自爆装置を作る博士とアンドロイドの物語
「目覚めてくれ、シーくん!」
ある日。
私は博士の声で目を覚ます。
博士の名前……バクドウ博士。変わった名前だけれども、私の想像主だ。これで何回目のアップデートだろうか。
「キミのプログラム、今回色々調整したんだ。問題なく喋れるか、確認してくれ」
「あ、あー」
バクドウ博士の言葉に従って、声を出してみる。
色々調整したことの意味がいまいちよくわからないので、それっぽいことを喋ってみる。
「目覚めは良好です、ご主人様」
「博士でいい」
「……わかりました、バクドウ博士」
茶目っ気を込めて言ってみたつもりがスルーされてしまった。
まぁ、メイドロボでもないしそんなものだろう。
適当に上体を起こしてアームパーツを確認する。
「腕部稼働良好」
右腕、左腕の稼働、問題なし。しっかり動く。
首を動かして確認。流石に人間離れした動きはできないように首はある程度の角度で止まるようになっている。
「首の稼働問題なし」
表情稼働も確認。
特殊金属によって柔軟な動きが取れるようになっている。
「にぱっ」
笑顔を表現してにこやかにする。
ついでに声を出す。
「なんだ今の声」
「アピールです」
「そうか、問題なさそうだな」
「味気ないですね……とりあえず顔も作動します」
「支障ないな?」
「はい、問題ないかと……む?」
自己分析をしてみて、あるひとつの機能に気が付く。
そう、自爆装置だ。
「また博士、自爆装置を入れましたね?」
「バレたか」
「いや、バレたもなにも何回もやってればバレますよ、そもそも今回の改修の原因も自爆がきっかけでしたし」
「はっはっは、気にするな」
笑顔で笑うバクドウ博士。
そう、彼はかなりの技術者であると同時に自爆が大好きな変わり者でもあるのだ。
小型の球体ロボットにも自爆装置を付け、私のような感情プログラムがあるようなアンドロイドにすら自爆装置を付ける。
とんでもない博士だ。
「自爆するのだって大変なのはわかってほしいですね?」
「メモリは厳重に保護してるからいいだろう」
彼の技術力は完璧だ。
どんな爆風でも吹き飛ばないメモリシールドを用意できるくらいには実力者ではある。
それでも、なんていうか、潔いくらい爆発に対する気持ちが軽い気がする。
「……バックアップデータがあるから平気という発想はなんていうか恐ろしいですね? データで構成されてる私の感情でも恐怖を覚えます」
「なに、私の自爆装置は間違いなく世を救うからな」
「爆発することに何の意味が……」
「まぁ、そのことについてはキミ自身が理解しているはずだろう?」
「それは」
過去、自爆装置を起動させた瞬間を思い出そうとする。
その時だった。
「うわーん! シーちゃん! 生きてる!?」
涙を流しながら研究室に女の子が入って来た。
あれは、私の開発スタッフのひとりのクハツだ。
ロボット制作に使う特殊金属を求めて炭鉱を調査していたところ、彼女と私は閉じ込められたという事件があったのだ。
「生きています、むしろクハツこそ元気ですか?」
「元気もなにも! シーちゃんが爆発してくれたから生きているよ! 本当に、シーちゃんは命の恩人! 感謝してもし足りない!」
「……まぁ、その時は身体が粉々になっちゃいましたけどね」
そう、どうしようもない時の最終手段が自爆だった。
バクドウ博士の技術力は尋常なものではない。
自爆によって発生する爆風範囲を私に内蔵されているバリアで調整する技術だってある。
衝撃を抑えるショックアブソーバーも搭載済みなので、炭鉱を崩壊させずに脱出することができたのだ。
もっとも、その衝撃でしばらくは身体ごと吹き飛び、改修作業がまっていたのだけれども。
「いやぁ、クハツくん。爆発は最高だろう?」
「シーちゃんの自爆は命を救えますね!」
「……いくつもの命を救ったとしても、私の命が危ない気がするんですけど?」
ロボットの理的には人間を救う為にその身を挺するのが大切な気がするけれども、いくらなんでも自爆を敢行し続けるのは辛い。
なんていうか、覚悟が足りなくなりそうだ。
そんな私を見つめて、博士は改めて私にこう告げた。
「ふむ、キミならそういうと思っていたよシーくん。命が危ない。それは確かに自爆を体験したことがある存在だから出る台詞だろう」
「……まさか」
「そう、自爆装置を6つ付けてみることにしたよ」
「はい?」
一瞬納得できなかった。
しかし、体内のデータをスキャンすると律儀なことに肢体全てと胴体、恐ろしいことに頭の中にも自爆装置が付与されていた。
