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転生王女は毒母に立ち向かう①  作者: ミルクランド
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転生王女は毒母に立ち向かう!①



今、思えば私は物心付いたときから誰かのお古を着ていた…。


私はオリナーシャ・コミノア・クプ・カムイ・エテルネル。


この国の元王女。


私は今、断頭台に向かって裸足で歩いてる。腕は拘束され、足首には、重石が付いていて上手く歩けない。石畳の道を静かに歩く。

もうすぐ暖かくなるのに今日は天気が悪く、時折吹く風は肌寒かった。


「犯罪者の娘!」 


「この国の恥!」


「税金返せ!」



けれど、国民から浴びせられる言葉と肌を刺すような冷ややかな視線。そちらの方がずっと痛い。

私は降嫁したけど、この国の王女だったはずなのに、どうしてこんな目に遭ってしまったのだろうか?

どこで道を間違えたのだろうか?



『あなたは王家の人間です。王家の人間は平民が納めたお金で暮らしてます。だから、清貧で居なければなりません』


幼い頃、お母様はそう諭す様に私に言った。


朧げな記憶だったけれど、そう諭すお母様の細長い指には大きなサファイアが付いた指輪が煌めく。


首にはさらに大きなルビーのネックレス。

身に纏ってるドレスはまた新しいものだとすぐに分かった。似たようなドレスだけど光沢が違う。生地が違う。デザインが違う。


耳にはパールとエメラルドのイヤリングがゆらゆら揺れていた。


私はそれらを無言で見つめながらお母様の言いつけをずっと守って生きてきた。


女の子らしい可愛いらしい格好をしたくても我慢をし、学生時代に作って貰ったワンピースを長い間着回したり、お兄様やお母様のお古を着ていた。

髪も長い事切らずずっと伸ばしたままにした。

こまめに髪を切る事、整える事さえも贅沢だと言われその言いつけをずっと守ってきた。



だから、頭はボサボサで服はボロボロの見た目はどんよりとした地味な王女になってしまった。


ただでさえ、王族の人間で近寄りがたいのに貴族ばかりが通う学校で身だしなみが整っていない汚らしい姿の私に声を掛けてくれる子なんか一人も現れず、ずっと一人で過ごしていた。


市井では、私の容姿を嘲笑い醜いという意味のアダ名を付けそう呼ばれていた。

とても辛くて心が痛かったけど、それでも私は王族。それを誇りにお母様の言う事に従って生きてきた。



例えば、まだ王太子であった長兄の配偶者つまり王太子妃にたくさんの嫌がらせをした。

悪口、無視は当たり前。お茶会ではメイドを使ってドレスコードを騙して1人だけ違う衣装で参列させたり、またとある晩餐会では王太子妃の自己紹介の時だけ名前を飛ばしたり、格式高い式典ではシワシワのドレスを着せてはその困っている姿をお母様と笑って見ていた。

笑っていたけどその後に訪れる途方もない罪悪感に苦しみ、声を殺して一人泣いた。

けど、それらに蓋をしてただひたすらお母様を信じて生きてきた。


その結果、私は実の兄である現、国王とその后である王后に害をなした人物として斬首刑になってしまった。


広場に設置された断頭台に向かう中、国民からの憎しみに満ちた眼差しを一身に浴びた。

たくさんの罵声。石を投げつけてくる者もいたようで顔にそれが当たりおでこからボタッと血が流れた。


私の今までは一体何?母の言いつけをひたすら守っていたのに何故、斬首?



私は何がいけなかったの?


