第11話 地上整備部! 2
翌日
アメリたちが出社すると話し声が聞こえてきた。
「ねぇ、お兄ちゃんどのくらいで帰ってくるの?」
「うーん、慣れてないふたりを連れていくから半日くらいかな?」
「分かった!気をつけてね〜」
2人は整備部を覗いて驚き大きな声を出してしまった。
「ロナちゃん!?」
「へ?」
なんとそこに居たのはロナだった。
営業部では真面目で少しトゲトゲした感じだった
ロナが、萌え〜な声を出していた。
「お2人でしたか、おはようございます。
今日は地上に行くそうで」
1秒も経たないうちにいつものロナに戻った。
「ロナちゃん、今お兄ちゃんて・・・・」
気になったファインが質問した。
「えぇ、オルデは私の兄です。それが何か」
「いや、驚いたなーと」
「2人とも、僕は先に出発の準備をしているから君たちも程よいところで話を切り上げて来てね」
3人を気遣ってか、オルデが場を後にした。
「はい、分かりました」
オルデが見えなくなったところで、ロナが
飛びかかってきた。
「あの、今の事は他の人には内緒にしておいてくれませんか?その、バレたら恥ずかしいですし」
アメリとファインに見られたのが余程恥ずかしかったのだろう、顔が真っ赤になっていた。
「うん、もちろんだよ。でも驚いたな〜
まさかロナちゃんがオルデさんの妹で
あんなにお兄ちゃんの事を好きだったなんて」
「改めて詳しく説明しないでくださいよっ!本当に恥ずかしいんですから」
ロナはさらに顔を赤くしながら
泣きそうになっていた。
「うわー、アメリちゃんドS。いつ出るか分からないのがまた怖いんだよなぁ」
「ファインちゃん、何か言った?」
「なんでもねぇっす姉貴」
あまりの恐ろしさについつい姉貴という言葉を
使ってしまったファイン。
「姉貴って何?変なの。そろそろオルデさんのところに行こうか」
ロナに慰めの言葉をかけつつ、アメリの後を追う
ファインであった。
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それから10分後
アメリたちは地上に行くための最終段階に
取り掛かっていた。
「いいかい?まずはこの高層マンションに
飛んで行って着陸する。翼を地上の人に見られる訳には行かないからね」
「分かりました」
飛行ルートとその後の行動について確認を
とり遂に地上へ向かう。
「ところで、地上界まではどうやって行くんですか?」
そう、アメリたちは地上界に着いてからの行動しか指示されていなかったのだ。
「ゲートを使うのさ」
そう言ってオルデは空中に魔法陣を描く。
するとそこに、なんとビックリ魔法のゲートが現れた!向こう側には地上界の空が広がっている。
「凄い、これ魔法ですよね!」
「そうだよ、でも少ししかもたないから
消える前に行こうか」
地上界に入ってからは、オルデがリードしてくれたので難なく目標のマンションに着いた。
「まずは、この近くにあるビルの屋上に向かうよ」
「分かりました」
地上整備部はその名の通り、地上の環境を整備する部署だ。不運の事故で亡くなった者から話を聞きその原因となった場所に行って安全確認をする。
必要であれば何らかの処置を取り二度と起こらないようにする。
最近は自ら命を絶つ者が増えているので
特に屋上の柵の確認等は念入りにするそうだ。
「悲しいことですね、自分で自分の命を殺すなんて」
「そうだね。そしてそれを放っておく人がいることはさらに悲しいことだ。
悩みは人それぞれだから全ての人を救うことは難しいし、その人にとってはありがた迷惑に感じることもあると思う。でも、だからこそ、僕たちはできることを精一杯やるんだ。たとえ偽善と言われてもね。」
オルデの心の内を聞きアメリは
そうですね、とだけ述べる。
しばらく沈黙が続いたが
ファインの声によってそれは破られた。
「オルデさん、あそこ!」
ファインが指さすほうを見てみると
1台の車が暴走している。しかも、何やら
黒ずんだ紫色のオーラをまとっている。
「あのオーラは悪魔のものだ、奴らなんで地上界に」
「オルデさんどうすればいいんですか?」
アメリがオルデに指示を貰おうとするが
返事がない。そこにオルデはもう居なかった。
直後、暴走車の方から轟音が聞こえた。
「な、なんだ!?」
「よお悪魔、お前らの天敵の天使だ」
気づけばオルデは悪魔との戦闘態勢に
入っていた。
「クソっ、だが目的は既に果たしている
このまま逃げてやる」
車は速度を上げ、オルデが追尾した。
「と、言うとおもったか?」
突如暴走車は進路を変えオルデと衝突する。
轟音と共に砂埃が舞う。
「フハハ、天使も案外大した事ないな、ん?」
煙の中からオルデが出てくる。
痛くも痒くもないといった表情だ。
「おいおい、勝手に殺してくれるなよ」
「クソ、こうなったら真の姿を見せてやる!
トランスふぉ」
「させねぇよ!」
オルデの反撃が始まる。
車相手に素手で戦うオルデは圧巻であった。
ものの数分で決着がつく。
「あ、あのオルデさん。大丈夫ですか?」
アメリの問いかけにオルデはハッとして
我に返る。
「心配してくれてありがとう。
恥ずかしい所を見られちゃったね」
「いえ、カッコよかったですよ!
それで、これからどうするんですか?」
「そうだね、一度天界に戻ってこのことを報告しよう。きっと上手くやってくれるはずだ」
3人は路地裏に入り、ゲートで天界に戻った。
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「お疲れ様、報告は僕がしておくから今日は解散でいいよ」
「分かりました、お疲れ様でした」
天界に戻ってきたアメリたちは
オルデの配慮で定時よりも少し早めに帰る事になった。
「私初めて悪魔を見た。少し怖かったよ」
「うん、私もただ見てるだけだった」
「ファインちゃんは悪くないよ、私たちには悪魔と戦う力があるわけじゃないし」
悪魔に遭遇したショックが大きく
会話が続かなかった。
「それじゃあ、また明日」
「うん、また明日」
そのまま特に話すことも無くファインと別れた。
(悪魔の目的はなんなんだろう。とにかく、明日オルデさんに色々と聞いてみよう)
時刻は午後4時、夏に近づくにつれ
太陽が沈むのは遅いはずだが
西の空に出来た積乱雲が夕日を隠し
辺りは普段よりも暗かった。