1.目覚め
これは番外編です。本編はこちら→https://ncode.syosetu.com/n1824ia/
気がつくと、辺り一体は静まり返っていた。
着ていた服はボロボロになっていたけれど、切断されたはずの小指も脚の腱も、元通りになっていた。
(再生した……?)
傷の治りが早いことと、毒に耐性ができていることは自覚していたけれど、まさか欠損部位の再生までするとは思わなかった。
(これじゃ、化け物と言われても仕方ないわね……)
わたしに襲いかかってきた男は、少し離れた場所で八つ裂きになって死んでいた。
その男の仲間だった女たちも、別々の方向に引きずられて行った挙げ句、噛み裂かれたような傷を受けて死んでいる。
(魔物が出た? リポップするまでにはもう少し時間があったはずだけど……)
騙されたことは、自分が悪い。
このパーティーは、義母から受けた仕事をしただけだ。
だからといって恨まないわけではないけれど、死んでざまあみろと思うほど非情にはなれなかった。
(さすがに生きたまま八つ裂きは……)
直視したら気分が悪くなった。
吐き気を催して、その場でもどした。
ダンジョンの中には誰もいない。魔物さえもいなかったから、構わない。
恥も外聞もなくその場で吐き散らかして、汚れた服を着替えた。わたしに一番、背格好が近かった弓使いの女の子から着替えを拝借した。
(どうせ死んでるんだから、いいよね)
彼女の魔法鞄から、着替えといくつかのアイテムをもらい受ける。マジックバッグには使用者登録がされていたけれど、所有者が死んでいるので無効になっていた。
わたしは騙されたのだ。
イーリースお継母様の罠にかかって、殺されるところだった。
親切面してパーティーに誘ってくれた人たちと一緒にダンジョン攻略に挑んだら、ダンジョン内に置き去りにして殺すことが目的だったというオチだ。
お継母様は“化け物”のわたしを殺したくて仕方がないのだ。
わたしはお継母様のしたことを知っているから、いつか復讐に来ることを恐れているのだろう。先手を打って、常にわたしを殺そうと画策している。
パーティーは女性メンバーも一緒だったから、安心して参加したら、殺しの依頼を受けてきた首謀者は魔法使いの女性だった。
(ありがとう。勉強になったわ)
もう二度と、誰のパーティーにも加わらないことを決めた。
夢なんか見たら、いけなかったのだ。
他の冒険者みたいに、パーティーを組んで依頼を受けて、楽しく冒険がしたいとか、冒険者仲間の友達を作りたいとか、そんな高望みをしてはいけなかったのだ。
一生、一人で採取と納品だけやって生きて行くしかない。
もっと高度な調合ができるようになれば、納品単価も上がるから、食べていくことはできるはず。薬師や錬金術関係の道を模索してもいい。
襲われそうになったことや、殺されそうになったことは今回が初めてではない。
今さら、これくらいのことでは動揺しない。
泣き寝入りするくらいなら、わたしは寄宿学校に上がる前に殺されている。
(そう。今さらだ)
もう一度、噛み裂かれた死体を見た。
今度は吐かない。
(大丈夫。最初に焼き殺した刺客のほうが、もっとグロかったもの……)
寄宿学校に入る前、邸宅に賊が押し入ったという設定で、わたしを殺すための刺客が手引きされたことがあった。
実家の邸宅は、すでにイーリースお継母様の息のかかった使用人で固められているから、侵入者の手引きなど容易いことだ。
わたしは刺客に抵抗し、魔力暴走を起こして暗殺者を魔法で焼き殺した。
お継母様も刺客も、わたしは属性魔法が使えないと侮っていた結果だ。
(暴走するから使えないのよ)
使いこなせないだけで、魔力がないわけではないのだ。
(恐らく、今回も暴走……)
意識が飛んで、途中から何も覚えていない。気づいたら、自分以外のパーティーのメンバー全員が死んでいた。
暴走ついでに自己回復もしたのだろう。
いつにも増して、大量の魔力を消費した感覚がある。
(ただでは死ぬものか……)
フィレーナお母様の仇を討つまでは死ねない。
(それに、わたしが死んだら次はアルトお兄様の番だわ)
お兄様はそう簡単に殺されやしないだろうけれど、騎士として戦場に赴くことになったら、それこそ機会はいくらでもある。
イーリースとシャーリーンのやっていることを暴露し、断罪するまでは死ねない。
わたしはさらに死体を漁って、リーダーの男からマジックポーチを取り上げた。血がついているけれど、浄化魔法できれいになる。
魔法使いの女からは防御魔法がかかっている厚手のマントを。少し破れているけれど、耐久値はまだ残っている。
魔法剣士からは付与魔法のかかった短剣を奪った。わたしには剣を振るう技量はないけれど、何かの役に立つだろう。
格闘家は一番、現金を持っていた。魔法のかかった手甲は攻撃と防御をこなす高価なアイテムらしかったけれど、サイズと重さのせいでわたしには装備することができなかった。持って行っても足が付くだけだからやめておこう。
(意外と攻撃に使えるアイテムがないわね……)
魔法使いのいるパーティーだから、こんなものだろうか。
わたしは立派な追い剥ぎと化していた。
(これで伯爵家の出身だというのだから、笑わせるわ)
死体の装備やアイテムを漁る行為は、誉められたものではないが、違法でもない。生きるか死ぬかの緊急事態なら尚のことだ。
リポップした魔物が全部いなくなっているのは不思議だったけれど、再リポップするとしてもまだ時間がある。少なくとも、死体がダンジョンに吸収されるより早くリポップすることはないはずだった。
わたしは追い剥ぎした固パンとドライフルーツを咀嚼しながら、弓使いからもらい受けた地図を眺める。
自分の鞄は魔法鞄ではなかったから、魔法薬を入れるためにその分、食料を削っていたのだ。長丁場のダンジョン探索ではないと聞いていたから、空腹は我慢すれば済むと思って、ダンジョンに入ってからは少量の携帯食しか食べていない。
正直、お腹は空いていた。
死体を見てしまったくらいで、ものが食べられなくなるほど柔ではない。
そんなにか弱いお嬢様なら、ダンジョンに入る前の段階で餓死している。
実家で使用人から残り物を恵んでもらう生活に比べたら、食べられるだけありがたいのだ。目の前に死体が転がっているくらい、なんてことはない。
弓使いのマッピングは、下手な上に何か所か間違っていた。
致命的な間違いではなかったけれど、極限の場面では小さな間違いこそが生死を分ける。
(これは使えないわね)
自分の記憶のほうがよっぽど正確だ。
わたしは弓使いの地図をその場に捨てた。
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今後は寄り道しないで本編を書き進めます。
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