冗談じゃない。


「いや、まあ……そんなことねーよ。いつも通りだぜ」


 やはり、彼相手はやりづらい。目の前の彼は、すべての悪を浄化する力があるのではないかと勘繰ってしまうほどの正のオーラが漂っていた。


「そう……無理はしないでね」


 それからは普段通り、今の政治や経済の話になった。歴史や社会の授業は苦手だったのに、こうして話を聞いてみると案外すんなり頭に入ってくる。


 薄々とわかっていたことだが、私はレスターの外見だけでなく能力値まで引き継いでいるらしく、女子高生の時は趣味でもあった運動全般が苦痛に感じるようになっていた。

 つまり、この政治への理解力はレスターの物だ。レスターにも得意なことがあったんだな……。


「エイドは元気? 挨拶したかったんだけど、今は訓練中だよね」

「おー……」


 アルガはため息をつき独り言みたく「また三人で遊びたいなあ」とこぼした。

 十一、二歳になって社交デビュー直前の私たちは、学問に剣や魔法の基礎訓練が重なりかなり多忙だった。貴族の生活も一筋縄じゃいかないものだ。


 前世を思い出したばかりの幼い頃のように、屋敷の中を大冒険したりなんてことはもうできないだろう。このままシナリオが進めば遊べないどころではなくなるのだが……少し寂しくなった。


「もうすぐ休憩時間だと思う。行ってこいよ」

「ほんと? ……レスは?」


 一緒に行かないのか、という意味だろうか。私には彼の前でエイドリアンを殴れる自信がないので、丁重にお断りしたい。

 

「行かねー」

「そっか……」


 意外にすんなり納得してくれたかと思えば、アルガの口はそこでは止まらなかった。

 

「でも、本当にいいの? 仮にもストレンジの人間が、お客様をほっぽりだすなんて」


 これは最近気づいたことだが、目の前で天使のように柔らかく微笑んでいる少年は、十二歳とは思えないほど頭が回るのだ。そして、持ち前のあざとさを自覚しているのではないかと疑うほどに甘えるのがうまい。

 

 レスターにはない末っ子属性だ。実を言うと私自身前世では長姉だったので、戦うことすら無謀なのである。


「わかったよ、ただ……俺は話さないからな」

「うん! ありがとう、レス」


 程よく飲み干したティーポットを置いて、私たちは屋敷の離れにある訓練場へ向かった。

 

 ゲームでの彼らも、こんなふうに肩を並べ仲良く会話していたのだろうか? 少なくとも、今の(レスター)とアルガは友人と言って差し支えない関係だ。

読んでいただきありがとうございます!

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