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転生王女は毒母に立ち向かう①  作者: ミルクランド
8/9

転生王女は毒母に立ち向かう!⑧

王家では、週末に家族一同が揃って昼食を共にする。


国王、王后である祖父母に王太子である父、父の弟夫妻それから長兄のヴィルトゥスに次兄ペイシガット、それから私。


ちなみに、前世では母はこの食事会をよくサボっていた。

それも仮病を使って何回も何回も。


祖父は何回もサボる母に激怒したと前世で語り継がれているが今回は珍しく母も同席していた。


円形のテーブルにパリッとしたテーブルクロスが敷かれその上には綺麗に磨かれた銀製のナイフやフォークが均等に並べられていた。透き通ったグラスが陽の光を浴びて輝く。

席に着いた者に給仕の者がグラスに飲み物を注ぐ。

私は給仕の者にお礼を告げて、辺りを見回す。母は私の席の対面に座っている。母の横には父が座ってその横にペイシガット。私の隣にはヴィルトゥスお兄様、弟夫婦、祖父母。


教育係りが付いてから母とはずっと冷戦状態だ。

そもそも新聞記事に実の子ではないと書かせた時点で大問題である。本来ならばその記者を呼び出し証拠を出して説明するべき案件だ。


なのに、前世では誰も触れない。だから真偽が分からずずっと噂だけが蝿のように纏わりついていた。


「オリナーシャ、元気にしてる? 変わりない?」


母は席に着いた私に慈愛に満ちた眼差しと優しい声色で話し掛けてきた。


さすが、前世で女優と称された演技力。母はいくつもの脆い仮面を持っている様だ。

このワンシーンだけを見ればなかなか会えない子どもの健康や様子を心配している優しい母に見えるだろ。


「お気遣いありがとうございます。血の繋がらない不貞の娘にまで気を遣って下さりピアット王太子妃の優しさに心から感謝致します」



私も負けず同じ仮面を装着して応戦する。前世では飛び交う新聞記事タブーにどなたも触れなかった。


みんな場の空気を壊したくなくて口を噤んでいたのかもしれない。


けど、誰も何も言わない事をいい事に母もペイシガットも好き放題したんだ。ならば、もう遠慮はしない。


「な、何を言ってるのかしら…?」


「あら、ご存知ないでしょうか? 私が1歳の誕生日を迎えてから割とすぐに私はピアット王太子妃の御子ではなく王太子である父がメイドに手を出したから出来た子どもだとそういう話題がずっと飛び交っていましたよ? 何でしたらその記事取ってあるので今すぐご用意致しましょうか?」



麗らかな昼下がり大きな窓から陽光が降り注ぐのに部屋の温度が下がる。母の表情も一気に凍る。

被っていた仮面に亀裂が入った様に見えた。


「き…記者はいい加減な事を書くものよ。新聞が売れないと困るから大袈裟だったり時には嘘を混ぜ合わせたり…」


「つまり、私が父とメイドの子は嘘だという事でしょうか?」


「というより話を面白おかしく書いただけなのでしょ? けれど、記者の方を責めてはなりません。記者の方にも生活があります。新聞が売れればその方達の生活は潤い、新聞を買った民も娯楽として楽しく読み、彼らの人生が豊かになる事は我が国の為に繋がります。ならば王家の人間として静かに過ごしましょう」


母は仮面をつけ直したのかもう一度、慈愛に満ちた眼差しで私に語りかける。

一見、いい加減な事を書いた記者に対して寛大な対応をする優しい聖母に見えるだろうが私や王太子である父に対して何のフォローもない。母の言い分を要約すると『つべこべ言わず黙ってろ』それだけだ。



それに静かに過ごしましょうと言うくせに、前世では母は自分を批判した新聞記事に劣化の如くブチ切れてその新聞社に銃弾や小指を送りつけたという噂が流れていた。

母は自分が批判される事に対しては異常な程反応する。どこまでも自己愛が強い人である。



ならば、私もそれに応じましょう。


「いえ、それはなりません。いくら記者の方に生活があるとはいえ出鱈目な事を書いて王太子である父や我が国の価値を下げるような内容は誹謗中傷になります。さらに国民が王家の人間に疑惑や疑念を持っていたらゆくゆくの深い禍根になります。徹底的に追求するべきだと思います」


