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捨てられた聖女は、王の敵を救う  作者: マルコ


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第1部 第5章 王城の決戦 ―祈りの剣と赦しの光―

 夜明けの王都。

 黒い雲が城の尖塔に絡みつき、まるでこの国そのものが闇に呑まれていくようだった。


 城門前。

 リオナとレオンは、わずか十数名の部下と共に立っていた。

 兵の顔には恐怖よりも決意が宿る。

 誰もが知っている――今日が終われば、国の未来が変わると。


「……準備はできてるか」

「はい。……もう逃げ道はありませんね」

「元からねぇよ」


 レオンが剣を抜き、曇天を映す。

 その刃は、まるで“希望の最後の線”のように光っていた。


「行くぞ。今日で終わらせる」


 城内。

 重厚な扉を破り、兵たちは突入した。

 廊下の奥から、宰相バルディスの近衛兵が雪崩れ込む。

 黒い鎧、黒い瞳、そして胸に焼きついた呪印。


「こいつら、もう人じゃねえ……!」

 副官が叫ぶ。

 リオナは前へ出た。


「下がってください!」


 両手を広げ、光の膜を張る。

 祈りの光が黒い呪印を包み、兵たちの動きが止まる。

 痛みを感じたように、彼らは苦しげにうめいた。


「やめてください……! あなたたちは、ただ操られているだけ!」


 光が広がり、鎧の紋章が焼き切れる。

 次の瞬間、兵たちは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


 レオンがリオナの背中を守るように立ち、息を吐く。

「……見事だ。だが、ここからが本番だ」


 玉座の間。

 高窓から差し込む光を背に、バルディスが立っていた。

 その手には、リオナの祈りを封じた聖遺物――“女神の心核コア”。

 黒い光がそれを包み、空気を歪ませる。


「来たか。神の器と、その護衛」

 嘲るような声。

 レオンが剣を構える。


「お前の野望も、ここまでだ」

「野望? 違うな。私は“進化”を求めただけだ。

 神の力を人の手に移す――それが真の救済だ」


「それは支配だ!」

 リオナの声が響く。


「祈りを奪って何が救いですか。

 あなたがやっているのは、神を殺して自分が神になること……!」


 バルディスが冷笑した。

 「神を殺して何が悪い。

  人は神に縋りすぎた。

  だから私は“神の残響”を奪い、永遠の秩序を築く!」


 杖を振り下ろした瞬間、黒い光が奔る。

 床が裂け、炎が噴き出した。

 レオンがリオナを抱えて飛び退く。


「くそっ、これが奴の力か!」


 バルディスの周囲に闇が渦巻く。

 その中に、無数の顔が浮かんだ――死者の魂。

 かつての聖堂の信徒、戦で散った兵、祈りを裏切られた者たち。


「見ろ。これが“祈り”の果てだ。

 神は彼らを救わなかった。だから私が代わりに支配する!」


「……違う!」

 リオナの声が震える。

 涙が頬を伝う。


「祈りは、支配されるためにあるんじゃない!

