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作者: 通りすがり

教室の窓際の席で、友人の徹が暗い顔をして座っている。

いつもなら昼休みには周囲の友人と談笑しているはずの徹が、一人で窓の外をじっと見つめている。

「どうしたんだ」

俺は気になって声をかけると、徹はゆっくりとした動作で窓の外の空を指差した。

「なあ、瑛士、……あれが見えるか」

徹の指の先には、青空にぽっかりと浮かんだ、細長くまとまった一塊の雲があった。どこか昔の人気アニメの主人公が乗っていた雲の乗り物のようだった。

「ああ。あの雲がどうかしたか」

徹はさらに表情を曇らせながら、ボソッと囁くような小さな声で言った。

「……俺のあとをつけてくるんだ」

「えっ、なんだって」

徹の言ったことの意味がわからず、思わず聞き返していた。

そんな俺の困惑した様子を見て、徹は再び、しかし今度ははっきりとした声で言った。

「あの雲が俺のことをつけてくるんだ」

それを聞いて俺は苦笑してしまった。ただの冗談か、それでなければ何かの見間違えだろうと思った。

「気のせいだろ。雲なんてただの水蒸気の塊だよ。それがつけてくるなんてことあるわけない」

だが徹は首を横に振った。

「今日は風強いだろ。他の雲は全部流れていくのに、あれだけずっと同じ場所から動かない。昨日も、一昨日も……ずっと、俺のいる方角に向いて浮かんでいるんだ」

俺は思わずくだらないとばかりに笑い飛ばした。同じ雲のはずがない、偶然似たような雲がそのように見えるだけだ、と。

たが徹は、それに何も言い返さず、ただじっとさっきの雲を睨んでいた。



数日後。

その朝は雲一つない快晴だった。空は澄み切って、どこまでも青い。

教室に入ると、徹はまた自分の席で、以前と同じように暗い顔をして空を見ていた。

「まだあの雲のこと気にしてるのか。今日は雲一つないぞ」

そう言うと、徹はゆっくりと指を上げた。

その瞬間、何か嫌な予感がした。

徹が指さした窓の外を見る。

――あった。完璧な快晴の空に、不自然にぽつりと一つだけ浮かんだ雲。

思わず言葉を失ったが、強がって言った。

「前に見た雲と違うだろ。大きさも形も違う。別物だって」

徹はうっすらと笑った。それは乾いた、疲れた笑いだった。

「あれは、毎日形を変えている。しかも、だんだんと大きくなってる。……俺が気づいたからだ。気づいた“人間”を、見逃さないんだよ、あれは」

徹の声はかすれ、震えていた。

背筋に冷たいものが走った。俺はどう反応すればいいかわからなかった。



さらに数日が過ぎた日の、体育の授業中。

その日も朝から空は雲一つない快晴だったのが、突如、黒い雲が空を覆い始めた。

大粒の雨が降りつける中、濡れるのを避けるために、授業中だった生徒達は各々雨宿りができる場所へと避難した。

俺たち一部の生徒は校庭の隅に立つ大きな木の下へと避難していた。

ふと横を見ると、徹が青ざめた顔で震えていた。

「俺は見た。あれだ……あの雲が突然黒くなり、空一面に滲むように大きく広がっていったんだ。ついに俺を……殺す気なんだ」

次の瞬間、徹が叫んだ。

「やめろ!! こっちへ来るな!!」

すると徹は、濡れた地面を蹴って、木の下から飛び出すと、校舎の方へと走り出した。

周囲にいた友人や教師が、その様子を唖然とした顔で見ている。

その瞬間――

空間が破裂したかのように、眩い閃光と轟音が周囲を引き裂き、世界が白く弾けた。

やがて目が慣れ辺りの様子が見えるようになったとき、徹が校庭の真ん中に倒れているのが見えた。徹の全身からは白い煙が立ち上っている。

周囲は人々の悲鳴で満ちた。



徹の死は誰もが、落雷による事故だと思っていた。

……だが、俺は見てしまった。

雷が落ちる直前、黒雲の裂け目の奥。

そこにほんの一瞬だけ覗いた、“何か”があったことを。

そして今、俺は恐れている。かつて徹が恐れていたように。


あれ以来、俺は空を見ないようにしていた。

だが――

俺はついにそれに気付いてしまった。

雲一つない快晴の空に、そこに白い雲がひとつ、ただ静かに浮かんでいることに。

そして気付いた瞬間、雲はぴたりと動きを止めた。

もう、目を逸らしても遅いのだろう。

俺も、“見つかっってしまった”のだから。

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