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第3話 やっぱり運命だったのね!

 リク様が我が家に降臨し、1ヶ月が過ぎた。

 その間、パパ達はリク様に社会(Social )保険(Insurance )番号(number)を申請したり、生活に必要な物を買い揃えたりと忙しい日々だった。


 ワーキングホリデーを斡旋する協会を介さずカナダに来たリク様なので語学学校も用意してなかった。


『事前に探してる時間が無かったからな、しかし直接出向いてからでも遅くない。

 彼に合った学校を探すにはその方が良いんだよ』

 パパはそう言った。

 私の通う高校の近くにある語学学校が良かったのだが、


『ダメだ、あの学校は評判が悪い。

 日本人同士がいつも一緒に集まっているからな』

 長年ホストファミリーをしているパパは私の提案をすげなく却下した。

 そういえば、あの学校の日本人は私の友達(スーザン)をナンパしたりしてたっけ?


 そんな訳でリク様は我が家から少し離れた学校に通う事となった。

 本格的な語学学校で、移民の受け入れや本格的な留学に実績のある学校。

 クラス決めにもテストがあり、リク様のクラスは授業も実践的で、内容を聞いた私ですら難しいと思う程だった。


 通学は朝はママが職場が一緒の方向だから車で送っている。

 帰りは昼休みにパパが迎えに行っている。

 自営業を営むパパは時間の都合が利くので問題は無いそうだ。

 それに家は家族全員、自分の自動車を持っているので不都合は無い。


『ほらスペルが違うわよ』


 高校から帰るとリク様は語学学校から出された課題をリビングで片付けていた。

 隣でママがリク様の間違いを指摘する。

 小学校の先生をしているママの指導は厳しい。

 私も何度泣かされた事か。

 ...いや今も泣かされている。


「あっ本当だ」


「...Riku all in English」


「Sorry...」


 こんな感じて家の中は基本日本語が禁止。

 週に1日、夕方からだけ日本語が解禁にママが決めた。


『英語に耳を慣らすにはこれが一番だからな』

 パパも賛同していた。

 分かっているが、リク様と日本語で会話出来ないのは寂しい。


 せっかく目の前に天使が居るのに、今日もリク様にゆっくりと、彼に分かりやすく英語の会話をするしか無かった。

 隣にはママが目を光らせている。

 当然甘い時間には程遠い、しかし我慢だ。

 一刻も早く彼と話したい、早く英語をマスターして...



『どう、天使との生活は?』


『...上手くやってるか?』


 翌日、いつもの様に高校へ着くとスーザン達が私の机に走って来る。

 彼女達もリク様と過ごしたいのを我慢していた。


『まあまあね、少しリスニングに苦戦してるみたいだけど』


『準備しなかったのかしら?』


 困った顔のスーザン。

 早くバンクーバー観光にリク様を連れ出したいのだ。

 ママ達の許可が出るまでお預けの約束だから仕方ない。


『多少勉強したみたいだけど、書いたりは大丈夫、でも会話がまたまだね』


『...早くコミュニケーション取りたい』


 ジャニスも寂しそうだ。

 二人共来たる日の為に日本語の練習を頑張っているが、披露する機会が無い。

 特にジャニスの英語は訛りがあるので、リク様との会話は日本語と決めているみたいだ。


『そうね、そうなれはあんなことや、こんな事も...』


『スーザン』


 うっとりとした目で何を考えている?

 やはりビッチの考えは危険だ。


『分かってるわハンナ、過度のスキンシップは禁止でしょ?』


『...英語をマスターするにはネイティブと付き合うのが一番の近道』


 ジャニスが呟いた。

 カナダ産まれのジャニス、しかし彼女の両親は香港出身なのに英語が苦手。

 家での会話は主に広東語。

 それが原因で彼女の訛りは習慣化してしまった。


『読み書きは出来るんでしょ?』


『まあね、日常会話くらいなら』


『...早く連絡先を交換したい』


 ジャニスはスマホを握り締める。

 しかしリク様は携帯を日本から持って来なかった。

 こっちでは必要なので携帯からパソコンまで用意したが、必要以外全く使おうとしない。


 それにママからリク様へ不必要なメールは禁止されていた。

 それでは連絡が出来ない。

 リク様にとって必要なメールなんて私達から存在しないのだから。


『ハンナ、まだ許可が出ないの?』


 諦め切れないスーザン。

 もう限界が近いね。


『来月のテストでリク様がクラスアップしたらってママは言ってたけど』


『...むう』


『待つしか無いか』


 そんな訳で今日も私達は来るべき日に備え、バンクーバーの観光案内を眺めながらリク様と過ごすデートを妄想するのだった。


『ただいま』


『お帰りなさい』


 家に帰ると朝には無かった大きな段ボールが玄関に置かれていた。


『これは?』


『リク君の家からよ、さっき受け取って来たの』


 ママの言葉に段ボールを確認する。

 なるほど、JAPANの文字が書いてある。

 航空便で来たのか。


『リク様は?』


『今日は学校が遅くなるからまだ帰ってないわ、パパが仕事終わりに迎え行くって』


『へえ』


 語学学校で何かのイベントだろうか?

 特に珍しい事では無いが、荷物の中が気になる。



『『ただいま』』


 1時間以上荷物の周りで彷徨きながら待っていると、ようやくパパとリク様が帰って来た。


「お帰りなさいリク様、日本から荷物が来てるわよ」


「え?どうして?」


 私が日本語で話すとリク様は驚いた目で見た。

 解禁日じゃないからビックリしてる。

 その目...ああ可愛いよ...


