第四話
「あのー、お二人さん、どうかした?」
公道のど真ん中で抱き合っていたら、いきなり私が持っていた携帯からともちゃんの声。
そういえば、ずっとともちゃんと話していた途中で通話中のまま握り締めていたんだ。
「あ、と、ともちゃん、・・・ずっと聞こえていた?」
「いや、兄貴の告白しか聞こえなかった。ま、そんな感じだとついに両想い?」
ともちゃんはとてもあっけらかんに言うから、なんとなく思考がついていけない。
「え、あ、うん」
「よかったよ。これで俺への八つ当たりが減るよ」
「八つ当たりってそんなことしてないよ!」
「いや、兄貴のこと。兄貴、里都がいなくて寂しくなった時は、俺にやつあたり・・・」
「だまれ」
突然目の前に腕が出現し、私の携帯を奪っていった。
というか、いままで気づかなかったけど、周りの温度が一気に下がったように思える。背筋がうすら寒い。
「あの」
こいつは私の見ている前で、携帯を切り、しまいには、電源まで切ってしまった。
愛しの弟に対してこの態度は何?
ずいぶん扱いがぞんざいのような気がする。どうしてだろう。
昔は、こいつは、
「ブラコンじゃなかった?」
「俺は今も昔もブラコンであったことはない!!」
なにやら必死で否定するけれど、じゃあ、私へのあのときの言葉の数々はなんだったのだろう。
ブラコンじゃなければ、あんなセリフでてこないと思うけど。
「なんで、私のこと昔、弟をたぶらかす魔女めとか言ったの?本当にブラコンじゃないの?私、あの時はすごく傷ついたんだから!!好きな人は弟しか興味がない、というか、愛していないんだと本気で思ったんだから」
私があいつに顔を近づけると明らかにうろたえた態度になり、あーとかえーとか言い始めた。
「ねぇ、なんでよ」
「べつにいいだろ。そんなこと。忘れろ」
「だめ。私の心の傷の問題なんだから、そんなことなんていって終わりにしちゃだめに決まっているじゃない。ねぇ、なんでなの」
さらに私が言い募るとついに観念したのか真っ赤な顔で険しい表情をしつつ
「知明と仲がよかったから」
「は?」
「知明と仲がよかったからだよ!俺は知明と引き離そうと躍起になっていたんだよ!!」
私の口はぽかんと開けたまま動かなくなった。
要するに、ともちゃんと仲たがいさせるためにブラコンきどっていたのか。
ふと、疑問が私の頭を占めた。
「でも、ブラコン気取りでどうして仲悪くさせられるの?」
「知明の兄が嫌なやつだと分かれば、里都は知明と仲良くなるのをやめるかなと思ったんだよ・・・。でも、お前らはいつまで経っても一緒に登校しやがって、まじ本気で知明をしばこうかと思ったぜ」
「けど、自分が嫌われていても平気だったの?」
「里都の気持ちは知明から常に聞いていたからな」
なんだか、とても馬鹿らしい。
そんなことで私は毎夜枕を涙でぬらし、胸が裂けるような思いを味わうはめになったのか。
私がどんな想いで毎朝、ともちゃんちに行ったのか。
ともちゃんには悪いとは思ったけど、行きたくない、会いたくない、いつも陰鬱な気分で行ったよ。
それなのにこいつはともちゃんをこき使って平然としていたわけなのか。
っていうか、ともちゃんにこいつが好きだと話したことがないのに、最初からばればれだったの!?
そんなに私分かりやすい顔をしていたの!?
思い返してみれば、あいつと会った後は毎回落ち込んで、ともちゃんの話をまともに聞いていなかった気がする。
私の暗い記憶を思い出したらだんだんいらいらしてきた。
全部こいつのせいだ。
この想いをこいつにぶつけたい。
私の怒りをこいつに知らしめたい。
私だけにつらい思いをさせていた恥知らずに罰を下してやりたい。
だから、私はこいつの頬を両手でつまみ、横に思いっきり引っ張った。
「天誅」