第7話 先輩!
製造部からの報告を受けセニア、アメリ、ロナは今後の方針について話し合っていた。
「天使ちゃん、もう少し詳しく教えて貰えるかしら」
「はい。ロナちゃんが作成した書類の中に他の転生希望の方のスキルを記入してしまったものがあって、それに気づいた転生希望の方が申し出てきたことにより発覚したということです。」
「ありがとう。それじゃあ天使ちゃんとロナちゃんは
1度製造部に行って詳しいことを聞いてきて。なにか分かったら連絡ちょうだいね。」
「分かりました。行くよ、ロナちゃん」
指示を受けたアメリはテキパキと行動する一方、ロナはまだ心が落ち着いていないのか
アメリについて行くのが精一杯だった。
2人は大急ぎで製造部に向かう。
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「営業部天使です。報告を受けて伺いました」
息を切らしながらも要件を告げる。
「あぁ、聞いてるよ。こっちに来てくれ」
対応してくれたのはいつしかの社員だった。
「この書類だ、確認してくれ」
「本当だ、1つ下の欄のスキルが入力されています」
あらかじめプリントアウトしてきた資料と照らし合わせると、原因が判明した。
「ということは、ここから全部ズレて入力されているんじゃ」
「そんな・・・・・・」
ロナの鼓動は早くなり、息も荒くなっていく。ロナの絶望感は絶頂を迎えていた。
「いや、それが間違ったスキルを渡してしまったのは
2人だけなんだ」
「それ本当ですか?」
ロナが食い気味に聞く
「ああ、不思議なことにね。きっと片方には1つ下のスキルを。もう片方には1つ上のスキルを入力したことによってズレが生じたんじゃないかな?だから、スキルの受け渡しミスも2人だけだった」
「十分考えられますね。とりあえずこのことを上司に報告するので少々お時間頂いて宜しいですか?」
「もちろん、構わないよ。用が済んだらまた声をかけてくれ。」
一言礼を言ってから廊下に出る。
「あの、天使さん報告は私にやらせていただけませんか?今回の事は私のミスですし、このまま頼りきりというのも気が引けるので」
「うん、分かった。じゃあお願い」
それを聞き、ロナはセニアに電話をかける。
「あ、もしもしセニア先輩ですか実は・・・」
アメリは壁にもたれかかり嘆息を漏らす。
しかし、直ぐにハッとして顔を何度か叩いて気を引きしめる。そうしているうちにロナが電話の相手であるセニアに礼を言うのが聞こえた。
「分かりました。ありがとうございます。」
それを見てアメリは声をかける。
「なんだって?」
「間違ったスキルを渡してしまった方に謝罪をしに行った後、製造部に来ていただくようにと」
「分かった、じゃあ行こうか」
「は、はい」
普段とは違った雰囲気のアメリにロナは
驚いているようだった。
ミスによって不安になっているロナの中でアメリはただの同期から、頼りがいのある"先輩"のような存在になっていた。
例の施設にたどり着き、受付の人に居場所を聞き向かう。
「失礼します、転生支援株式会社営業部の天使と申します。この度は大変申し訳ございませんでした」
「申し訳ございませんでした」
アメリに続くようにロナも謝罪を述べる。
相手はアメリたちよりも少し年上くらいの男たちであった。
「あぁ、その事か」
「こんにちは」
男たちは手軽に挨拶を済ませる。
「大変恐縮なのですが、今一度弊社にお越し
いただけますでしょうか?」
「あぁ、はい。」
「ありがとうございます」
アメリは男たちの前を歩いて先導し製造部へと
連れていき、そのまま製造部の社員に
対応を任せた。
「おつかれ天使ちゃん、ロナちゃん」
声のするほうを見るとそこには、セニアがいた。
さっきまで製造部の社員と今後の対応の打ち合わせをしていたようだ。
「セニア先輩、お疲れ様です」
ロナが申し訳なさそうな声で話しかける。
「あの、質問なんですけどこの後ってどうするんですか?」
「1度スキルを取り除いてから、新しいスキルをお渡しするのよ」
ロナの質問にセニアは詰まることなく返答する。伊達にこの仕事を何年もやっている訳では無い。さすがは先輩と言ったところだ。
「そんなことが出来るんですか?」
今度はアメリが質問する
「えぇ、万が一転生先でスキルを悪用するような人が出た場合対処できるようにね」
「なるほど」
「本当はお詫びも兼ねて2つスキルを付与したいところだけれど、規約があってね・・・・」
アメリとロナはセニアから改めて今後の方針について確認した結果、正しいスキルが受け渡ったあと再度謝罪をしに行くことになった。
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30分後、製造部からスキルの受け渡しが終了したとの
連絡が来たので早速向かう。
「あの、この度は本当に申し訳ありませんでした。改めてお詫び申し上げます」
「あぁ、どうも。大丈夫ですよ、僕達あまり気にしてないので」
こちらを気遣ってか男は爽やかに笑いながら
話してくれた。
「このことがきっかけで知り合いができたし、最初は戸惑ったけど間違ってもらった方のスキルもなかなか楽しかったし。な?」
「おう。実は俺たち転生先で一緒に冒険することにしたんですよ」
「そうなんですか!それは良かったです」
数分ほど歓談した後、男たちは施設に戻ることにした。
「じゃあ俺たちそろそろ戻るよ」
「はい!転生生活を是非楽しんでください!」
『ありがとうございました!』
最後にアメリとロナは元気よく挨拶し別れを告げた。2人は男たちの姿が見えなくなるまで見送りを続けた。
「あの、天使さんどうしてここまでしてくれたんですか?全部私のミスなのに・・・・」
「ロナちゃんの書類をしっかりチェックしなかったのは私だし、それに・・・・」
言葉を一旦切ってからアメリはロナの前に回り込む。
「それに、私は先輩だからね!」
アメリは腰に手を当て胸を張り少しでも自分を大きく見せようと努力していた。
「はい、アメリ先輩!」
ロナは満面の笑みで言う。
それに驚きつつもアメリも嬉しそうに笑う。
「もう1回!もう1回呼んでみて!」
「嫌です!」
2人は話しながら、営業部へと戻っていく。
もう少しで定時だ。
日は傾き、空は茜色に染まっていた。