 誰かを想うためにあるの!」


 リオナが両手を広げた瞬間、

 聖印が光を放った。


 白と黒の光がぶつかり合い、世界が揺れる。

 レオンが歯を食いしばり、前に出る。


「リア! 俺に力を貸せ!」

「はい――!」


 祈りと剣がひとつになる。

 白い光が刃を包み、祈りの紋が剣身に走る。


「行くぞ、神の残響――!」

 レオンが叫び、闇を裂く。

 バルディスの杖が粉砕され、黒い光が弾けた。


「馬鹿なっ……この力は神の――!」


「違う。人の祈りです!」


 リオナの声が響き、黒い光が霧散した。

 バルディスの体が崩れ落ちる。

 その手から聖遺物が転がり、リオナの足元に転がった。


 光が静かに消える。

 長い沈黙。


「……終わった、のか?」

 レオンの声が震える。


 リオナは聖遺物を拾い、胸に当てた。

 「はい。もう、誰もこの力を奪えません」


 その時、瓦礫の奥から、誰かが現れた。

 ――金髪の青年。王太子アレクト。


「リオナ……本当に、生きていたのか」


 リオナは静かに頷く。

 「ええ。けれど、もう“聖女”ではありません」


「……すまなかった。

 あの日、俺は信じきれなかった。

 でも、今度こそ誓う。

 もう二度と、祈りを利用しない」


 リオナは微笑んだ。

 「それが、あなたの贖罪になります」


 アレクトが膝をつき、光の中で祈る。

 王都の外では、朝日が昇り始めていた。


 後日。

 戦が終わった王都には、再び鐘の音が戻った。

 リオナは城外の丘に立ち、風を受けていた。

 横に、レオンがいる。


「終わったな」

「はい。……やっと、ですね」


「これからどうする」

「戦も、奇跡も、もう十分です。

 でも、祈りは続けたい。――人として」


 レオンは黙って頷く。

 そして、彼女の手を取った。


「じゃあ、これからは俺が隣で見守る」


 リオナの頬に風が当たる。

 遠くの空に、白い光が瞬いた。

 それはまるで、女神が微笑んでいるようだった。


(ありがとう、女神さま。

 私はもう、人として歩きます。

 愛する人と、共に――)


――戦が終わってから、七日が過ぎた。


 王都は静かだった。

 焼け落ちた塔は修復され、瓦礫だった通りには再び人の声が戻っている。

 それはまるで、長い夜のあとの朝を迎えたかのようだった。


 リオナは王城の中庭に立っていた。

 噴水の水が光を弾き、風に運ばれて頬を撫でる。

 耳を澄ませば、遠くで子どもたちの笑い声がする。


「……やっと、静かになりましたね」


 背後から聞こえた声に振り向く。

 そこにいたのは、アレクト。

 鎧を脱ぎ、黒衣の上に白い外套を羽織っている。

 その表情には、かつての傲慢な王子の影はなかった。


「王の座は、次代へ譲りました。

 もう私は“罪人”です。……でも、それでいいと思っている」


「それが、あなたの選んだ贖いなんですね」


 リオナが穏やかに微笑む。

 アレクトは一瞬だけ目を伏せ、そして顔を上げた。


「リオナ。

 お前を“聖女”としてしか見られなかった私が、

 どれだけ愚かだったか……今ようやくわかった。

 お前は神ではなく、人だった。

 そして、人として――誰より強かった」


「私も、あなたを恨んでいた頃があります。

 でも、今はもう違います。

 ……赦すって、こういうことなんですね」


 アレクトは微笑んだ。

 その瞳の奥に、ようやく“人”の光が戻っていた。


 夕刻。

 リオナは王城のバルコニーに立ち、夕陽を見つめていた。

 空は紅に染まり、雲の切れ間から金色の光が差している。


 その隣に、レオンが立っていた。

 彼は鎧の留め金を外し、風に髪をなびかせながら静かに言った。


「これからどうするつもりだ」


「……旅に出ようと思います。

 祈りを知らない人たちに、祈りの意味を伝えたいんです。

 信仰じゃなくて、“生きる力”として」


「なら、俺も行く」


「え?」


「俺の剣はもう、戦のためには使わない。

 守るために使う。――お前と、一緒に」


 リオナは言葉を失った。

 風が吹き、星の形の髪飾りが小さく鳴る。

 レオンの灰色の瞳が、まっすぐに彼女を見ていた。


「戦の中で、お前は俺の信念を変えた。

 俺は祈りを信じなかった。

 だが今は、お前が祈る姿が――俺の信仰だ」


 リオナは胸が熱くなるのを感じた。

 涙が光に滲む。


「……ありがとう。

 でも、私も言わせてください。

 私が生きていられるのは、あなたが信じてくれたから。

 だから、これからも隣で――生きたい」


 レオンは小さく笑った。

 そして、そっと彼女の手を握る。


 沈む夕陽の光が二人を包む。

 その手の温もりが、何よりの奇跡だった。


 夜。

 王都の上空に星が瞬く。

 リオナは屋上に立ち、空を見上げていた。

 焦げた聖印を胸に当てる。


「……女神さま、聞こえますか」


 風が答えるように、静かに吹いた。


「あなたの代わりに祈ります。

 でももう、神のためではなく――人のために」


 その瞬間、聖印が柔らかく光った。

 まるで「それでいい」と言うように。


 背後から足音がした。

 レオンが二人分の外套を持って現れる。


「冷えるぞ」

「はい。……でも、空気が気持ちいい」


「この国は、お前の祈りで変わった」

「いえ。変えたのは、人々の想いです。

 私はただ、それを繋いだだけ」


 風が星を揺らし、静かな夜が降りる。

 リオナは空に向かって小さく祈った。


“神よ。もう奇跡はいりません。

この世界が、自分で歩けますように。”


 星が瞬く。

 夜の闇の中、二人の影が寄り添った。

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