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第一話

初対面から嫌われていることは分かっていた。


「またきやがったな。弟をたぶらかす魔女め!!今日こそ俺が成敗してやる!神妙にお縄につけ!」

「兄貴、やめなよ。里都りつが困っているじゃないか」

「いいよ。ともちゃん。なれてるし」

私は深々とため息をついた。

いつもともちゃんと登校をするために、朝ともちゃんちに行くのだけど、この男の会う時間がとても憂鬱だ。

目の前にいる男は、4歳年下の弟をこよなく愛するブラザーコンプレックスの塊だ。

そして、あいつは毎日弟と登校する弟の幼馴染である私のことを目の敵にしている。兄である自分は仲良く一緒に登校できないのに、たまたまマンションでお隣になった私が弟の隣を占領しているのはどういうことだ、というらしい。

正直毎日うざい。

そして、私に向けられる暴言は痛かった。

どうして私はこの男のことが好きなのだろう。

馬鹿らしくて笑っちゃう。

「いこ。ともちゃん。学校遅れちゃう」

「あ、うん」

「待ちやがれ」

去り行く私たちの後ろでまだ、あの男が叫んでいたけど、いつものことなので気にならなかった。ただ、ともちゃんは気になったようだ、とても申し訳なさそうな顔をしている。

「ごめんな、里都、兄貴がやかましくて」

「ううん、大丈夫、分かっていることだから」

あの男の頭の中は、一にともちゃん、二にともちゃん、三、四にともちゃん、五に自分というようなやつだ。

弟が重要で、幼馴染の女なんか弟を取り合うライバルにしか過ぎない。

「でも、あれでも兄貴は里都のことが好きなんだよ」

「ともちゃん、そんなわけないでしょ、嘘はやめて」

「嘘じゃないけどなぁ」

その後もともちゃんはぶつぶつ何か言ってたけど、私の耳には何も入ってこなかった。

゛弟をたぶらかす魔女゛

゛成敗してやる゛

所詮、私なんかがあの男の一番になれるはずがないのだ。

早く忘れてしまおう。

それがいいのだ。

いつまでも未練たらしく想っていたとしても、あいつの世界はともちゃんで一杯なのだ。私の入る隙なんか、これっぽっちもない。


「そういえば、ともちゃんは高校どこ受けるの?」

「第一高校だよ。地元の。里都は?」

「私は隣の県の西南高校にするの」

「えっなんで!?遠いじゃん」

「お母さんから聞いてない?私、親の転勤で引っ越すんだよ」

「・・・マジで?」

「マジで」

ともちゃんはあんぐり口をあけたまま私の方を見つめてくる。

しばらく、沈黙が続く。


「あー兄貴になんていえばいいんだよ」

いきなり、ともちゃんはどこかいらいらしたような様子でがしがしと頭をかき混ぜた。

まさか最初にでてくる言葉が兄貴だとは思わなかった。

この二人はできているのか、こんなにも二人とも相手のことを想いあっているのかな。

禁断の兄弟愛、なんちゃって。

こんな妄想してたらともちゃんに怒られてしまう。

ともちゃんは日ごろ自分はノーマルと主張だけはしているからね。本当の所はよくわかんないけど。

「お兄さんには言わないで。勝利宣言されてもうざいだけだから」

私が顔をしかめながらそう言うと、ともちゃんはきれいな形のした眉をゆがめつつ黙ってしまった。

「ともちゃん?」

「・・・兄貴には言わなければいいんだな」

「うん、で、お兄さんがいない日をねらって引っ越したいなぁ〜と思っているんだけど?一応、私が日程決めていいんだ。といっても三択なんだけどね」

「いいよ。兄貴、3月は合宿入っていた気がするし。・・・なぁ、里都、引越ししてそのまま、向こうに行くつもりか?又、戻ってくるなんてことあるか?」

「どうだろ?一応、引越し先はマンションだから、いつでも引越しできるけど?」

「ふうん」

「まあ、ともちゃんとは離れてもずっと友達だからね?」

私がどこかすがるように言うと、ともちゃんは険しくしていた顔を緩め、ふっと笑った。

「そうだな。里都は俺の一番の友達だからな。・・・でも、兄貴に里都が引っ越した後何て言えばいいんだ?絶対俺がしめられるんだ。いや、俺が知ったこっちゃねぇ。自業自得だ」

ともちゃんは考え込むようにぶつぶつ言っていたけど、やっぱり口の中にこもったような言い方をして、私は何一つ理解できなかった。

兄弟の間でしか分からないことかな。

まぁ、これであの男を忘れることができる。

毎日、会わなければ現実の人は過去の人になり、そしていつしか幻の人になる。

早く、こんな気持ちとおさらばしよう。

でも、その前に高校受験合格しないといけないね。



努力が実ったのか、私は余裕で高校に受かった。

これで、後はこの地とお別れするだけでいい。

最後にあいつの顔を見たかったけど、大学が忙しいようで、全く顔を拝見することができなかった。

でも、それでよかったかもしれない。

心のどこかで踏ん切りがついたような気がするもの。

あくまで気がするだけだけど。


「それじゃあ、ともちゃん、又、連絡するね」

「絶対だな。里都、向こうに行っても頑張れよ」

「うん、ありがとう。ともちゃん、またね」

「おう」



これで私の苦い初恋は淡く美しい思い出になるはずだった。

ほら、咽元すぎれば熱さを忘れるって言うじゃない。

でも、三年後のそのときの私はともちゃんをひどく恨むことになる。

忘れきる前に熱さを経験させるなんて、ひどいやつなんだろう。

ともちゃんもあいつも。


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