撲殺ワンコさんの妹達、ダンジョンに挑む。
『撲殺ワンコ』レトリアの妹達のお話です。
此処はファランクス王国の南にある、リリス辺境伯領。
只今諸国漫遊の旅に出て不在の主、リリエンティール、愛称リリスの留守を預かっているのは、彼女のペットであるケルベロス三姉妹だ。
そのリリス辺境伯領にあるリリス城には、ケルベロス三姉妹の他に、様々な種族が共に住んでいる。
その中に『撲殺ワンコ』の二つ名で知られているレトリアと、その妹達三人も含まれていた。
リリス城。
リリスの居城であり、店舗兼、集合住宅でもあるこの城の中庭で、剣術の稽古らしき事をしているレトリアの妹達と、その他の姿があった。
「さあ、準備運動もしたし、そろそろ始めるワン。」
明るい栗色の髪に黒い瞳、髪と同色の垂れた犬耳と尻尾を持つ美少女の名は、レト。
レトリアの妹の一人である。
「レトちゃん、初めてやるみたいだけど、ルールは大丈夫だワン?」
黒い髪に黒い瞳の犬耳尻尾の少年、クロシバは若干不安そうな顔をしていたが、その手に持つ切った竹を束ねたような形状の剣を構えた。
「問題ないワン!」
元気に竹刀を振り回すレト。
「もぐもぐ・・・、頑張るワン・・・。」
やる気の無さそうな声で二人を応援しつつ、コカトリスのむね肉の唐揚げをもぐもぐ食べているのは、茶色の髪に、碧の瞳に髪と同色の垂れた犬耳と尻尾を持つ、レトの妹である三つ子姉妹の真ん中の美少女、レリである。
コカトリスのお肉美味しいワン。
ニッコリと微笑む。
「じゃあ、二人とも構えて、始め!」
姉と対戦相手に開始の合図を送ったのは、三つ子姉妹の一番下のレラだ。
彼女は、栗色の髪に蒼い瞳の犬耳尻尾の美少女だ。
彼女は三つ子姉妹唯一眼鏡を着けている。
眼鏡はつるの無いものだが、魔道具なのでずり落ちる事は無い。
また、三つ子の見分け方は、レトの右目に泣きボクロ、レリの左目に泣きボクロに、レラには口の右下にホクロがある。
目の色は違うし、毛色も若干違うので、見分けやすいかも知れない。
「やあ!」
「はあ!」
レトとクロシバは、お互いの得物である竹刀をぶつけ合う。
「隙ありだワン!」
レトはクロシバの竹刀を弾くと、低い体勢から竹刀を振り抜いた。
「足ぃ!」
スパァン!
「な、何でだワ~ン!」
竹刀で両方の足の脛を強打されたクロシバは、芝生にゴロゴロ転がる。
「足あり! 一本!」
レラがレトの方に手を上げ、判定する。
「け、剣道に足ありなんて無いワン!」
プルプルと立ち上がり、涙目でレトとレラを見るクロシバ。
とても痛かったらしい。
「え? そうなの?」
「知らなかったワン。」
「もぐもぐ・・・、剣道は足を狙ってはダメだワン・・・。」
ケルちゃんにコカトリスのお肉の追加を頼もうと思うレリ。
「「な、何だって!」」
レトとレラは驚いてレリを見る。
「常識だワン・・・。」
コカトリスの唐揚げを完食したレリは、ケルベロス三姉妹謹製のジャーキーを取り出しながら姉と妹に言う。
「れ、レリが知っていただと・・・。」
「あの食べ物にしか関心が無いレリが・・・。」
「「あの子に常識を問われたワン・・・。」」
「お前ら何気にディスるの止めるワン・・・。」
レリがイラッとする。
「良いね? 足はダメなんだワン!」
再開するワン!
