お父様が御在宅でございました。
よろしくお願いします
その日、私は買い物に行くため運転していた。
道幅は広いが交通量はさほど多くない道。
並行している歩道と車道の間には植え込みがあり、ガードレールの役割を果たしている。
その、植え込みの上に乗る、倒れた状態の自転車が見えた。
ん?
んん〜?
その自転車のすぐそばで、歩道にしゃがみ込み泣く女の子と、見るからに戸惑いながら、困りながらそばにいる若いサラリーマンがいた。
ああ…見ちゃった。
また?また何か関わるの?知らん顔で通り過ぎちゃう?
でも…見ちゃったら仕方ないよね。あれはどう見ても「助けが必要な人」だ。
私は車を停め、窓を開けて聞く。
「大丈夫ですか?」
若いサラリーマンがはっとしてこちらを向き答える
「この子、目の前で転んじゃって…」
あー、その縋るような目…わかったからやめて。
「今そちらに行きます」
私はエンジンを止めて女の子のそばに行く。
植え込みに乗る自転車を見て考える。
どんな転び方をしたんだろう…
女の子は膝を擦りむいていて血が出ていて、若いサラリーマンは、自分のハンカチでその子の血を拭いてあげていた。
優しい〜ね!
「目の前で転んじゃって、そのままに出来ずに…でも、どうしたらいいか…と…」
そうだよね。
今のご時世、人助けだって躊躇するよね。
「そこの小学校?」私が聞くと女の子はこくりと頷く。
転んで膝は打ったけど、他は痛くないと言う。
サラリーマンに言う。
「じゃあ…この後は私が引き受けます。学校に行くか、お家に行くかします。ハンカチありがとうございました。」
「いえ、ありがとうございます、よろしくお願いします」
去っていく若いサラリーマン。優しいね、ありがとう。
「さて、どうする?お家まで送る?」
「うん…」
「お家にお母さんか誰かいる?」
「お父さんがいる」
「お父さん?」
「お父さん…」
お父さんか。
お父さんが在宅で良かった
「じゃあ、自転車は後でお父さんに取りに来てもらおう。家まで送るね」
私はその子を助手席に乗せ、その子の案内で家まで車を走らせた。
……
ピンポーン。チャイムを押す。…出ない。
「お父さん、いる?」
「一回じゃ出ないから…」
そう?じゃあもう一回。ピンポーン。
「………はい」
明らかに不機嫌な低いドスの聞いた声だった。
寝てたかな?
「すみません、近所の者ですが、お宅のお嬢さんが自転車で転んで膝を擦りむいていたので」
「えっ!ちょっと待って下さい!すぐ出ます!」
バタバタと音がして、ガチャリと玄関のドアが開いた。
上半身裸で出てきたお父さん…
おおぅ…
ええっと…
見事な桜と鬼の模様の皮膚ですね…
「どおおしたのぉ〜〇〇ちゃん!大丈夫〜?」
お父さんの優しい声に安心してまた泣きだす女の子
「え〜ん!おと〜さ〜ん!」
「わぁ…っ可哀想に〜!」
お父さんの背中の神様がキリリとこちらを向く。
……
「あの…膝以外も怪我してるといけないのでよく見てあげて下さい。あと、自転車を置いてきてあるので取りに行って下さい」
「あっ!すみません!ありがとうございますっ!」
この後、名前と住むところを聞かれて、怪しくない身分を告げてその場を去った。
……
お父さんの皮膚とギャップの激しい甘い声が記憶に残った。
お父さん…娘ちゃんに優しいんだろうな…
……
翌日の夜、夫婦で菓子折りを持って来て下さいました。
病院にも行ったそうで、特に問題なかったと教えてくれました。良かった。
サラリーマンのお兄さん、ごめんね、私だけお菓子もらっちゃって。
サラリーマンに心でお礼をした。
拙い文章、最後までお読み下さりありがとうございました。