「倫理観あります?」
「あるよ」
「いや、私がアンドロイドでデータで感情構成されている存在だとして、全身爆弾兵器みたいなことします普通?」
「……シーくん。キミはその自爆でどれだけの人命を救助したと思う?」
「はい? それは……」
累積データを確認して、その内容を調べ上げる。
「65058人ですね」
「そう、キミの自爆によって助かった人は多いんだよ、シーくん。だから、自爆装置を増やしたのだ」
「……はいはい、諦めますよ。で、今回の自爆装置の起爆条件はどういう感じですか?」
なんていうか、これ以上の問答は無理そうだ。
そう思って、起爆手段を確認する。
「クハツくんの資料を参考にしたまえ」
「はい、こちらをどうぞ」
「……ありがとう、クハツ」
ここまで来たら調べるしかないだろう。
そう思い、資料を受け取る。
『腕部自爆装置。ロケットパンチ後に起動シーケンスを発動可能。また、ものに触れている時も自爆可能』
『脚部自爆装置。いつでも自爆可能』
『胴部自爆装置。胸元に手を当てて爆発可能。高火力』
『頭部自爆装置。最終手段。自由落下中に起動すると最大火力になるけどぶっちゃけおまけ』
「なんですかこれ」
「おおよそいつでも使えるということだよ」
「誤爆が怖いですね?」
「大丈夫、シーちゃんならなんとかなります!」
「いや……」
なんていうか、爆弾を抱えるというのはこういう気持ちなのだろうか。
博士の技術によって安全はある程度担保されているとはいえ、それでも恐ろしい。
まぁ、無難に過ごすべきだろう。
そう思っていた時だった。
「そこまでなんだな! バクドウ博士! おめぇ今日こそおしめぇだぞ!」
全身が機械でできた博士、ジバクスキーが侵入してきたのだ。
ジバクスキーは私たちの敵で、バクドウ博士とは袂を分かったような関係らしい。
「お前はジバクスキー博士!」
「そうだ、ジバクスキーは今日こそおめぇの研究所を潰す為にばっちし対策してきたのだ。これを見よ!」
そう言って彼はずらっと機械の兵隊を研究所の全体に並べていった。
その数は数10体はいる。少なくとも、部屋を埋め尽くすだけの量はある。
「ま、まさか、あの機械の兵隊は……!」
「そうだともクハツくん。この機械の兵隊はおめぇらの自爆装置に負けじと作った自爆できる兵隊よ。こいつらを爆発させた瞬間、おめぇらの研究所ごとお陀仏って寸法よ? わかったかい? バクドウ博士」
「あぁ、わかったよ。ここで爆破装置を押したら危険だと言うことがな。よーし、シーくん」
「……はい」
「自爆装置を起動させるんだ」
「私の扱い雑すぎません!?」
「お、そりゃいいや! なぁ、シーちゃん。自爆してみないかい? このジバクスキーの科学力に勝てるか? もし、一撃で機械の軍隊を全滅させられるんならおれぁ帰る。もし一体でも残ってたら俺が見事に自爆させる。どうだ、悪くない賭けだろう」
「よし、やろう」
「私の意見!」
「シーちゃん、信じてますよ!」
「クハツまで! もう、爆発はこりごりなのに!」
ここまでお膳立てされてしまったらやるしかないだろう。
そう思い、思いっきり胸元の自爆装置を起動させる。
「全身の自爆装置、起動。そして、爆破距離調整……!」
「シーくん、見事な自爆を見せてくれ!」
「おーおー、やったれやったれ!」
「私たちの研究所を救って!」
「一体、みんな、私に何をさせたいんですかーっ!」
自爆シーケンス、起動。
そして私の身体は再びバラバラになった。
多分、目覚めるのは数日後だろう……
「こんにちは、シーくん」
そう思っていたのもつかの間、自爆して数時間後に私の身体は再度組み立てられたみたいだ。
バラバラになったつもりなのだけれども、早くて驚きだ。
「……まさか、ここまで早い復活になるとは思いませんでしたよ」
「ジバクスキー博士が手伝ってくれたからな」
「仲良しじゃないですか? もしかして」
「いいや、ライバルだよ」
「……そういうことにしておきます」
身体は問題なく動く。
トラブルがなければ、平和に暮らしていけるだろう。
そう思って立ち上がろうとした時だった。
「ところで、今回は自爆装置をまたふたつくらい増やしてみたのだが……」
「やっぱり、自爆からは逃れられないんですね……!」
バクドウ博士の目は輝き続ける。
多分、これからも私は自爆し続けるのだろう。
……まぁ、この自爆で誰かを幸せにできたりするのなら、それはそれで悪くはないのかもしれない。
そう思うことにしてみた。