クロシバのダメージは何とか回復したようだ。
「気を取り直して、再開するワン。」
反省していないレト。
レトは細かい事は省みないのだ。
「両者構え! 始め!」
レラが稽古の再開の合図をする。
「はあ!」
「とりゃ!」
バシ、バシ・・・。
両者は相手の隙を伺う。
「よし、ここだ! め~ん!」
レトがクロシバに打ち掛かる。
クロシバは頭を守るよう、竹刀を掲げたが彼の竹刀には衝撃は来なかった。
「な、何で、腿に当てたんだワン・・・。」
右の腿を打たれ、芝生に女の子座りをするような体勢になっているクロシバ。
某アイドルがドッキリ番組で「許さない!」と叫ぶような感じだった。
「面あり! 一本!」
レラが宣言する。
「違うワン! 面なら頭を狙うワン!」
騙し討ちだし、足はダメって言ったワン!
がルルル・・・、怒るクロシバ。
寧ろ怒らない方が不思議だろう。
「宣言した場所にちゃんと打ち込まないのは反則だワン・・・。」
ジャーキーうまーと、言うレリ。
「「な、何だって~!」」
また驚くレトとレラ。
「もう、真面目にやるワン・・・。」
クロシバの顔を見なさい。
あんなに犬歯を剥き出しにして怒るのも珍しいワン・・・。
「ごめんなさい。」
「一本!とか言ってごめんちゃい。」
だから、犬歯を剥き出しにして怒るの止めてください。
とにかく謝るレトとレラ。
「まあ、許すけど次は無いワン。」
クロシバは二人を許した。
優しい少年だぞ、クロシバ。
「続きをやるワン!」
レトが竹刀を構える。
「良いかな? 絶対に足はダメだし、宣言した場所にちゃんと打ち込まないとダメだワン。」
クロシバはなるべく彼女達に分かるように言ってから、竹刀を構える。
「あぐあぐ、頑張るワン・・・。」
レリはジャーキーを噛みながら応援する。
やっぱりケルちゃん印のジャーキーはうまいワン・・・。
「両者構え! 始め!」
レラが開始を宣言した。
「どりゃ!」
クロシバは凄い勢いで竹刀を叩きつける。
実は怒りが治まっていないのかワン? クロシバ?
レトはクロシバの怒濤の攻めを捌ききる。
「どりゃあ!」
しかし、攻めが大雑把だワン・・・。
レトはクロシバの隙を見付けた。
「そこだワン!」
レトはクロシバの背後に回る。
「へ?」
「背中ぁ!」
ズバシィッ!
「ま、まさかの背中・・・。」
「背中あり! 一本! レトちゃんの勝ちだワン!」
レラがレトの勝利を宣言する。
「な、何で、防具を着けていない所を狙うんだワン・・・。 てか、背中って! ゆ、許さないワン・・・。」
バタリと倒れるクロシバ。
「レトの反則負けだワン・・・。」
「「な、何だって~!」」
レリの容赦ない判定に、某少女漫画ばりに白目を剥いて驚くレトとレラ。
結局剣道を理解していなかったレトとレラは、クロシバからこんこんと説教を受ける羽目になった。
「「うう、ヒドイ目に遭ったワン・・・。」」
足が痺れているワン。
正座で説教されていたレトとレラは、足が痺れて、その場で立てないでいた。
「ツンツン・・・。」
「れ、レリ! 止めなさい!」
「レリちゃん、触るのダメだワン!」
痺れている足をレリにツンツンされるレトとレラ。
悶える姉と妹を見て、にこやかな笑みを浮かべるレリ。
「私の妹達は朝から騒がしいワン。」
姉のレトリアがそれをお城のテラスから眺めていた。
「でも、そんなレトちゃん達が可愛いですワン。」
レトリアの隣で微笑むベロは優しい表情で騒いでいる三つ子の姿を見ていた。
此処はリリス城の中にある三つ子の部屋。
「三つ子会議を開くワン。」
「「パチパチ~。」」
議長は私、レトですワン!
「先日は、ケルちゃんのお店のお手伝いをしたので、今日から一週間はダンジョンに挑戦しようと思うワン。」
「ジョンソンだワン?」
「違うよ、レリちゃん。 ダンジョンだワン。」
ボケるにしても無理があるワン。
レト、レリ、レラは、本日の予定をダンジョンの探索に決めた。
元々活発な彼女達は、ダンジョンに潜るのが好きだ。
ダンジョンの探索で手に入れたアイテムや装備を集めるのが三人の趣味になっている。
因みに、この三つ子は三人共バリバリの前衛だ。
力こそ全てな、某世紀末覇者ばりの前衛である。
なので、薄暗いダンジョン探索には、明かりが必要なので、某『デス』の人、クロエさんから、様々な魔道具を購入している。
彼女達は、生活魔法くらいは使うけど、ライトを維持するのが面倒くさいらしい。
魔力は肉体強化!が資本のワンコ達。
一体誰に似たのだろうか?
