6−2 共有番のゆくえ
目が覚めてすぐ『権力があり未婚のアルファの"共有の番"にしたらどうか』という話が大臣たちの間で出ているとバロンとロランから聞いたあと、気絶しそうになるのを必死で抑えた。
「……ま、それを避ける方法は一つだけかな」
「えっ?回避できる方法があるんですか!?」
「あるよ、一つだけ。誰かと番になること」
「……っ!」
ロランがそう言って、ドキッとした。確かにロランの言っていることは間違いではないし、それが一番確実な方法だと頭の中では分かっている。でも番になるということは一生をその人と添い遂げるという意味で、もしもアルファのほうから番の解除をされたら死ぬまで新しい番は作れず一人で生きていくことになるのだ。
そんな現実的なことを考えると、エラルド本人からしてみれば『いい方法ですね』とはすぐに言えなかった。
「…ロラン、エラルドは目覚めたばかりだ。混乱させるのはやめよう」
「でも、どうせ大臣たちは引き下がらない。物理的に、そうできないようにしないことにはな」
「それはそうだが……」
「ま、待ってください。そもそも、どうして共有の番なんて話になってるんですか?」
「君もグラン=フェルシアの国民なら知ってるだろ?アルファの女性やオメガが少なく、未婚のアルファたちが多いと」
「それってつまり、少子化が進んでるってことですか……?」
「ああ。子供の出生率が年々、急激に低下している。それが今のグラン=フェルシアの瘴気以外の問題点だ」
「一種の言い伝えとか偶然だとも言われているけれど、瘴気が発生して召喚される聖者のバース性はその時々によって違うとも言われている。たとえばグラン=フェルシアに疫病が流行っている時代に現れた聖者はアルファで、宮廷医師と同等かそれ以上の知識や技術を持つ医師としても国を救ったといわれているしな」
召喚される聖者は『瘴気の浄化』ともう一つ、その時に国が抱えている問題を解決するために召喚されるのだとロランは言う。その話が事実だとしたら、エラルドが『オメガ』であることと、グラン=フェルシアの少子化問題は辻褄が合うことになる。
だから大臣たちもその少子化を食い止めるため、絶滅危惧種とも言われているオメガの聖者を『共有の番』にしよう、なんて馬鹿げた提案をしてきたのだろう。
昔からの考え方では、オメガは繁殖の道具だとされてきた。そう言われていたのは何百年も昔の話だろうけれど、何百年もの時を経て再びエラルドを『子供を産むための道具』にしようと画策している。時代錯誤も甚だしいと思ったけれど、ロランをはじめとするいい歳をした攻略対象者たちに婚約者がいないのも『相手がいないから』なら頷ける話だ。
「まあ、そんな倫理観のない話はごめんだ。俺は自分の番が他の誰かに愛されているのは耐えられないからな」
「現実的に考えて実現はできないだろう。それに、瘴気を浄化した聖者にそんな無体を強いるなんてあり得ないことだ。エラルドがきちんと拒否すれば大臣たちも納得するだろう」
「でも、俺は通常の聖者とは違って有無を言わせぬ立場はありません……元々、ただの男爵家の次男ですし……」
「君にはすでに男爵じゃなく、聖者という爵位がある。それでも不安なら、俺かバロンと番になって更に強固な立場を作ればいい」
「……ロラン、番の話ばかり出すな。誰と番になるかはエラルドが決めることであって、私たちが誘導するものじゃない」
「はいはい、分かったって」
そんな話をした翌日、エラルドは浄化遠征に出かけた主要メンバーと共に国王陛下に謁見をしていた。今回はその隣にロランも座っていて、バロンからの報告を大人しく聞いている。前と同じように謁見の間に集まっていた大臣たちの視線がエラルドの背中に突き刺さり、居心地悪く感じた。
「――ご苦労であった、聖者・エラルド。全国民に代わり、私から感謝の言葉を」
「い、いえ、グラン=フェルシアの国民としてお役に立てたのなら幸いです」
「それで、何か褒美としてほしいものはあるか?」
「褒美……」
「国王陛下。お言葉ですが、聖者殿にはこの国の"問題"をまだ解決していただけていません」
大臣の一人が国王陛下に物申した言葉が謁見の間に低く響き渡る。ロランは頬杖をついたままため息をつき、バロンは眼光が鋭い目をギラつかせながら大臣を見つめ、エラルドは顔を下げたまま謁見の間の床を見つめた。
「……ご提案はすでにお断りしたはずですが、彼は聖者です。子供を産む道具ではなく、人間だ。数人のアルファの共有オメガなんて失礼な話をするのはやめていただきたい」
「弟に同意だ。王族二人が同じ結論なのだから、いい加減この話を引っ張るのはやめないか」
「それであれば、殿下。ロラン殿下が聖者殿と婚姻してくださると、グラン=フェルシアの民は希望を持てると思われます」
「"殿下"は二人いるぞ、大臣」
周りは第二王子であるバロンのことを貶しているのは明らかだが、ロランは違うらしい。バロンでこそロランとは対等じゃないと引け目を感じているけれど、元来双子に上も下もないように、ロランだけはバロンを対等の人間として見ているのだ。
大臣に対しての冷たいロランの声を聞いて、エラルドはふと顔を上げた。
「王族との婚姻が希望になるのなら、俺じゃなくてバロンでもいいはずだ」
「いえ、でも、それは……」
「何か問題でも?」
「王太子殿下を差し置いてバロン殿下が聖者殿と婚姻するのは……」
ロランと初めて会った時に彼自身も言っていたのだが、聖者との婚姻は優先順位的に言うと確かにロランが優先だろう。彼は次期国王の王太子で、この国を担う人材。
瘴気の浄化をして国を救った聖者と一緒になるのが普通だと考えるのはなんらおかしいことではないとエラルドにも分かるので、どう反論したらいいのか言葉が見つからなくて、ただただ黙っていることしかできなかった。
「――私はここにいる誰よりも、彼と番になりたいと望んでいます」
隣から心地よく響いた低い声に、エラルドは息を呑んだ。