私は、母の目を見て言葉を紡ぐ。母の顔色がどんどん青ざめていくが構わず話す。


私の発言に父や兄、それから祖父母達の視線が集まる。その視線を見て私は周りの方の意見を問い掛けた。


「お父様はどうお考えでしょうか? お父様は謂れのない事を好き放題に書かれてるんですよ。これはあやふやにしてはいけないと思いませんか?」



突然話題を振られた事に父である王太子は驚いた表情を浮かべる。


「んー、まぁあんまり深く考えなくていいよ。ピアットが言うように好きにさせておいていいじゃん。それでへい、国民が楽しめるなら僕はどう言われても構わないよ」


父は、よく平民と口にするが祖父母の前だから慌てて国民と言い直した。

そして、相変わらずの事なかれ主義だ。

そのうえ、思考の全てが母に洗脳されている。自分が少し損をしても相手が喜ぶならそれでいいと。一見、美しく聞こえる自己犠牲精神。

けれど、それは時と場合による。メイドとの不義など謂れのない事を書かれているのだ。

その件についてはあやふやにしてはいけない。

そのせいで、前世の私の立ち位置があやふやだったのだから。

父がたくさんの問題から目を背けそれらに蓋をしてのらりくらりと逃げ回った。

そのせいで問題が発覚した時には手が付けられない自体になったのだから。


「一体、何の話をしているのだ?」

祖父のサヴァンから問い掛けられた。


すると、すぐさま

「いえ、何もお気にしないでください。お義父様の耳にいれるほどのお話しではありません」

母が間髪入れず口を挟み、話題を替えようと貼り付けた笑みを浮かべた。


「それより…


「私がピアット王太子妃の娘ではなく父がメイドに生ませたという子どもだという噂が市井の間で持ち切りなので父と母に事実を確認していました」


私が母の言葉を上書きする様に言葉を紡ぐと場の空気が一瞬で無になった様な錯覚を起こす。

母を直視出来ないくらい彼女から負のオーラが漂う。目の錯覚だと思うが黒いモヤの様なものが見える気がする。

給仕する者や側に控えている護衛はとても居た堪れない様子になり、さらに怯えた表情を浮かべる者もいた。

ペイシガットはテーブルに頬杖を付きながら私をめる。

祖母と弟夫妻は困惑した様子で私達のやり取りを見つめていた。

そんな中、長兄だけポーカーフェイスで姿勢良く椅子に座っていた。


「それは随分といい加減な話しが飛び交っているんのですね」

祖母が静かに呟く。


「有名になれば多少の醜聞スキャンダルは付き物ですよ、母上。それに全て出鱈目なのだから気にしなくていい。僕はピアットしか興味ないしオリナーシャは僕と彼女の子だ」


もちろん上二人の王子もね。と父は場を和ます様におちゃらけた態度でペラペラと話す。


「…えぇ、えぇ! もちろん、皆私の愛おしい子ですわ」


母は先程放っていた負のオーラを消して少しぎこちなく微笑んだ。


父は、純粋に母を愛していた。そこは事実である。手練手管の母に骨抜きにされたのだから。けれど、母は同じ熱量の思いを父に抱いていたのだろうか? 

果たして、私達兄妹は皆同じ両親の子どもなのだろうか?