「へぷしっ!」
レトリアはくしゃみをした。
「では、何処のダンジョンに挑戦するんだワン?」
レラが議長に聞く。
「レトリオお兄ちゃんの所のダンジョンが良いと思うワン。」
レトはレラの質問に即答した。
「魔族領南の『魔女ル・ルーのダンジョン』だワン?」
レリが驚いた顔をした。
彼女達の兄、レトリオはコボルト初の魔王であり、平和と妻子を愛する男である。
リリス辺境伯領から、西の豊穣の森を抜けた先にあるのが、魔王領と呼ばれている別名『ワンコと淫魔とラミアの国』と呼ばれている程、その三種族が多い国である。
また、魔族領は観光地化を進めており、他種族の観光も歓迎しているし、今は誰とも敵対していない。
コボルトを下に見て、侮って戦を仕掛けてきた種族は、魔王レトリオ率いる魔王軍により、フルボッコにされ、今世の魔王を見た目で判断すると命を落とすとまで言われている。
敵には容赦しない苛烈な魔王。
それが魔王レトリオのもう一つの一面でもある。
普段は優しい魔王レトリオが治める国に、ダンジョンが発生したので、探索に行こう!というのだ。
「でも、魔女ル・ルーのダンジョンは、入る人によって変わるって噂だワン。」
数年前のクイズダンジョンようなのは、こりごりだワン。
遠い目をするレラ。
頷くレトとレリ。
「まあ、あんなダンジョンに当たらないワン。」
レトは不安を打ち消すように明るく振る舞う。
「では、早速ダンジョンアタックの準備をするワン。」
ケルちゃんに、携帯食料を貰ってくるワン!
レトがケルの元に向かう。
「じゃあ、装備の点検をするワン。」
「私も魔道具の点検をしておくワン。」
レリとレラは装備の点検をするようだ。
こうしてその日は、準備に追われた。
実際は、途中で寝てしまったので、姉のレトリアと、ベロの二人が三つ子のダンジョンアタックの準備をしてくれていた。
次の日。
「魔族領に転移するワン!」
リリス城の側には、魔族領直通の転移門が設置されており、魔王レトリオの許可証があれば、魔王城から五キロ地点にある転移門に転移する事が出来る。
この転移門の存在により、ケルちゃんの加工品店に通うコボルトや、その他の魔族領の住民が沢山来るのだ。
魔王城のある魔王都にも、ケルちゃんの加工品店二号店があるが、此方は転移門まで行くのも厳しい老人等の為に開いたのが主であり、元気な者や、ケルベロス三姉妹に会いたいと言う目的で本店に来店する者達が多いのは仕方の無い事なのかも知れない。
それほど、ケルベロス三姉妹の人気は止まる所を知らないのだ。
とは言え、この二号店も行列の出来るお店ではある。
此方は、和菓子といなり寿司に、一部のり巻きも取り揃えている店舗なのだ。
また違った物が食べられるとあって、大人気の店舗である。
この二号店の人気はそれだけでは無い、『神眼』『永久』『台地』『月と子守り』の女神達が切り盛りしている。
売り物の美味しさもさることながら、タイプが異なる美しい女神達が切り盛りする二号店も人気なのである。
「魔族領に到着!」
「早速ダンジョンだワン?」
「早く行くワン!」
姉を急かす妹二人。
「まあまあ、実は魔王都のケルちゃんの加工品店二号店に新作の、『極上芋羊羮』が発売しているらしいワン。」
「「買いに行くワン!」」
「よし、魔王都に行くワン!」
おー! ダンジョンアタックはどうした?と突っ込みを入れる者は居ない。
彼女達は、自由なのだ。
「うう、売り切れとは・・・。」
「流石美味しい物に目がない同族・・・。」
「販売個数制限しても売り切れなんて、スゴイワン・・・。」
売り子をしていた神眼の女神、アルマイル愛称アイちゃんに売り切れを告げられたレト達は、定番のみたらし団子といなり寿司に、かんぴょう巻き等を買い、魔王城の庭で食べていた。
「でも、アイちゃんが今度、私達の為に極上芋羊羮を取り置きしてくれるって言ってくれたから、次は食べられるワン。」