薄暗い空からポツリと溢れた雨は石畳を静かに濡らす。次第に雨は、強まった。それに紛れて私は静かに涙を流す。


いや、分かっていた。母はおかしい。母、いや…あの女は狂っていた。


あの女はこの国の后だったのに国を崩壊させる様な事をわざとやっていた。


高額な宝飾品や似たようなデザインのドレスを異常な程購入したり弾けもしない楽器など購入して写真撮影をしたり、何度も他国に旅行したり、自分たちの邸宅だけを何度も作り直しては湯水の如く税金を使いまくり、我が国の財力を大幅に下げた事。 


その他にも、国民人気がとても高い優秀な長兄夫婦をイジメて自ら命を断つ事に仕向けた事。


その愛娘アドラシオン王女暗殺未遂事件…。


長兄夫婦を蔑ろにし、きな臭い噂が絶えない次兄夫婦を王位に就かせようと企てた事。


全て母は故意にやっていた。この国を滅ぼす為に…。


私はそれに薄っすら気付いていた。


けれど、分かって居ても私は母が怖かった。


だって、母の機嫌を損ねたら私は生きていけなかった。私にはあの女が全てだった。彼女に嫌われるのが怖くて何一つ言えなかった。



そうか、私の罪は『母に立ち向かう事をしなかった事』か…。


私は物心ついた時から自分で考える事を放棄した。

貼り付けた笑顔を浮かべ人形の様に生きてきた代償だ。


それだけじゃない。大好きな長兄のヴィルトゥスお兄様や聡明で見目麗しく心優しいアンジェリカ王后陛下を苦しめてしまった事。

本来ならば可愛いくて愛おしい存在の姪っ子のアドラシオン王女までも苦しめてしまった事。



もし、人生をやり直せるならば次は自分の意思に従って生きたい。ヴィルトゥスお兄様ご家族を母とアイツら一族から守れる人間になりたい。


けど、もう無理ね……。


せめて、自分の罪をしっかり償いましょう。元王女として立派に。


断頭台に続く階段を登りきりそこで足を止めた。


私は国民に向けてお辞儀をした。今まで養ってくれた事への謝意と何も出来ずにいた申し訳なさを込めて。


カテーシーと呼ばれるお辞儀だ。


すると、不思議な事に罵声はピタッと止んだ。誰かの涙ぐむ声が聞こえた気がしたけど気のせいね。


耳が痛くなる静けさの中で私は決意に近い気持ちを抱きながら瞳を閉じ断頭台に身を委ねた…。


















首をはねられたはずなのに不思議と痛みは無かった事に恐る恐る目を開けると豪華な天井が目についた。



『?? どういう事?』


私は身体を起こそうとしたが上手く身体を起こせず、手足がバタバタ動くだけ。そして、驚いた。手足が小さく短い事に。




「おや、姫様。起きましたか?」


疾うの昔に亡くなったはずの長兄の教育係りの男性とまだ幼さが残る長兄が優しい眼差しを浮かべて私を覗き込む。



どういう事?私は国王である長兄から王位継承権を簒奪する企みに加担したから斬首されたのに?



これは夢???



「オリナーシャ、やっと起きたの?」


この声に心臓が跳ねた。


嫌だ。怖い怖い怖い。

母の声に私は身体が硬直する。思わず、声をあげて泣いてしまった。


けれど、母は「お寝坊さんね」とやたらと高い声で私に話し掛けるとベビーベッドから抱き上げあやすように子守り歌を歌う。


普段こんな事をしない人なのに、どういう風の吹き回し?と思って硬直しているとパシャっとフラッシュの光がした。


「王女オリナーシャ様の1歳のお誕生日心より御祝い申し上げます。今回の新聞は国民も大喜びするでしょう。王太子妃様との写真は明日の朝刊一面に使わせていただきます」


たくさんのフラッシュがバシバシと光る。母は満足げに微笑む。



オリナーシャって私だよね…? 

けど、1歳っておかしい。処刑されたの確か60手前だったはず…。


それに、王太子妃…?母は王后を退位されたから上王后だったはず…?というか母はとっくに……。


それに、私はつい先程断頭台で斬首されたはずでは…???



ま、まさか、生まれた時に時間が戻ってる?



