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捨てられた聖女は、王の敵を救う  作者: マルコ


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第2部 第4章 祈りを継ぐ者 ―教団潜入と決別―

 夜の山岳地帯。

 雷鳴が鳴り響き、谷に霧が満ちていた。

 黒の教団――サフィールの拠点はその奥深くに存在した。

 リオナたちは密かに潜入の準備を進めていた。


「……この谷は、祈りの反響が強い。

 昔、修道士たちが神に最も近い場所と呼んでいた」

 リオナが呟く。


「つまり、奴らにとっては格好の“実験場”だな」

 レオンが剣を確かめ、視線を鋭くする。

 カイは緊張で唇を噛んでいた。


「怖いか?」

「……少し。でも、行きます。

 僕の中の光が、何を求めているのか――確かめたい」


 リオナはその言葉に微笑んだ。

 「立派になったわね。あの日のあなたとは違う」


 教団本部。

 巨大な石造りの礼拝堂は、今や黒い結晶で覆われていた。

 中央に立つのはサフィール。

 その周囲に、呪印を刻まれた兵が並ぶ。


「――彼らは“祈りの回路”。

 かつての信徒の魂を媒体にした、人造の残響よ」


 サフィールの声は、どこか哀しみに似ていた。

 「神を失った世界で、せめて奇跡を再現したかった……。

  リオナ、あなたにはわからないでしょうね」


 その背後から声が返る。

 「いいえ、わかります」


 扉が開き、リオナたちが現れた。

 雷光が差し込み、三人の影が床に伸びる。


「サフィール……あなたを止めに来ました」


 サフィールは振り返り、かすかに笑う。

 「やはり来たのね、師匠」


 その一言に、カイが驚いた。

 「先生の……弟子!?」


 リオナは静かに頷く。

 「彼女は私の教え子。

  かつて“奇跡を論理で証明しようとした”天才だった」


「神は信じられなかった。

 でも、あなたを信じていた。

 ……なのに、あなたは“神を赦す”と言った!」

 サフィールの声が震える。


「私は赦したんじゃない。

 人が、また祈れるように願ったの」


 サフィールの瞳に涙が光った。

 だがすぐにそれを拭い、杖を構える。


「なら見せてあげるわ。

 人が“祈り”を制御する力を!」


 黒い結晶が砕け、兵たちが一斉に動いた。

 レオンが前へ出る。

 「来るぞ!」


 剣が火花を散らし、祈りの光が炸裂する。

 リオナが障壁を展開し、カイが後方で両手を組んだ。


「僕にも……できることがあるはずだ!」


 胸の紋章が蒼く輝く。

 風が舞い上がり、祈りの文字が空中に浮かんだ。


『願いは争いを超えるためにある』


 光が広がり、兵たちの動きが止まる。

 彼らの瞳に、一瞬だけ人間らしい表情が戻る。


「……痛い……寒い……」

 兵が震え、倒れ込む。


 リオナが息を呑む。

 「彼ら……まだ、生きてる」


「祈りで魂を繋ぎ止めたのね」

 レオンが呟く。

 「お前の力は、破壊じゃない。再生の祈りだ」


 サフィールが膝をつく。

 その目に焦燥と絶望が混じる。


「なぜ……なぜあなたは、何もせずに世界を赦せるの!?

 私は、祈っても救われなかった人々を見てきた!」


「だからこそ、もう“神”じゃなく“人”が祈るべきなの」

 リオナの声は静かだった。


「奇跡じゃなく、手を伸ばすこと。

 救いは天から降るんじゃない――私たちが作るもの」


 サフィールの手から杖が落ちた。

 黒い光が消え、礼拝堂に朝の光が差し込む。

 崩れた壁の隙間から、鳥の声が聞こえた。


「……私の、負けね」

 サフィールが微笑んだ。

 「でも、信じられる気がする。

  あなたが言う“人の祈り”ってやつを」


 リオナは歩み寄り、彼女の手を握った。

 「もう一度、生きて。

  祈りは、あなたの中にも残ってる」


 サフィールの瞳に涙が光った。

 そして、小さく頷いた。


 その夜。

 谷を抜けた一行は、星空の下で焚き火を囲んでいた。

 レオンが湯を注ぎ、リオナがカイの肩に毛布をかける。


「先生……あの人、助けられてよかったね」

 カイの言葉に、リオナは静かに微笑んだ。


「ええ。救えなかった昔の自分を、ようやく赦せた気がする」


 風が優しく吹き、焚き火の火が揺れた。

 カイは夜空を見上げる。


「ねぇ先生。

 祈りって、どこまで届くんだろう」


「そうね……。

 たぶん、届く場所を決めるのは祈る人自身。

 だから――あなたの祈りは、必ず誰かを変えるわ」


 カイは微笑み、空に手を伸ばした。

 指先に星の光が触れたように感じた。

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