いなり寿司をぱくぱく食べるレト達。
「良い食べっぷりだね。 お茶のお代わりはいるかな?」
レトリアとソックリな顔付きの男性が彼女達に緑茶のお代わりを聞いてくる。
レトリアや三つ子の兄であり、魔王のレトリオがニコニコと彼女達の湯飲みに緑茶を注いでいる。
この優しい表情をした如何にも戦いに向かなそうな男が、魔王である事から、数々の実力者が彼と彼の率いる魔王軍と戦ったが、その全てを粉砕してきたのが彼とレトリアである。
撲殺ワンコ、レトリアが「勝てない。」と言わしめる実力者であるが、実は彼よりも強いのが、魔王妃コリーヌであったりする。
レト達は、兄にも義姉にも逆らわない。
お仕置きが怖いから。
魔王と魔王妃からは逃げられないからだ。
おいたさえしなければ何処までも優しい魔王夫妻をレト達三つ子は大好きである。
「魔女ル・ルーのダンジョンに行くみたいだけど、準備は万端かい?」
優しい表情で三つ子達を見ているレトリオは、かなりの心配性だ。
「大丈夫だワン。」
お姉ちゃんとベロちゃんに手伝って貰ったし。
レトはレトリオに笑顔で答える。
「それに、レリとレラも居るワン。」
レトは、頼れる妹達を信頼している。
「そうか、気を付けて行くんだよ。」
レトリオは、妹達の頭を順番に撫でて、彼女達を送り出して公務に戻って行った。
「よし、魔王成分を注入したし、ダンジョンに行くワン!」
ただ兄の顔が見たかっただけの三つ子達は、ダンジョンに向かう。
魔女ル・ルーのダンジョン。
挑戦者が変わる度に、その構造が変化する不思議なダンジョン。
魔族領に突如現れたダンジョンに挑戦した者は多く、踏破した者は何故か新人冒険者のパーティと、サキュバスのパーティの二パーティのみであった。
二パーティの共通の主張は、「なんか簡単だった。」と不思議そうに言っていた。
どうやら、クリアしても無くならない周回可能タイプのダンジョンらしく、一度クリアした新人パーティが再挑戦したが、クリア出来なかった事から、難易度も変化するようだ。
「『ル・ルーのダンジョンへようこそ!』って書いてあるワン。」
レトは随分とウェルカムなダンジョンだなと感じた。
「これがジョンソン・・・。」
「レラちゃん、ダンジョンな。」
ボケるのは大概にするワン・・・。
「どんなダンジョンか気になるけど、やっぱり危険かな?」
「まあ、レトちゃん、入り口に入る前から考えても仕方がないワン。」
「そうだワン。 お姉ちゃんは頭を空っぽにした方が良いワン。」
「レラ、私はそんなにアホな子かな?」
ジョンソンとか言う子に言われたく無いワン。
レトはレラにそう言いつつ、自身に問い掛け、結論を出した。
否定は出来ないかも知れない・・・。
私は頭が良くないと自分でも思った。
「じゃあ、入ろうか。」
レトは妹二人とダンジョンに潜入した。
「やっぱりそうなのね・・・。」
レトは此処が自分の苦手なタイプのダンジョンである事を察した。
『問題、私は牛乳です。 私は飲むことが出来ますが、逆さにすると食べなくてはなりません。 では、私を逆さにすると何になりますか?』
光輝く石板に文字が浮かんでいた。
「クイズだワン!」
以前、こんな問題を出すダンジョンに入った事があるレト達の脳裏に何時しかの苦い思いでが蘇る。
『人間のある器官は、一定の状況下に置かれると数倍にも大きくなります。 その器官とは何でしょう?』と言う問題だった。
その時、レト達はいきなりじゃんけんをしだした。
何故か顔を真っ赤にしながら・・・。
そして、レトがじゃんけんで負け、彼女は勇気を振り絞って答えたのだ。
「答えは、おピーーーだワン!」
その時の彼女は、やりとげたよ! レリ、レラ!と内心ガッツポーズを決めていた。
「「流石レトちゃんだワン!」」
レリとレラもレトに喝采をあげていた。
しかし、無情にも答えは瞳孔であった。