全ての顚末を見てきた私はこの残酷な現実に胸が痛んだ。


「…王家お抱えの担当医がお産に携わるのだから王太子妃のお産を医師が偽る事はあり得ない、余程の事がない限り」


国王である祖父は一言そう呟いた。眼差しは鋭く母を射貫いている。


「…えぇ、当然ですわ」


そう答える母の顔色はとても悪い。もっと深く問い詰めたかったけど、これ以上深堀りは良くない。場の空気が淀んでいてせっかくのご飯が台無しになる。


「…そうですね、くだらない話題を持ち出してすみませんでした」


私は全員に恭しく頭を下げると父が代わりに返事をした。


「本当にそうだよ。せっかくのランチが味気なくなるよ。そんなくだらない話よりもっと楽しい話題にしようよ。ヴィルトゥスは学業の方はどうだい?」


父の適当な空気のせいで場の空気は変わった。けど、給仕の者からしたら良かったのかもしれない。ホッと安堵した様な息が漏れた。

そして、流れるかの様にテーブルに美味しそうな料理が並ぶ。この一皿にたくさんの人の手が込められている。

料理を作る者、食材を届ける者や育てる者、食器を作る者、全てに感謝の念を抱く。


王家の人間というだけで何の不自由も無くこの一皿が当たり前に提供される。それを当たり前だと思ってはいけない。


前世の私はそこまで深く考えず生きていた。反省しなきゃいけない。もう同じ過ちはおかさない。


「そうですね、学業の方は、東洋の国の文学を学んでおります。とても興味深く充実した毎日を過しております」


「東洋の文学とはもしかして論語ですか?」


私は思わず口にしてしまった。


「驚いた、オリナーシャは論語を知っているのかい?」


ヴィルトゥスお兄様は目を丸くして驚いていた。ヴィルトゥスお兄様は18歳になり、一気に大人びた。

サラサラの髪に切れ長の目に真っすぐ伸びた綺麗な鼻筋。所作の一つひとつに品がありどこからどう見ても完璧な貴公子だ。

自慢のお兄様である事は前世でも今世でも変わらない。

ただ、前世ではブラコンを拗らせてお兄様の奥様に対して酷い事をしてしまった。


今世ではその様な愚かな事は絶対にしない!


「はい、私の教育係りが論語を勧めてくれてから毎日読んでます。どの言葉も素晴らしく感銘を受けました」


ヴィルトゥスお兄様と共通の話題が持てた事がとても嬉しくて緊張してしまう。


「そうなんだね、とても良いものを勧めてもらったんだね。論語の作者である孔子が生まれた時代はとても荒れた時代だった。

だからこそ、学問によって国を正すことが大事だと思う様になったそうだよ。ちなみにオリナーシャはどの論語が好きなの?」



「そうですね、好きというより胸に刺さったのはいわく、過ちて改めざる、れを過ちとう。これを読んだ時衝撃が走りました。本当にそうだなと思い…

「あーもう、うるさい! 論語とかどうでもいいし、そんな他国の文学とか興味ないし」


突然ペイシガットが声を荒げて弾んでいた会話を遮る。


皆の視線が一気にペイシガットに集まる。


ヴィルトゥスお兄様とペイシガットは3つしか離れていない。この時、ペイシガットは15歳だ。

それなのにいくら知識が無いからと言って自分が知らない話題に対して声を荒げて相手を威圧するだなんて王家の人間として全く相応しくない。

その上、テーブルマナーも全くなっていない。背筋は悪く今も頬杖を付きながら肉を頬張っている。


所作が酷いせいか王家のテーブルに庶民が紛れているのかと思う程ペイシガットの存在は浮いていた。


突然、会話を遮ぎられた事に戸惑いを隠せない私は頭が真っ白になってしまった。


どうすればいい?怒るべきか?注意すべきか?けど、妹である私が何か言うのはあまり体裁が良くない。


どう振る舞えば正しいのか分からずに固まっている私をよそにヴィルトゥスお兄様は優しく微笑んだ。


「ペイシガット、そんな風に声を荒げてはダメだよ。オリナーシャ、論語の話はまた今度しよう」


それだけなのに、少しだけ空気が和らいだ。

ペイシガットは学校ではどうなの?とヴィルトゥスお兄様は話題を振った。


たしかに前世でもヴィルトゥスお兄様はペイシガットを可愛がっていた。色々と気を遣いペイシガットを大切な弟として接していた。

だから、今も兄としてやんわりと注意し話題をペイシガットに渡す。


ペイシガットと母は話題の中心にいないと気がすまない性質なのだ。


「オリナーシャは学校はどうだ?」


突然、国王である祖父から声を掛けられた事に一瞬だけ驚いたが私は学校でのあった事を色々と話した。苦手な勉強をたくさんの方の指導のおかげで良い成績が取れた事や剽窃などせず書いた作文が賞に選ばれた事。


対面に座る母の視線を感じながら私は食事と会話を楽しむ。


そして、頃合いを見計らって私は国王である祖父に問いかけた。


「お祖父様にお伺いしますが何故王家は会計監査を導入しないのでしょうか? お母様はよく私にこれは全て税金だと逐一教えてくださいました。だからこそ、国民が納めた大切な税金を正しく使う為にも会計監査の導入を取り入れてはいかがかと思います」




しかし、


「わ、私は反対です! そんな事をしたら……プライバシーの侵害です!」


突然母は立ち上がり、そう声を荒げた。


一気に場の空気が壊れた。けれど、母はそんな空気も視線も気にせず気分が優れないからと理由をつけて部屋を後にした。






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