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夜の公園と高嶺

掲載日:2025/11/18

 毎日のことだけど、部活が終わった頃には月が昇っている。仄かな灯りに包まれながら、ボクは帰路に着くわけだ。


 その道中に公園がある。公園といっても、木々や草原が広がる自然が主役の広い公園。遊具はほぼ無い。


 いつも通り自転車を漕いでいると、その公園の奥からアコースティックギターの音色と女性の歌声が聞こえた。


 気になって耳を済ませたが、何を歌っているかは分からない。ただ、確かに空気を揺らしていた。


 三百六十五日と少し、毎日同じ道を往復していて、初めてのイベント。惹かれて、自転車を降り、入口に停め、公園の中へ入ってゆく。


 石畳の道の両脇に木々があり、不気味に影を作っている。所々にある街頭は、本来足元を照らしてくれるものなのに、何故か心もとない。


 ギターと声の方向へ、奥へ、奥へ。


 "ここだ"という場所まで辿り着いた。なのに姿が見当たらないのは、サザンカの茂みに隠れているからだ。この茂みを覗けば、そこにいる。


 えも言われぬ非現実感に心が踊る。と同時に不安も募る。


 近所だから何度も訪れたが、サザンカの茂みに囲まれた空間には一つだけ石の丸椅子がある。ただそれだけで、人が辛うじて二人入るくらいの空間しかないのだ。


 そんな場所で弾き語りをするのは、単なる練習に丁度いい場所だったからだろうか。でもそれだと、今日初めて気がつくのは違和感がある。


 得体の知れなさに非現実感がさらに盛り上がり、不信感がまた募る。けれど好奇心には逆らえない。


 ──覗いた。


   〇


 「あれ、聞こえちゃった?」


 大学生か、少し大人びた高校生か。そのくらいの歳に見える女性がいた。


 「あっ、こんばんは。綺麗な声を辿ってきたら……」


 「ふふっ、ありがとう。私は『タカネ』っていうの。あなたは?」

 「ボクは『ハナ』って言います」


 彼女は少し目を丸くして、その後すぐに、

 「初めてのお客さんが綺麗な子で、嬉しいよ」と笑った。

 「聴いてくかい?」

 「うん、是非」


 ──彼女以外の声は聞こえない。少し低くて、心地よく心臓を震わしてくれる歌声。震える心が熱を生み、身体がポッと温かくなるのを感じる。


 「──♪」


 辺りには誰もいない。


 「♪──」


 二人だけがそこにいる夜。不思議な、夜。


 「──。……鬼束ちひろさんで『月光』でした」

 ボクは拍手を送った。


 「どうだった?」

 「上手く言葉にできてるか分からないけれど、すごく切なくて、でも、力強さというか怒りというか、静かに燃える炎を感じました 」

 「言葉に出来てるよ」

 彼女は微笑みかけた。


 「聞いたこと無かった?」

 「無かったです」

 「じゃあ本家も是非聴いてみてほしいな」

 ボクはこくりと頷いた。


 少しの沈黙のあと、彼女がふと口を開いて、

 「もう少しだけ、ここに居れるかい? というか……居て欲しいな」

 「少し待っててください」


 スマホを開いて確認すると七時三十二分と表示されていた。それからラインを開いて母に連絡する。


 『部活の時間が下がっちゃって、今から帰るので少し遅くなります』


 「これでよし」


 実際この公園から自転車を漕げば二分ほどで家につく。が、今学校を出たことにして、彼女との時間を延長した。


 「うん。じゃあ今日は、楽しんでね」



   〇


 気づけば約一時間が経っていた。

 スマホを確認すると、八時三十分と表示されている。遅くなりすぎちゃったかな。


 「そろそろ帰るのかい?」

 「うん、お母さんを心配させちゃうので」

 「そうだね。今日はありがとう」

 「ううん、こちらこそ。とっても素敵で、特別な感じでした」

 「それは良かった」

 「……あの」

 「なんだい?」

 「次はどこで、その、弾き語りする予定ですか」

 「それは……まだ決めてない」

 「じゃあ、あの、また聴けるように、また会えるように、良ければライン交換してもらいたいです」

 「……それがあいにくスマホが壊れててさ」

 「そうですか……」


 どこに住んでいるか。聞こうとしたけど、今日初めて会ったばかりの人というのもあり、聞けなかった。


 「んじゃ、バイバイだね」

 「はい、また会えるのを楽しみにしてます」


 彼女はニコッと微笑んで手を振る。

 ボクは少し照れ気味に手を振り返して、背を向ける。

 振り返って目が合っちゃうと気まずいから、真っ直ぐを向いて、公園の入口へ向かう。


 入口に停めてあった自転車のロックを外し、乗り、ギアを最大にして、彼女と出会う前よりも深まった夜を駆け抜けた。


 〇


 以降、彼女と出会うことはなかった。


【後書き】

鬼束ちひろさんが作詞・作曲、歌唱をした『月光』を、タカネが弾き語りをするというシチュエーションで用いらせていただきました。


もし、まだ聴いたことのない方がいれば、是非聴いていただきたいです。

また、『月光』はドラマ『TRICK』の主題歌です。ドラマ『TRICK』、すごく面白いのでそちらも是非。

 

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