『貴女達が考えているように、男性のは数倍には大きくなりませんよ。 そんな想像をしていると、後でガッカリしますよ。』と、フォローされたのだ。
あの時の恥ずかしさは尋常ではなかった。
同じ考えに至っていたレリとレラも同様であった。
「あの恐怖が再び・・・。」
レトはごくりと生唾を飲んだ。
そんな彼女の肩を優しく叩く者が居た。
レラだ。
「この問題は簡単だワン。」
何時もより頼もしく見えるレラにレトは期待する。
「牛乳とはミルクとも言うワン。 それを逆さまにすると、答えはクルミになるワン。」
どうよ? レラが問題を出していた石板にそう答えた。
『正解です! 答えはクルミでした。 次の部屋に行きましょう。』
ゴゴゴゴ・・・、部屋の奥の岩が動き、通路が現れた。
ここを通れと言う事らしい。
「楽勝だワン!」
レラは上機嫌だった。
「まだ油断は出来ないワン・・・。」
レリも過去の事を思い出していた。
『エッチになればなるほど固くなる棒ってなんでしょう?』
この時も、彼女達は顔を真っ赤にしながら、じゃんけんをした。
そして、レリが負けた。
彼女は勇気を振り絞って叫ぶように答えた。
「答えはおピーーーだワン!」と。
答えは鉛筆の芯であった。
Bが数が大きくなるほど柔らかくなり、HBが普通の固さで、Hの数が大きくなるほど固くなる。
『貴女が何と勘違いしているのか分かりませんが、私は真面目に考える事をオススメします。』
レリは恥ずかし過ぎて、暫く悶えていた。
レトとレラもだが。
レリはこの時から、少しだけ学習しようと考えていた。
次があるかも知れない。
次は負けないと己に言い聞かせてきたのだ。
『問題、この中でもっとも小さな円は、どの色の円でしょうか? 理由も答えてね。』
問題の下の図に赤、青、緑、黄色、紫、橙、桃色の円がうねうねと動いている。
「こんなの簡単だワン。」
レトとレラも頷いている。
「この図の小さい円は赤だけど、答えは黒だワン!」
「「な、何だって~!」」
衝撃を受けるレトとレラ。
「『この中で一番小さな円』と書いてあるけど、『この図の中で』とは書いていないから、問題文の中にある『。』が一番小さな円だワン。」
レリは理由も答えた。
『正解です! よくぞ見切りましたね。 次の部屋にご招待!』
ゴゴゴゴ・・・、また次の部屋に続く通路が現れた。
「私、間違えていたワン。」
「私もだワン。」
レトとレラは自分が答えなくて良かったと胸を撫で下ろした。
「さあ、次に行くワン・・・。」
レリはクールに徹していたが、尻尾が喜びを隠せていなかった。
ブンブン振られる彼女の尻尾を見て、微笑むレトとレラの姿があった。
ダンジョンには魔物が湧く。
ダンジョンの魔素で魔物が発生するのだ。
原理は解明されていない。
ダンジョンに魔物がいるのと、再発生するのは、この世界では常識なのだ。
「ブラッドバイパーが四体! 頭狙いで!」
レリがレトとレラに指示をする。
「了解!」
「任せて!」
レトとレラが其々の得物をブラッドバイパーに叩き付ける。
それは魚の形をしたメイスだった。
リリスが「武骨なメイスをオシャレに出来ないかしら?」の一言の元、オシャレメイス『キハダマグロ君』と『カンブリ君』は開発された。
キハダマグロ君はレトが、カンブリ君はレラが愛用している。
レリは大剣型の武器『レイトウホンマグロ』を愛用している。
これもオシャレ武器シリーズだ。
レリはこの戦闘は、レトとレラに譲る事にした。
先程のストレスを発散しなくてはならないだろうと考えたからだ。
「食材ゲットだワン!」
「ケルちゃんにお土産だワン!」
はしゃぐ姉と妹を見て、「私も一匹倒せば良かったワン・・・。」と、内心思ったレリがいた。
ブラッドバイパーの巨体を空間収納に仕舞い、レト達はダンジョンの奥に進んで行く。
途中、ヒュージタランチュラの群れに遭遇するも、レリのレイトウホンマグロが唸りを上げ、まとめて細切れにされた。
