4.上層を目指す
これは番外編です。本編はこちら→https://ncode.syosetu.com/n1824ia/
十分に回復したわたしたちは、そんな軽口を叩きながら、上階を目指した。
転移装置が壊れている以上、歩いて階段を探しながら上がるしかない。それに、別の階を探索できれば、壊れていない転移装置を見つけられるかもしれない。
「このダンジョンは何回も来たことがあるが、入口まで直通の転移装置は、三か所しかねえ。一つはここより下の階層。もう一つはこの階層ので壊れている。もう一つはあと二十二階層上だ」
「マップは変わることがあっても、転移装置の数は変わらねえからな」
さすが、経験者の言うことは違う。
「一階分の転移装置なら、階段とたいして変わらねえ。無理して探すより、先に見つけたほうを使うくらいの気持ちで十分だ」
「しかし、今日マッピングした分を貴族連中が持って帰っちまったのは痛ぇな」
「嬢ちゃん、地図持ってないか?」
彼らがそう言うのも無理はない。
パーティーでは、非戦闘職のメンバーがマッパーを兼ねていることが多い。荷物持ちや、治癒魔法使いがそれに当たる。
「ないわ。パーティーの子がマッピングしてたけど、使い物にならないから捨ててきた。地図ならわたしが覚えているから問題ないわ」
わたしたちが通った順路だけ、だけれど。
「言うねえ、嬢ちゃん」
「さては、よっぽどクソなパーティーだったな」
さり気なく元パーティーメンバーをこき下ろしているのが通じたらしい。
どうせ、死んだことを悲しみもしていないのだから、控えめに言っても仲が悪かったか、わたしがよほどの冷血な人間か、置き去りにされたという話が狂言か、どれかだと思われているに違いない。
けれど二人にとっては、こき下ろしたくなるようなろくでもない冒険者や、死んでも自業自得としか思えないようなパーティーなどは珍しくもないようで、元メンバーの死を悲しむことのないわたしを、冷酷非情と責める様子は微塵もなかった。
「嬢ちゃんにはわかンねえだろうが、フリーの獣人戦士や傭兵なんかは、結構ドライなもんだぜ」
「昨日まで隣で戦ってた奴が死んでも、行軍は続くし、腹も減る。俺たちに言わせりゃ、仲間が死んだくらいでピーピー泣いて落ち込むのは時間の無駄だ」
「あ、次の角を右です」
「おう、サンキュー。――死ぬのは自業自得だ。実力不足の自分が悪い。俺たち自身も含めて、な」
だから、壊れた転移装置を前に力尽きて死んだとしても、俺たちはあの貴族を恨まねえ、と言い切った。
なんというか、男前な発言だった。
「二度とそいつらの依頼は受けねえがな」
「どうしても、ってンなら全額前払いにさせるぜ」
……受けることもあるのね。
「ヒト族の冒険者の流儀とは、だいぶ違うんだろうけどよ」
「そういや、そろそろ腹が減ったな」
「次の角は左だけれど、大きい魔物の気配があります。そいつが通路を塞いでいます。……えーと、なんか緑っぽいぶよぶよしたやつ」
「嬢ちゃん、索敵もできるのか」
「ていうか、視えるのか?」
「近距離だけですが、遠見の能力が使えます」
恩寵の右目を使って索敵できるのは、せいぜい隣の部屋と、すぐ前の通路ぐらい。フロア全体をカバーできるわけではないので、フロアボスがどこにいるかまではわからない。
中途半端な能力だから、いつも役立たず扱いされたきた。
そんな近距離の索敵、意味がない。誰でもできる、と。
「そいつら馬鹿だな。レベルが上がれば上がるほど、そういう些細な能力が必要不可欠になる。この先に敵がいるかいないか、そいつが強敵かどうか、不意打ちを食らわずに済むことがどれだけありがたいか、わからねえ奴は大成できねえ」
「だいたい仲間にそんなこと言う奴は最低だぞ。傭兵界隈なら、後ろから刺されても文句は言えねえ案件だ。そりゃ、俺たちくらいのベテランになると」
「伊達に年食ってねえからな」
「ノア、ちっと黙ってろ。――俺たちくらいのベテランになると、気配で敵の有無くらいはわかるがな、そいつの色や大きさ、種類まではわからん」
「臭いや息遣い、足音なんかから推測しているんだ」
「この先にいる魔物は足音がしなかった。獣臭もない」
「それで緑っぽくてぶよぶよしているといやあ、」
「ビッグスライムでほぼ間違いねえ」
「嬢ちゃんは下がってろ、やつの粘液を浴びるんじゃねえぞ!」
二人が剣を構えて前へ飛び出すと同時に、ビッグスライムという巨大な緑色の粘塊が出現した。
(あれがスライム……!?)
森で見かけるスライムは水色で、もっと小さくて、新人冒険者でも倒せるような弱い個体だったはずだ。
ビッグスライムが吐いた粘液が、ダンジョンの壁面にかかって、石壁が溶けた。
(こんな強力な溶解液を吐くの!?)
「畜生! でかすぎて核まで剣が届かねえ!」
「こいつはもっと下の階層に生息してるやつだろ、なんで中階層にいやがる!」
「とにかく、核に届くまで切り刻むしかねえ!」
たしか、スライムは物理攻撃には強かったはずだ。
森のスライムと同じ特性を持っているのならば。
「いや、刻むな! 分離されたら拙い!」
――ああ、分離した個体がわたしのほうに向かうのを心配して、思うように攻撃できないでいるんだ。
ごめんなさい。やっぱり、わたしは足手まといにしかならないみたい。
移動中や戦闘中は結界を張って、わずかに防御力を上げているけれど、初級の結界では一撃防ぐのがやっとで、すぐに無力化されてしまう。今までは、そうやって最初の一撃を防いでいる間に、仲間に助けてもらっていた。そして守られるだけのお荷物として、迷惑がられた。
今もそうだ。
図らずも分離してしまったスライムの一片が、わたしのほうへ跳んでくる。
「嬢ちゃん!」「アリアちゃん!」
一撃だけなら、たぶん結界で防げる。
そう思って、覚悟を決める。スライムの攻撃では、即死はしない。身体の一部は溶かされるかもしれないけれど、丸飲みされなければ大丈夫だ。少しの間、耐えればノアさんかジャックさんが必ず退治してくれるだろう。
――と思った瞬間、結界の寸前でスライムは戦意を喪失したように戻っていった。
(何? どういうこと??)
同じように分離してしまったスライムの欠片が、さらに何個かこちらへ跳んでくるが、いずれも戦意を喪失して帰ってゆく。
疑問に思っている間に、本体の核を切りつけられるようになった二人が、ビッグスライムにとどめを刺した。
「こいつはビッグスライムといって、ダンジョンに生息するスライムの成体だ」
「スライムの親みたいな存在で、スライム種の中のボス格だ。本当はもっと下の階層にしか生息していないはずなんだが……。スタンピードでダンジョンの生態系が壊れてるな」
ビッグスライムは、倒すと溶ける。
核を失うと、ただのどろどろした液体になる。
その汚泥のような物体も、やがてはダンジョンに吸収されるだろう。
「スライムは物理で倒すと核が手に入らねえから割に合わねえんだよな、」
何か金目の物飲み込んでたりしねえかな、そう言ってジャックさんが汚泥に近付くと、そこから人の手が突き出して、続いて頭と身体が現れた。
「うおっ」
慌てて飛び退くジャックさん。
なんと、スライムから人間が生まれた。
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今後は寄り道しないで本編を書き進めます。
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