「特別よ、リク」


 ママも日本語で話す。

 私達家族は全員日本語がある程度出来るのだ。

 まあ、私はヲタになるまで全く話せなかったが。


「それじゃ開けますね」


 リク様がカッターナイフで段ボールを開けると大量の日本食が姿を表した。


「ほう?」


 お父さんの瞳が輝く。

 それは日本酒だ。

 アルコール度数的に日本酒の輸送はOKらしい。

 パパはたまに個人で珍しい日本酒を取り寄せている。


「米に漬物...」


 リク様は次々と中身を並べて行く。

 殆どが食料品みたい。


「皆さんで分けて下さい」


 リク様はニッコリ微笑む。

 オォ...尊い。


「良いの?」


「はい、お世話になってる皆さんに配るようにと」


 荷物の上にあった紙。意味はもちろん分かっていたが、リク様から聞きたかったのだ。

 だって、彼は余り喋らないのだから。


「これはハンナさんに」


「え?」


 リク様は封筒を私に差し出した。

 えーと、

[ヲタのハンナへ]

 何だと?


「...妹はハンナさんが日本語を出来るのを知らないみたいで」


 笑顔のリク様に、怒れる筈がない。

 むしろ感謝したいくらいだ。

 僅な会話...でもリク様は笑っている!


「リクには?」


「僕にも家族から手紙がありました、後で見ます」


 パパに封筒を見せるリク様だが、表情はいつもの寂しい物に戻っていた。


「さあ、食事にしましょう」


「そうだな、本場の日本酒だ」


 パパ達はリク様の様子に元気な顔を見せる。

 留学生の中には時にある、日本からの荷物にホームシックを発症する時が。


 いつもより賑やかな食事を終え、私は自分の部屋に戻る。

 早速リク様の妹さんから届いた封筒を開けた。


 確か、リク様の妹は私と同じ17歳。

 名前はハナさん。


 ハンナとハナ。

 似てて当然だ。

 リク様の両親と私の両親が話し合って決めたそうだし。


 そういえばリク様って、パパと同じだよ。

 パパの名前はリチャードだから。


『....これは』


 封筒の中に入っていたのは数枚のDVDとイラストが数枚。

 手紙等は入って無かった。

 そんな事より、このアニメDVDは全てまだ日本でしか手に入らない新作ばかりじゃないか。

 あぁ...なんで私の趣向を...


『素晴らしいわ!』


 思わず叫び声を上げてしまう。

 いつも隣に居るリク様に気遣っていたが、我慢出来なかった。

 早速部屋にあるプレイヤーに最初のディスクを置く。

 ヘッドホンから流れる音声と、歓喜の映像に心で雄叫びを上げた。


『はあ...最高よ』


 気づけば深夜の三時、一気に見てしまった。

 これは明日寝不足は避けられない。

 でも後悔は無い、イラストは学校でスーザン達に見せてやろう。

 DVDはジャニスの家に持って行く。

 彼女の家には100インチを越えるテレビがある。

 そこで、もう一回堪能しよう。


『ん?』


 DVDをパッケージに戻そうとしたらケースと背表紙の間が不自然に膨らんでいた。


『何だろ?』


 ケースから背表紙を取り出すと一枚の紙が出てきた。


『これは』


 英語で書かれていた手紙。

 所々間違っているが、一生懸命書いてあるのが分かった。


 『今は三時...日本は夜の八時ね』


 私は携帯を手にすると紙に書かれていた番号に電話を掛けた。

 ママは私の電話番号をハナさんに教えていたんだ。


『...HELLO My Name...』


 少し怯えた声、そりゃ誰だって外国人から掛かってきたらそうだろう。


「日本語で良いわよハナさん」


『あ?嘘!?日本語大丈夫なんですか?』


「ええ、日常レベルだけど」


 少し鼻が高い。

 ヲタマスターユウコ、またまた感謝だよ。


『そうですか...兄さんどうしてます?』


「元気よ、楽しくやってるわ」


 余り大声は出せない。

 深夜の電話ってドキドキする。


『本当に?』


「ええ、学校でも友達が出来たみたいで」


『...ハンナさんは相変わらず優しいですね』


 相変わらずってどういう意味だろ?

 私はハナさんに会った事無いよ。


『昔会いましたよね』


「昔?」


『ええ、14年前に』


「What?」


 なんですと?

 そんな事...ハナさんは覚えてるの?


「覚えていたの?」


『もちろんです。私は三歳だったけど、鮮明に』


「....そ...そうなんだ」


 私は忘れていたなんて言えない...

 その後も楽しいお喋りは続き、眠気はまるで感じなかった。


「今度はオンラインしましょ?

 友達にもハナを紹介したいの」


『え?でも私英語は...』


 「大丈夫、通訳してあげるから、みんな楽しいヲタ友達なの」


『....あ...まさかハンナさん日本語って読めます?』


「もちろんよ、字幕無しでも大丈夫のヲタですから」


 電話の向こうで絶句してるのが分かる。


『ごめんなさい!!』


「良いのよ」


 可愛らしい絶叫が電話口の向こうから響く。

 今頃ハナは大汗掻いてるんだろうな。

 見えないけど。


『それじゃ私からも』


「何かしら?」


 同じ歳だけど、すっかり余裕だよ。

 何でも言ってね。


『兄さんの初恋ってハンナさんなんですよ』


「...今なんて言ったの?」


『内緒ですよ、兄さん昔言ったんです。

 ハンナちゃんが初恋だったって』


「...Destiny(運命よ)!!」


 明け方に大声で叫んだ私はママ達に叱られた。


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[一言] 妹よ爆弾投下するでない。
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