魔石と指輪が出現したので、レト達は空間収納に仕舞う。
アイテムの鑑定はケルベロス三姉妹のスゥにお願いしている。
某ゲームのように、アイテム鑑定に、店の売値と同じ額を請求するような事はしない。
スゥはレト達に頼まれ事をされるのが嬉しいのだ。
ヒュージタランチュラを倒したレイトウホンマグロは、何だか誇らしげに見えた。
レト達はダンジョンを進み、奥の扉を開いた。
『問題、私は誰にも見えなくなる時があり、徐々に姿を現し、全てを見せる。 そして、また徐々に見えなくなる。 さて、私は何でしょう?』
「ショーをしているサキュバスのお姉さんだワン?」
「レトちゃんが何言ってるか分からないワン・・・。」
「確かに姿を見せたり、徐々にお肌が見えたりするけど、違うワン・・・。」
姿が消えるのは、ステージが暗転するだけだワン・・・。
レリとレラは、残念な姉をジト目で見る。
「と、トワちゃんが連れていってくれたんだワン!」
聞いてもいないのに、アレなお店に行った事を暴露するレト。
永久の女神はやらかしているようだ。
「アイちゃんに報告だワン・・・。」
私も行きたかったワン。
「でも、アイちゃんなら、トワちゃんの行動なんか筒抜けなんじゃないかワン?」
神眼もあるし、と言うか、レリちゃんは連れていって欲しいって言うけど、妙に詳しいワン。
もしかして、レラだけ仲間外れだワン?
「「そ、そんな事無いワン!」」
「それは後でタップリ聞かせるワン。」
レラは仲間外れはダメと二人の姉に怒る。
『あの、問題の答えを答えて下さいね。 因みにショーの時のサキュバスさんではありませんよ。』
と、石板には光輝く文字で記されている。
「徐々に姿を現して、それから徐々に姿を消す・・・、分かったワン!」
レトが答えを導き出した。
「答えは、『月』だワン! 新月から満月そして欠けていって、新月になるワン!」
レトはそう答えた。
『正解です! 答えは月でした。 お見事です。 次も頑張って下さいね。』
ゴゴゴゴ・・・、また隠し通路が現れた。
「次も? クイズがまだあるワン? 考えても仕方がないし、このまま行くワン。」
レト達はダンジョンを進んで行く。
ダンジョンには様々なトラップが仕掛けられている。
命に関わるものから、子供のイタズラ程度まで様々だ。
そんなトラップの一つに嵌まる三姉妹が居た。
『上を見てね。』と記されている紙が床に落ちていた。
三姉妹が上を見ると、少し歩いた先の天井に紙が貼られている。
「なんて書いてあるワン?」
三姉妹は、上を見ながら歩いていた。
その時、三姉妹は同時に足の脛を竹刀で強打された。
「「「い、痛いワ~ン!」」」
まるで昨日のクロシバの姿を見るような光景が広がっていた。
そして、倒れながら三姉妹が見たものは、『足元には気を付けてね。』と書いてある紙が貼られている天井であった。
「くっ、やられたワン・・・。」
「油断したワン。」
「クロシバの痛みが分かったワン・・・。」
プルプルと立ち上がる三姉妹。
この時、三姉妹はクロシバに少しだけ優しくしようと考えていた。
次に彼女達が見付けたのは、1~15までのパネルがバラバラに入った4×4の石板だった。
『1~15までの数字を順番に並べてね。』と書いてある。
「こんなの簡単だワン。」
レトは石板をひっくり返した。
バラバラと石板から落ちるパネル。
突如鳴り響くアラーム。
「「な、何ぃ!」」
何故か『ダニィ!』と聞こえる野菜の王子様ばりの驚きを見せるレリとレラ。
「レトちゃん! 何やってるワン!」
「レトお姉ちゃん、それは反則だワン!」
アラームによって現れたモンスターを殴り、切りながら、姉に文句を言うレリとレラ。
「ん? 違うワン?」
ヘルハウンドを殴り付けながら、首を傾げるレト。
「パネルを一つずつスライドさせて順番に並べるパズルだワン!」
いきなりセオリーを無視しちゃダメだワン!
