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転生王女は毒母に立ち向かう①  作者: ミルクランド
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転生王女は毒母に立ち向かう!②


私は心の中でそう決意すると火が付いたように大きな声で泣き出した。


それはもう泣き声というより金切り声だ。

部屋が振動で揺れた気がした。


赤ちゃんってすごい。こんな声を出せるなんて本当にすごいな。

自分の発した音に関心しながらも、短い手足をバタつかせ身体をのけ反り皇后の腕から脱出しようとした。この際だから母の頬を思いきり蹴り上げた。すごい不細工な表情だ。その反動で母の変な帽子がズレた。


記者がパシャッパシャッとカメラを向ける。


是非ともこのショットを新聞に掲載してください。部数飛びますよと言いたい。



母は突然暴れ出した私に誰にも気付かれない様に怒りの眼差しを向けたが相手はまだ赤ちゃん。

chu、可愛いくてごめんが通用する年齢に人前でブチ切れたら母の慈愛の聖女様設定が破綻しちゃう。


私は母の凍てつく眼差しを無視してさらに大声で泣き叫んだ。母は記者達がいる手前、怒鳴る事も被害者振る事もできずただぎこちなく笑いながらロボットの様に私をあやす為に身体を揺らした。けど、目が全く笑ってない。


ただ、どうして良いのか分からず視線はキョロキョロと落ち着きが無かった。


そんな私の泣き声に国王である祖父母と王太子である父も現れた。


祖父母の荘厳なオーラに父の存在は霞み、母と次兄は縮こまり、長兄は大好きな祖父母が来てくれた事に嬉しそうな表情を浮かべていた。

記者の方達はカメラを下げて恭しく頭を垂れた。


母の腕から私は祖父母の方に全身を乗り出す。まるで助けを求める様に。いや、実際本気で助けを求めていた。

このままだとこの女は落としかね無い。事故に見せかけて。


祖母がすぐさま母の代わりに私を抱きあげてくれた。母の下手な抱っことは全く違い安心感と安定感が半端ない。

祖母の柔らかい腕とフワッと香る石鹸か花の様な優しい香りに心が落ち着いた。


前世の私は祖父母とはあまり関わっていない。母のせいだと今なら分かる。


祖父母が健在という事は父も母も今は、まだ王太子と王太子妃だ。母に発言力はまだ無いはずだ。



けれど、この時から母の贅沢は始まっていた。

王后陛下である祖母よりも格下の王太子妃の方が派手で高そうな生地のワンピースを着用している。さらにゴテゴテとたくさんアクセサリーを身に纏っている。


普通に考えればおかしな事だ。けれど、誰もそんな母を注意しない。


年齢的には、もう着るのは全く似合わない色使いとデザインのワンピース。短めの丈のワンピースからは枯れ木のような生足が見える。

さらに、言葉で表現しづらい変な帽子。

いや、そもそも帽子なのかそれとも非常時用の食器なのか謎のヘッドドレスを母はとても好んでいた。

前世ではこのような平べったいデザインの帽子をたくさん作っていた。

市井の方も他国の方も母のセンスの悪さに驚きを隠せず前世では色々と揶揄されていた。


私にも母の美的センスが全く理解出来ない。


けど、前世は母のお下がりをよく着させられた。


今思い返しても腹立たしい。

仲良し母娘とか母の思い出を受け継ぐ絆とか美談風に語り継がれたけど、要はお古しか着せてもらえかったのだ。

王家の先祖代々受け継ぐ物ならまだしも母が勝手に作ったもので何の伝統も歴史も無い。そして、母のお下がりの服はどれも壊滅的にダサいのだ。

こんなのを公の場で着るなんて拷問だと思いながらも堪えた。


祖母は妙齢の女性、尚且つ王太子妃の立場である母にその格好は相応しく無いと言いたげな視線を向けた。


母はその視線に気付いて居るはずなのに敢えて表情を一切変えず貼り付けた様な笑顔で佇んでいた。つまり、王后である祖母の視線を無視しているのだ。



祖母は年季の入った民族衣装を着ていた。

祖母の生まれた国の伝統的な衣服である。

ずっと大切に着ていた。前世でもよく御召しになっていたのをよく覚えている。王族が着回しだなんてみっともないと思われる世界。


それでも、ゴテゴテ着飾っている母より年季の入った服を着た祖母の方がとても上品かつ美しく感じた。

祖母は満面の笑みを私に向けてくれた。祖父も私の顔を覗き込んだ。


にこやかに笑っている祖母とは違い、祖父は真っ直ぐな眼差しで私の目をしっかりと見つめていた。


祖父は賢王と呼ばれるだけあってとても不思議な空気を纏った人だなと改めて思った。

優しいけれど威厳がある。けれど、人を怯えさせる様な威圧感ではなく温かくホッとする。そんな空気を感じながら私も祖父の目をしっかり見つめ返した。



どうか、私に力をお貸してください。

ヴィルトゥスお兄様はゆくゆくはこの国の王となります。そして、素敵な方と御成婚し優秀な御子様を授かります。けれど、母やペイシガットが妨害してきます。私はヴィルトゥスお兄様を御守りするだけの力をつけたい。

これから起こる悍ましい出来事を阻止したい。

ヴィルトゥスお兄様だけでなくアンジェリカ王后とその御子である、アドラシオン王女様をも御守りする力を私にお貸しください。母は…いえ、あの女は我が国を滅亡させる危険分子です。どうか私にあの女の目論見を止める力をください。


そんな事を強く思いながら数秒間、祖父と見つめ合った。まるで神に祈るような気持ちでいっぱいだった。




「…うむ、賢く良い子だな」


そう一言呟いて私の頭を撫でてくれた。

祖父には何か伝わったのだろうか? 


