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第8話ヒースのミルクを確保せよ2

「チコの身分証貸して。先に書類に記入しておくから」


 手馴れた様子でダンが書類を書き込む。私はヒースのおむつの用意をしてから、ルーフの着替えを手伝った。雪山というので、フード付きのコートを探してきて、ルーフとマルタに着せた。


「チコもコートを着た方がいいよ。さ、これで準備はいいや」


「ヒースのおくるみも暖かい方がいいよね」


 準備が整って子供たちを見る。なんだ、このキラキラした集団は。もう将来美形であるに違いない。ま、まぶしいっ。


 しかし出発しようと抱っこしていたヒースをベビーカーに入れると火が付いたように鳴きだした。


 んぎゃああああああっ


 んぎゃああああああっ


「わ、ヒースどうしたの?」


 いつもはいい子で寝てばっかりのヒースが泣いてしまう。慌てて抱きあげるとヒースはぴたりと泣き止んだ。


「……」


 んぎゃああああああっ


 んぎゃああああああっ


 そっとまたベビーカーに寝かせるとまたヒースは大泣きした。


「ベビーカーが嫌なのかな」


「うーん……俺が抱くよ」


 んぎゃああああああっ


 んぎゃああああああっ


「あ、あれ?」


 ずっとダンがヒースの面倒を見てきたというのに、私がヒースをダンに渡すと大泣きしてしまった。ダンはショックを受けている。


「私の方がほら、腕とか、柔らかいから、ね?」


 私の腕に戻ってきたヒースが私の顔を見て口をもぐもぐしている。ああ、最近私がミルクをあげていたからだ。


「お腹空いていたみたいよ」


 そう言って急いでミルクをあげた。あと三回くらいでなくなっちゃう……。んぐんぐ飲むヒースをみてダンも納得したようだ。


「あれだけ面倒見てやったのに、薄情なことするなよ、ヒース」


 必死でミルクを飲むヒースのほっぺをダンがつついていた。


 しかし結局、ベビーカーにのることはヒースに全力で拒否られてしまって、私がスリングで抱っこして行くことになった。ベビーカーには代わりに荷物をのせた。


「さて、じゃあ、行こう。この魔法陣にみんなで乗って」


 ダンが床に描いた魔法陣に四人で乗ると、瞬時に国境に移動した。



 ***


「それでは書類を確認しますのでしばらくお待ちください」


 国境の職員にそんなことを言われて、私たちは待合室で待つことになった。外に飛び出そうとするルーフを止めるのは一苦労だ。待合室にあった絵本を持ってきて、私はルーフとマルタに読み聞かせた。


「移動は瞬間移動で行けるんだけどさ、国境を超える手続きがいつも長いんだよ。でも、俺、感動してる。頼れる大人がいるとなんて快適なんだって。今まではさ、ヒースを抱えながら外に飛び出したルーフを捕まえに行って、その間にマルタがまた迷子ってパターンだったんだよ」


「ロード様は?」


「あいつは誰かに捕まってるか、ナンパだな。役に立ったことなんてない」


 嫌そうに言うダンにとって父親の頼りがいは無いらしい。しかしずっとダンは一人で弟妹の面倒を見てきたのだ。自分だって誰かに面倒を見てもらわないといけないような年齢なのに……。いくらエルフ族が賢くて子供でも大人に匹敵するほどの頭脳を持つと言っても精神年齢まで同じように大人びるわけでもないだろう。


 もう少しダンにも子供らしいことをさせてあげたいな、と思ってしまう。私がもっと子供たちのことを把握すればダンが今みたいに掛かり切りになることはないだろう。


 まずは、ヒースのミルクの確保が先だけど。


 ヒースのミルクは母親が会えない間毎日保存してくれているらしい。とても繊細な人で、子供たちの家で浮気を働いたロード様を見てからあの家に一歩入ると精神的にくるらしく、過呼吸になるそうだ。どんな場面を見たんだか。


 彼女はヒースだけでも引き取ろうとしたそうだが、ヒースの魔力が桁違いなのは事実で、何かあった時にドラゴンの国を危険に晒すことになってはいけないと国王に連れて帰ることは許されなかったらしい。どう考えても浮気男ロードさまが悪いとしか言いようがない。


「チコ、飲む? 果実水」


「ありがと」


「にいちゃん、おれも」


「マルタも」


 みんなの分の果実水を買ってきたダンが私に一つ渡してから、ルーフとマルタにも渡した。その気の利きように涙が出そうだ。


「もう少しで終りみたい。ヒースが寝てくれてよかったよ」


 ゆっくりとヒースをベビーカーにのせることに成功した私とダンはその天使の寝顔を見てニヤニヤしてしまう。


 そうしてしばらくしてから国に入る許可が下りた。




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