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捨てられた聖女は、王の敵を救う  作者: マルコ


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第2部 第3章 眠れる光 ―少年カイと女神の記憶―

 ……静寂。

 闇の奥で、ひとすじの光が差した。


 カイは夢の中にいた。

 どこまでも白い世界。

 足元には鏡のように澄んだ水が広がっている。


 耳を澄ますと、誰かの声がした。


「……カイ。あなたは“二度目の祈り”」


 振り向くと、そこにいたのは――リオナに似た女性だった。

 だが、その瞳は黄金に輝き、背には淡い光の羽が揺れている。


「あなたは……誰ですか?」


「私は“最初の残響”。

 リオナが目覚めるより、ずっと前にこの世界を見ていた存在。

 そして――女神の“原型”」


「女神……?」


 女性は微笑んだ。

 だが、その笑みにはどこか哀しみが宿っていた。


「私は、祈りを与えた。

 けれど、人はそれを“奇跡”と呼び、

 いつしか依存し、憎み、奪い合うようになった」


 周囲の光が揺れ、戦火の映像が映し出された。

 信仰が分裂し、同じ神を掲げて争う人々。

 その中で、女神は涙を流していた。


「私は、彼らのために力を使い果たし、

 この世界に“祈りの残響”を残した。

 それがリオナ。そして――あなた」


「僕が……?」


「あなたは“再生の祈り”。

 私の記憶を持つ最後の人間。

 でも、あなたが世界を導くわけじゃない。

 あなたは“誰かを信じる者”になるために生まれた」


 カイは拳を握った。

 「信じる……? でも僕は、誰も救えなかった。

  村も、友達も……守れなかった」


 女神は首を振り、そっと彼の胸に手を当てた。


「守るとは、誰かを失わないことじゃない。

 誰かを想い続けること。

 祈りは死なない――想いの限り、何度でも立ち上がる」


 その言葉と共に、光が広がる。

 水面が輝き、女神の姿がゆっくりと溶けていった。


「行きなさい、カイ。

“祈りの継承者”として――リオナを守りなさい」


 カイは手を伸ばした。

 しかし、指先は光の中で霧散した。


 ――目を開けると、森の中だった。

 焚き火の消えた跡、リオナとレオンが眠っている。

 夜明け前の冷たい空気が、頬を刺す。


 胸の奥で、何かが脈打っている。

 カイは静かに呟いた。


「……僕は、女神の記憶を見た」


 小さな声だったが、リオナが目を覚ました。

 「カイ……夢を見たの?」


「いいえ。

 本当のことです。

 あの人は、“最初の残響”だと言っていました。

 リオナ先生、あなたと同じように――祈ってた」


 リオナは驚きに息をのんだ。

 「“最初の残響”……そんな存在が本当に……」


 カイは頷いた。

 「そして、僕に言ったんです。

  “祈りは死なない”って。

  だから、もう逃げません」


 その瞳には、もはや少年らしい迷いはなかった。

 リオナは微笑んだ。


「そうね……。

 あなたの中にある光、それはきっと希望。

 ――あなたが世界を変える」


「違います。

 僕じゃない。

 みんなで、変えるんです」


 レオンが眠たげに目を開けて苦笑した。

 「……すっかり立派になったな」

 「将軍、聞いてたんですか」

 「寝たふりくらいは得意だ」


 焚き火の灰をかき混ぜ、レオンは言った。


「よし、決まりだな。

 サフィールの教団を追う。

 カイ、お前の中の力が鍵になる」


「はい」


 リオナは小さく頷き、空を見上げた。

 夜が明け、東の空が金色に染まっていく。

 風が吹き、彼女の髪を揺らす。


 その光景を見つめながら、カイは静かに思った。


(女神さま。

 僕はこの手で、あなたの“祈り”を終わらせない。

 それを、未来へ繋ぐんだ――)


 その頃、遠くの山岳地帯。

 黒の教団の拠点で、サフィールは静かに膝をついていた。

 破壊された修道院の瓦礫の欠片を拾い上げながら、

 口元に笑みを浮かべる。


「女神の記憶が少年に宿った……?

 ならば、私が神を超えてみせる。

 人の手で、祈りを創り出すのよ」


 その背後で、兵が一人震えながら尋ねた。

 「サフィール様……神を、超えるなど――」


「違う。

 私は“神を再構築”する。

 祈りを信じられなかった女の、最後の救済として」


 黒い風が吹き抜けた。

 夜の空に、歪な月が浮かぶ。

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