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捨てられた聖女は、王の敵を救う  作者: マルコ


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第3部 第4章 祈りの果て ―継承者と師の約束―

 ――白い空間。

 音も、風も、色もない世界。

 ただひとつ、穏やかな光だけが漂っている。


 その中で、カイはゆっくりと歩いていた。


(ここは……また、あの時の夢の中……?)


 遠くに人影が見えた。

 それは微笑む青年――ユリウスだった。


「やぁ、カイ。

 また会ったね」


「ユリウス……君なのか?」


「ああ。君が選んだ“祈りを繋ぐ”という道、

  あれは正しかった。僕にはできなかった選択だ」


 カイは首を振る。

 「僕も分からない。

  ただ、僕は“人の祈り”が消えるのだけは嫌だったんだ」


「それでいい。

  祈りは論理じゃない。

  でも、君が歩くなら、いつかそれが理論になる。

  “人の温もりを測れない世界”は、きっと壊れない」


 ユリウスは優しく笑い、光に溶けていった。

 「さあ、帰るんだ。

  ――君を、待ってる人がいる」


 風の音。

 花の香り。


 まぶたを開けると、白い天井が見えた。

 カイは病室のベッドに横たわっていた。


「……ここは……」


「気づいた!?」

 リオナが駆け寄ってきた。

 その目は涙でにじんでいる。


「カイ! 本当に……よかった……!」

 彼女の声が震えていた。


 レオンも扉のところに立っていた。

 「丸三日寝てたんだ。

  心配かけやがって」


 カイはゆっくりと体を起こす。

 体中が重いが、心の奥は不思議と軽かった。


「僕……生きてるんですね」


「ええ。あなたの祈りが、みんなを救ったのよ」


「……みんな?」


 窓の外を見た。

 王都の広場には、再び人々が集まり、歌っていた。

 “祈りの歌”――十年前にリオナが最初に教えた旋律だった。


 カイの目から、静かに涙がこぼれた。


 数日後。

 学院の丘の上。

 春の風が草原を揺らし、青い花々が咲き誇っていた。


 リオナは腰を下ろし、膝の上に祈りの花を置いた。

 「思えば、最初にこの丘で祈ったのは……十七年前ね」


「先生、その時、何を祈ったんですか?」

 カイが隣に座る。


「“誰かが、祈りを信じ続けてくれますように”。

 たぶん、あれが私の一番古い祈り」


 リオナは空を見上げた。

 白い雲がゆっくり流れ、陽の光が柔らかく差していた。


「ねぇ、カイ。

 あなたがこれから導く“祈りの未来”は、どんな世界なのかしら」


 カイは少し考えてから答える。

 「……きっと、“誰も祈らなくてもいい世界”です」


 リオナが驚いたように振り向く。

 「え?」


「祈りは、人が苦しい時に願うものです。

 でも、みんなが支え合える世界になれば、

 “祈る理由”なんて、なくなる。

 それが本当の平和だと思うんです」


 リオナは微笑み、頷いた。

 「……それなら、私もそう祈るわ」


 夕暮れ。

 丘の上に三つの影が並んでいた。

 カイ、リオナ、そしてレオン。


「おい、学院の連中が待ってるぞ。

 “新しい祈りの式典”が始まるらしい」


「分かってます。でも……もう少しだけ」

 カイが夕陽を見つめる。


 空は金色に染まり、遠くの鐘が鳴った。

 その音はどこまでも優しく響いた。


「先生……今まで、本当にありがとうございました」


「お礼なんていらないわ。

 あなたが私の“祈りの答え”だったから」


 リオナが穏やかに笑う。

 その横顔に、初めて出会った日の面影が重なった。


 ――夜。

 学院の広場で、数百人の生徒が灯を掲げていた。

 カイが壇上に立ち、リオナとレオンが見守る。


「……十年前、僕たちは“神”を失いました。

 でも、それで終わりじゃなかった。

 神がいなくなったからこそ、僕たちは“自分たちの手で”祈れるようになったんです」


 無数の灯が揺れた。

 その光は、まるで星空が地上に降りたようだった。


「どうか――忘れないでください。

 祈りとは、“誰かを想う勇気”です。

 それがある限り、世界はきっと大丈夫です」


 拍手が響く。

 リオナが涙を拭い、レオンが頷く。


 カイは胸の中で、静かに呟いた。


(先生。

 僕はもう、ひとりで歩けます。

 でもあなたの祈りは、ずっと僕の中に――)


 夜空を見上げる。

 星が瞬き、風が頬を撫でた。

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