ただ、その一言がとても嬉しくて心がポカポカと温かくなった。思えば、私って褒めて貰えた事ってあったかな?


ベビーベットに降ろされた私はコロンと横になった。


母はよくお願いという体の命令はするけど、そのお願いに応えた後褒めてくれた事はなかった。

出来て当然よ、という態度ばかりだった様な気がする。



前世で、王族が通う学園の卒業式に母のお古のドレスを着用して式に参加した。


理由はもちろん清貧で有ること。

その為に新しくドレスを仕立てる事もなく無駄遣いは一切許されないと言われた。


けれど、メイクもヘアセットもして貰えず着てる服はあまりにも時代遅れのデザイン。さらに色も褪せたドレス。

あの時は恥ずかしくて泣きそうだった。

私の学生生活は葬り去りたい出来事になった事。


それでも、その場は笑みを絶やさず乗り切ったのに、私を褒めてくれる人は誰も居なかった。新聞でさえ私の記事を酷く粗雑に扱った。



転生した今でも自分の過去の黒歴史にズキズキと胸が痛む。生前の私は、心から楽しんだ瞬間はあったのだろうか? ちゃんと本音を打ち明けられる存在はいたのだろうか?


生きる意味や目標があったのだろうか?


父は子育てに関心が無いのか長兄や私を構う事はほぼない。


たまにほっぺをツンツンするくらい。それも気が向いた時くらい。

それよりも、父は母と享楽的に遊ぶ方が好きみたいだ。国を担う立場なのに、快楽に支配されて父は堕ちていく。そして、気付けば母の操り人形兼王家のアクセサリーとして利用されていた。



けれど、その代わりに父の実弟つまり私にとっては叔父がたくさんあやしてくれた。


その奥様は由緒正しい貴族の出。とても気品ある素敵なご夫婦。こんな素敵なご夫婦に、御子が生まれなかった。それをいい事に母は良い気になっていた。


前世で、母は子どもがいない叔父夫婦に『子どもはいいものよ』と吐き捨てた。



長兄と私にとってこの方達は救世主だった。


役に立たない両親とは違いたくさんの事を教えてくれた。

とても大好きな人達だったのに、前世の私は物心が付いたあたりから避ける様になった。


理由は母から『あんなのと関わるな。所詮何の継承権もない王弟夫婦。家格が違う』と言われたから。

もしくは、母と同席ではないと会う事が許されなくなった。


母が一緒だと心に思ってない事も一緒にしなくてはならない。母に合わせて笑わなければいけない。

相手がどんなに傷付いて泣きそうなのを堪え悲しげな表情を浮かべていても一緒に嗤って見下す事をしないといけない。


私は自分の感情は置き去りにしないと生きていけなかった。こんな母に縋っていた自分が情けない。



叔父夫婦が私の両親だったら本当に良かったのにと、何度も夢に見た。悔しくて悔しくて堪らない。


もっと言うと叔父夫婦が次の国王だったら私は前世であの様な末路を送る事がなかったはず。

ヴィルトゥスお兄様もその家族も他の貴族達も悲しい思いをする事なく幸せな時間を過ごす事が出来たはず。


そうだったら、私にも家族が持てたかもしれない…。


前世の私は酷かった。


普段からオシャレどころか清潔感すら感じない格好ばかりさせられ、仮にも国王の娘なのに母専用のメイドみたく扱われた。


かなりこき使われ、色々と手厳しく注意ばかりされたせいで下ばかり向いていた。

一切手入れされてない髪の毛は私の視界と世界を遮断する。


おかげで目も悪くなり、メガネが手放せなくなった。

周りの貴族の令嬢達は、きらびやかな装いだったり凝った髪型をしていた。

年頃になれば瑞々しい唇に淡い紅をひく子もいた。

周りが眩しければ眩しい程私の心は暗く闇に蝕まれた。


どんどん自分が嫌いになっていく。


人目が怖くて次第に引きこもる様になってしまった。


次第に誰かにこの苛立ちをぶつけたいと思う様になり、ヴィルトゥスお兄様の奥方のアンジェリカ様に矛先が向かった。


アンジェリカ様は女性が欲しいと思う全てを持っていた。宝石よりも美しい顔立ち。手足も長く他国の王族と並んでも引けを取らない抜群のスタイル。

語学も堪能で自分の能力で人生を切り開いていけるだけの聡明な頭脳。

何よりたくさんの友人や優しい両親から心から愛されていた。


そして、ヴィルトゥスお兄様からも愛されてるいる事。


全てが羨ましくて仕方なかった。


母と一緒になってアンジェリカ様を苛める事が私の精神を保つ唯一の解消だった。


あの頃の私は本当に狭い世界しか知らなかった…。


もし、私が両親の愛情を一身に受けてオシャレな髪型をし、素敵な装いをさせてもらっていたらもっと笑っていたはず。


たくさんの友人に囲まれ笑顔で毎日を過ごせていたはず。


そして、ゆくゆくは然るべき所に嫁ぐ事もできたのに……。もしくは、ヴィルトゥスお兄様をお支えする臣下になれていたかもしれない。



前世の事を思い出すと辛くなる……。




けれど、未来は変えられるのだ。もう、遠慮なんかしない。あの女の化けの皮を剥がしてやる。慈愛の聖女なんかではなく鬼畜の悪女だと知らしめたい。


私はベビーベットの上で横たわりながら固く決意する。王太子である兄たち家族を守りたい。そう強く誓い、ウトウトと眠りについた。





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