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捨てられた聖女は、王の敵を救う  作者: マルコ


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第2部 第2章 黒の契約者 ―失われた祈りの教団―

 焚き火の火が小さくはぜた。

 夜は深く、風は冷たい。

 カイは眠れず、薪を見つめていた。


 あの村が燃える光景が、まだ目に焼きついて離れない。

 泣き声。倒れる人々。

 ――五年前に終わったはずの戦火が、再び現実に戻ってきた。


「……俺のせいで」

 小さな声がこぼれる。


「違う」

 背後からレオンの低い声が返る。

 彼は木に背を預け、剣を膝に置いていた。


「狙われたのは、お前のせいじゃない。

 “残響”という力に群がる愚か者が悪い」


「でも、僕の中の光があったから……」

「その光がなければ、リオナも俺も助からなかった」

 レオンは目を閉じ、焚き火の明かりに顔を照らす。


「罪は力そのものじゃない。どう使うかだ」


 カイは言葉を失った。

 それでも、レオンの声は静かに胸に響いた。


 その頃。

 森のさらに奥、黒衣の集団が円陣を組んでいた。

 松明の炎が、彼らの顔を照らす。


「……第二の残響は覚醒した」

 低い声が響く。

 中央に立つ女の影が、一歩前に出た。


 長い黒髪、紅い瞳。

 彼女の名は――サフィール。

 かつて女神教団の高司祭にして、“祈りの力”を科学的に転用しようとした禁術師。


「やはり、リオナの“祈り”は人の中で受け継がれた。

 だがそれは、神の意志ではなく――人の不完全な模倣」


「サフィール様、どうなさるのですか」

「奪うのよ。

 “第二の残響”を。

 あれを手に入れれば、私たちは再び女神を創れる」


 狂気を孕んだその笑みが、闇に消えた。


 夜明け。

 リオナたちは古い修道院の跡地に身を隠していた。

 苔むした壁、崩れた祭壇。

 かつて祈りの場だった場所は、今や静寂の墓標のようだった。


「ここに……教団の記録があるはずです」

 リオナが古い書架を探る。

 埃をかぶった巻物を開くと、そこには奇妙な図が描かれていた。


「“契約の印”……」

 その言葉にレオンが眉をひそめる。


「バルディスが使っていた呪印と似てるな」

「はい。でも、これはもっと古い。

 女神の時代に存在した“祈りの実験”。

 人の感情を魔力として変換し、神を再現しようとした……」


「そんなことをすれば、また世界が歪む」

 レオンが拳を握る。

 リオナは頷き、静かに言った。


「だから、止めないといけません。

 今度は私たちが――」


「……うっ」


 突然、カイが胸を押さえた。

 光が漏れ、修道院の壁に模様が浮かぶ。

 蒼い紋が広がり、古代文字が輝いた。


「カイ!?」

「先生……なんか、頭の中に……声が……!」


“……カイ……こちらへ……”

“光を……繋げ……”


 リオナの目が見開かれる。

 その声――かつて自分を導いた“女神の声”に似ていた。


「まさか……。

 女神の残響が、彼の中に……!」


 レオンが剣を構える。

 「待て、誰か来る!」


 外から、足音が近づく。

 黒衣の影が修道院に入ってきた。


「見つけたぞ、“神の器”」

 先頭に立つのはサフィール。

 その瞳が、リオナを見て細く笑った。


「久しぶりね、元聖女。

 あなたが否定した“神の力”を、今度こそ私が完成させてあげる」


「サフィール……!

 あなたはまだ、あの実験を続けていたのね」


「当然でしょう? “神”がいなくなった世界は弱すぎる。

 祈りだけでは、人は救えない」


 サフィールが手を掲げると、黒い炎が渦を巻いた。

 教団の兵が一斉に動く。


「レオン、下がって!」

 リオナが手を広げ、光の障壁を張る。

 だがサフィールの炎がそれを裂いた。


「リオナ先生!」

 カイが叫び、無意識に手を伸ばす。

 次の瞬間、彼の掌から蒼白い光があふれた。


 空気が震える。

 修道院全体が光に包まれた。


 黒衣の兵たちが弾き飛ばされ、サフィールが驚愕の声を上げる。

 「この力……女神の……!?」


 カイの瞳が蒼く光り、口が勝手に動いた。


「――“神は人の中にある”」


 その言葉は、かつてリオナが祈りの終わりに口にしたものと同じだった。

 だが、それを告げる声は確かに“女神”のもの。


「やはり……彼の中に“神の残響”が!」

 サフィールが後退する。


 リオナが叫ぶ。

 「カイ、戻って! その力を使っちゃだめ!」

 「僕、止められない……!」


 光が弾け、天井が崩れた。

 レオンがリオナを抱きかかえ、外へ飛び出す。

 爆音と共に修道院が崩落する。


 森の外。

 夜風が吹き抜ける。

 カイは膝をつき、意識を失っていた。

 その胸の紋章は、静かに脈動している。


 リオナはその手を握りしめ、震える声で言った。

 「……彼の中に宿るもの、それは“希望”か“災厄”か……」


 レオンが静かに答える。

 「どちらでもないさ。

  ――それを決めるのは、俺たち人間だ」


 東の空が白み始める。

 夜明けの風の中、リオナは再び誓った。


「ならば、今度こそ。

 奇跡ではなく、意志で世界を救う」

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