文学少女の歩き方
ひとりの文学少女は、あるく。
なんのために?
本を読むとき、人には人の決まった読み方があるものだ。
文学少女は心の中でそう唱えた。誰に言っても理解なんてされないことを知っている。
ミステリーを読むとき逆さに持って読んでみたいとか、恋愛ものは登下校の電車で読みたいとか。だれにも邪魔をされたくない想いがある。それは自分にとっての文学であり、他人にとっての飼いネコであり撮り鉄であり、総称して"宝物"である。
しかし、現在の状況下での本の読み方は、文学少女ですら難解だった。
たった一文字の大きさがほとんど自分の身長と等しい……そう、身体が縮まってしまったようなのだ。
ただ、さすがは文学少女といったところか、彼女が『不思議の国のアリス』の一節の「上」に「立って」いることはすぐに分かった。そしてどのシーンが書かれたページが開かれているのか、も簡単に想像ができた。
ご丁寧に身体と一緒に小さくなった靴、そして靴下を脱ぎ、素足で紙の上に立つ。いつもなら手で触ること以外考えられないから、はしたないけれど、ちょっぴりの昂りが顔を覗かせた。たしかめるように一歩を踏み出すと、ひんやりとした感触が皮膚にはりついて心地よい。そしてその後からは、遠慮もなくすたすたと歩き始めた。まるでスポットライトを浴びた役者のように胸を張り、両手を広げた。
「文学の中みたい! 私、アリスにでもなっちゃったのね!」
嬉しそうに歩き回る文学少女は、時折インクの匂いを嗅いで笑ったり、黒いところをなぞって解読したりしていた。結局少女は少女なのだ。
「どうやって歩くのが正解なのかしら。走るのは違うわね。ばちが当たりそうだもの」
そうして考えあぐねる彼女だったが、足は止めなかった。ぽつりぽつり、ててて、とんとん。正しい歩き方が知りたくてたまらないようだ。実験しながら、考えながら。時に真ん中の溝に吸い込まれそうになりながら。可愛らしいその足取りで、正解を探す。
ふと、何かを思い出したように、文学少女は立ち止まった。
そして笑顔でこう言ったのだ。
「……違うわね、こんなの初めから分かっていたのよ。
好きなように歩けばいい。だって私は、本が心から大好きな、文学少女なんだもの。」
本を書くとき、僕には僕の決まった書き方があるものだ。
誰にも理解はされないが、"宝物"を愛してこその文学さ。
可愛い僕の文学少女は、今日も元気に歩くのだ。
読了ありがとうございます。
またの機会にお会いしましょう。