私は自分の手を見た。小さくてぷくぷくした赤子の手。斬首された時の枯れ木のようなヨボヨボの手とは違う。生命力に満ち溢れた瑞々しい手だ。そしてまだ何にも染まってない無垢な手。


母をチラッと見ると、あまり変化はない様に思えるけど幾分かまだ若い様な気もする。


私が斬首された時には母はすでに亡くなっていた。


母の死後、母の悪事がどんどん明るみになった。


ずっと噂程度で流れていた話しが全て事実だと告発した者が現れた。

けれど、母は死んでいたから何の罪も償う事なくあの世へ逃げ切ったのだ。


さらに、母の葬儀でたくさんの物議があがった。

国王ではなく国王の配偶者という立場なのにかつて無いほどの絢爛豪華な国葬を執り行われた為に国の財政はかなり圧迫されたのだ。それが国民の怒りに火をつけた。

我が国が崩壊するきっかけの一つの出来事だ。そしてずっと隠していた秘密も明らかになり、国民が怒り狂って王族に牙を向いたのだ。



けど、どういうワケか私は赤ちゃんの頃に戻る事ができた。


それはつまり……。



刺さるような視線を感じ、目をチラッとそちらにやると2番目の兄ペイシガットが母の足に絡みついていた。

私を睨めつける様に見据えるこの兄こそ危険人物だ。


ペイシガットが居なければ私達一族はここまで歪まなかったはず。母の目論みも達成する事なかったはず。



前世では、母からは次兄のペイシガットこそ次の王に相応しいと教え込まれた。


その考えにとてつもない違和感を覚えていながらもその気持ちを有耶無耶にし、母の言う通りに生きてしまった事で私はあの様な結末になってしまった。



そもそもヴィルトゥスお兄様が居るのにこの発言はかなり不敬だ。

ヴィルトゥスお兄様とペイシガットはさほど歳が離れてない。普通に考えて次兄に王位が巡るワケがない。

本来ならば兄を支える臣下として存在するのが弟王子の義務だ。

それなのに、ペイシガットは長兄であるヴィルトゥスを支える事は一切しなかった。それどころかずっと張り合い足を引っ張る事ばかりしていた。


それなのに、次の国王だなんて母親であれど絶対に口にしてはいけない発言だ。


そもそも、ペイシガットは教育係りからも匙を投げ出されたかなりの問題児だ。


ちっとも落ち着きがなく人が嫌がる事を喜々としてやる性格で人の気持ちが全く分からないのに国王だなんてとんでもない。


そして思い通りにならないと大きな声を出し、ひっくり返って泣き叫んでは近くにある物を投げるというはしたない事をする人だった。

成人したあとはもっと酷い。数々の犯罪行為を幾度も繰り返しては金と権力と脅しでもみ消した。たくさんの国民が涙を飲んだ事だろう。


こんなのを次の王だなんてあり得ない。


その点、ヴィルトゥスお兄様は真面目で努力家で優しくて誠実でけど、ユーモアと思いやりに溢れた完璧な人だ。小さい頃はお兄様が理想の男性だった。身内から見ても長兄のヴィルトゥスお兄様は素敵だった。


そんな非の打ち所がない完璧な息子なのにあの女は酷く冷たい態度で接していた。


思い返せば母は、ヴィルトゥスお兄様と私にはやたらと厳しかった。


ヴィルトゥスお兄様には通学鞄、私にはコンタクトさえ買う事を認めなかったのにペイシガットには高級カメラや車など色んな物を買い与えていた。


そもそも母自身が身に着けてる豪華なドレスやきらびやかな宝飾品も全部税金だ。



この矛盾に立ち向かえていたら…



いや、時間が巻き戻ったのだ。今ならやり直せる。


もう、この女の言う通りになんかするもんか。


抗ってやる。徹底的に抗ってやる。絶っっっっっ対に抗ってやる。


そして今度は、ヴィルトゥスお兄様を御守りしよう。私の命に変えてでも。


どうせ死ぬ運命なら次は大好きな人を守って死にたい。大切な人を守って死にたい。



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