レリがこのパズルの趣旨を説明する。
「よし、モンスターを全滅させたワン。」
レト達は、モンスターの群れを倒してドロップアイテムを集める。
「で、パズルは元に戻っているけど、誰がやるワン?」
レラがレリを見ながら言う。
「レトちゃんに汚名を返上してもらいたいけど、ここは私がやるワン・・・。」
レリはパネルを動かして数字を1から順番に並べていく。
「な、なるほど、こうやって並べていくんだワン・・・。」
レトが真剣にパネルを見ている。
「出来たワン。」
レリがパズルを完成させた。
すると、隠し部屋が出現した。
正規のルートはまだ続いていそうなので、この部屋には宝物がありそうな気がする。
三姉妹は扉の取手を捻り、扉を押してみたが開かず、次に引いてみたが扉を開く事は出来なかった。
では、スライドするのでは?と、向かって左や、右にスライドさせてみたが扉を開く事は出来ない。
「どういう事だワン?」
三人は首を傾げる。
暫く考えていたレトが思い付く。
「そう言う事か!」
レトは扉の取手を持つと、勢いよく上にスライドさせ、手を離した。
ガコン! スライドさせた扉は上に収納され、降りてこない。
扉を開けた先には三つの宝箱が置かれた台座がある。
レト達は宝箱を開けてみた。
其々に金貨や、宝石が入っていたが、その他にミスリル製の万能包丁が数本、寸胴鍋が数個、バーベキュー用の串が百本程出てきた。
「そう言えば、ケルちゃんが寸胴鍋とバーベキュー用の串を欲しがっていたような・・・。」
レリがそう呟く。
「バーベキュー用の串がお肉ごと食べられて少なくなったとか、寸胴鍋が大事に使っていたけど限界かな?って言ってたワン。」
レラも思い出したようだ。
「あっ、包丁も研いで使っている内に小さくなったとか・・・。」
レトもケルの言葉を思い出していた。
「「「これはケルちゃんにあげるワン。」」」
彼女達は、この戦利品をいそいそと空間収納に仕舞った。
隠し部屋を出て、先に進む。
途中、回転床の罠を踏んで目を回したり、魔物に襲われたり、金盥が落ちてきたり、矢が飛んできたり、丸太が飛んできたり、鎖に繋がれた鉄球が後ろから襲ってきたりしたが、問題なくダンジョンの探索は続いていた。
「鉄球はびっくりしたワン。」
「まさか、レラちゃんが『押すなよ! 絶対に押すなよ!』って警告されているのに、ボタンを押すから・・・。」
レトとレリはレラをジトっと見る。
「で、でも、あれは『押して!』って言うフリだと思ったワン!」
『押すな。』と言われると、つい押したくなるアレである。
「一回なら構わないけど、流石に三回はダメだワン・・・。」
「「ああん?」」
レトとレリはレラにメンチを切る。
金盥は皆に落ちた。
丸太はレリに直撃した。
鉄球はレトに直撃した。
そう、レラは三回もボタンを押していたのだ。
「ご、ごめんなさい・・・。」
謝るレラ。
分かれば宜しい。
レトとレリは妹を許す。
「でも、敵鑑定で見た『レブル7シーフ』とか、『レブル8ファイター』に、『アーチメイジゴースト』とは何だったんだワン?」
レブルって、レベルだワン?
レトは不思議に思う。
「アーチも、アークじゃないかな? 多分ダンジョンマスターの誤植だワン・・・。」
ダンジョンマスターが一度設定したモンスターに関しては、名前の変更は出来ないとか・・・。
もし卑猥な名前を付けたりすると、運営神が降臨してしまうとも聞いた事がある。
ダンジョンマスターも色々と注意が必要なのである。
そんな事をしながら、探索は三日続き、とうとう最後の部屋に辿り着いたレト達三つ子。
「うう、最後の最後にクイズだワン・・・。」
レトは苦手だワンと、呟く。
「ここに来てクイズ。 何か嫌だワン。」
レラも若干引き気味だ。
「私はあの屈辱を忘れていないワン。 このクイズを正解して過去の自分を越えるんだワン。」
やる気満々のレリ。
台座にある石板にはこう書いてある。
『問題、いざというときニョキニョキと大きくなり、女性の舌でなめ回したりする物は何でしょうか?』
「出たよ! この精神を削るような問題!」
レトは顔を真っ赤にする。
レリとレラも同じようである。
彼女達は其々目配せをする。
誰が答えるワン?と。
「ここは何時ものごとく、じゃんけんで決めるワン。」
三人はじゃんけんで答える者を決めるようだ。
三人の答えは同じようだ。
「最初はグー!」
レトはグーを出した。
レリはパーを出した。
レラはチョキを出した。
レトは素直にグーを出し、レリはレトの素直な性格を利用してパーを出し、レラは深読みし過ぎてチョキを出していた。
「お前ら・・・。」
がルルル・・・。
レトは二人にキレる。
「じょ、冗談だワン!」
「そ、そうだワン!」
レリとレラはレトを宥める。
「いいか? 絶対に最初はグーだワン!」
レトは二人に言う。
レリとレラはピンときた。
「最初はグー!」
レトはパーを出した。
レリとレラはチョキを出した。
「何でグーじゃないワン!」
パーを出したレトにそれを言う権利は無い。
「「いや、絶対にグーを出すワン!なんて、フリだと思ったワン。」」
レリとレラが同時にレトに言う。
「うう、まさか墓穴を掘るとは・・・。」
レトはガックリと項垂れる。
「くっ、勝負は勝負だワン!」
やってるワン!
暫くして、立ち直ったレトは半分自棄になっていた。
「流石レトちゃん!」
「頑張れレトお姉ちゃん!」
レリとレラはそんな姉を応援する。
「レリ、レラ、答えはアレで良いんだワン?」
レトは顔を真っ赤にしながら二人に確認する。
二人は姉と同じように顔を真っ赤にしながら頷いた。
そして、レトは勇気を振り絞って答えた。
「答えは、おピーーーだワン!」と。
石板にはこう書いてあった。
『残念、不正解です。 答えは『口紅』です。 アレレ? 貴女達はナニと勘違いしてしまったのかな? お帰りは、奥の転移陣に乗るとダンジョンの入り口に転移しますよ。 それと、残念賞の安眠まくらを進呈します。 またのお越しをお待ちしていますね。』と。
どうやらまた黒歴史を作ってしまったらしい三姉妹は、三人分の報酬の安眠まくらを手に入れると、地上に戻って行った。
その日、三つ子達は魔王都の温泉施設で汗を流し、魔王城に突撃し、沢山自棄食いをしてから、魔王妃コリーヌとその娘である姪の可愛さについて語り、甥と添い寝するように眠りに就いた。
朝目覚めると、サモエード元帥と稽古と証して三人係りでボコボコにする光景が見られたが、元帥の妻であるコリーダはそれをただ見ていただけであった。
サモエード元帥は、最近サキュバスのクラブに居るところを妻に発見されたらしい。
その時、彼はサキュバスさんの豊満なたわわに挟まれて満足気な顔をしていたようだ。
つまり、公開処刑のようなものだと、魔王は語った。
「バイバイ、また顔を見に来るワン。」
姪と甥の柔らかい頬をプニプニしてから、レト達はリリス城に向かって旅立った。
その顔はスッキリしていて、昨日の悔しさはかなり無くなっているようであった。
「早く帰って、ケルちゃんにお土産を渡したら、レトリアお姉ちゃんにダンジョンの事を話すワン。」
彼女達は魔族領の転移門を通る。
直ぐ側にリリス城が見えた。
彼女達のもう一つの温かい場所。
後日、レトリアとベロの二人がル・ルーのダンジョンに挑戦したが、彼女達も恥ずかしい体験をしたと、のちに妹達に語ったと言う。
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皆様、体調にはお気を付けて下さいね。
少しでも違和感があれば、多少面倒でも検査等を受けてみても損はしないと思いますよ。