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それは困りましたね。

沈黙が二人の間に流れた。

筆を止めずに、男は首をクイッと動かして俺に話の続きを促す。何故俺がこの世界にいるのかを、この男は知りたがっている。


「あの日、まぁ…昨日の事だ。俺は商店街ダンジョンに潜ろうとして宿屋を出た。ところがだ、予言者によると台風がすでに日本に上陸しているとの事。顔を歪ませる程の風が吹き荒れ、凶器と化した雨粒が人々をタコ殴りにしていたんだ。急がねば我が命が危ない、そう俺は思った。冷めた水の入った浴槽の如きサンダルを引っかけた足を早め、大して役に立たないビニール傘を差して目的地へと向かった。

しかし現実とは残酷なものよ。俺は横断歩道を渡ったとさ。すると激しい轟音と共に眩い光が俺を襲い、恐怖が心をかすめた時にはすでに遅し、大型車両ゴーレムが俺をひき肉にしていた。で、気がつけばここにいたという訳だ。」


俺はスラスラと目の前の職員にここに来るまでの経緯を話した。

何やら難しそうな書類を書いていた男は顔を上げ、ボールペンを俺に突き出した。


「では、こちらの書類に氏名のご記入をお願いします。また、採血の方させて頂くので、サインしましたら両腕をこの裁断機に載せて下さい。」


俺はペンを手に取り、布の様な質感の紙に大きく「山田太郎」と書いた。インクが滲み、少し無様な文字だった。


「偽名ですね、本名を書きなさい。」


「あ、はい…。ごめんなさい。」


新しい紙を渡され、今度は正しく「無双西京」と書いた。

男に紙を差し出す。男は片手で受け取り、あくびをした。


「はい、では両腕を裁断機に載せて下さい。」


ん?俺はこれから何されるんだ?罪を犯した覚えはないので、

このような危なっかしい物に両腕を載せる義務はないと思うんだが。


「さぁ!」


「いやいやいや、なんか聞いてなかったけどこれから何するんだ⁉︎な・ぜ・両腕をこの危なそうな物に載せる必要がある⁉︎

俺の腕に何か問題でも?あーどっかの富豪が欲しがってるんだーそうだったのかーそれならしょうがない––––––ってなるかボケェ!!!!」


男は眉をひそめた。


「採血です。他の方にご迷惑ですので大声は控えて下さい。」


「採血は小さい針で十分でしょ?どうして腕ごと断ち切ってじゃないと血が取れねぇんだ!」


「お静かに。こちらにはこちらのやり方があります。準天界ではこの方法がメジャーです。」


「痛いっしょ?絶対痛いっしょ?いーやーだーよこんなの。」


「準天界では痛覚を意図的に抑えられておりますのでご安心下さい。切れた腕も無料で接着させていただきます。」


この男、信用できるのか?そもそもコイツは黒メガネの黒髪野郎だ。俺は昔からこういう奴とは遊ばないと決めている。

本能が逃げろと言っているぅー。でもどこに?準天界って言うくらいだから元の世界に戻ろうととしたら落下死するかもしれない。

痛覚が抑えられているだと?また無料でくっ付けるだと?針で採りゃあいい話じゃねぇか。そもそもどれくらい血がいるんだ、失血死する未来が俺には見えて仕方がない。


「では、はい。はい。はい。」


「う、うわぁ。やめろやめろやめろやめろぉぉ!!」


コイツ、俺の腕を裁断機に固定しやがった。まさか本当に切るのか?その長くて鋭そうな刃渡り6センチ以上の刃物で⁉︎

まずいよこれは。この市役所みたいな所で俺は死ぬのか?あ、もう死んでるんだった。てか今はそれどころじゃない、やばいやばいまじでやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい…



「ちょっとチクッとするだけですからねぇ。一度に両方切ってしまいますので、少し我慢するだけですよー。」


男は淡々と裁断機の刃を引き上げる。


「っはぁ…はぁっ…はぁっ…」


「はいはいー肩の力を抜いてー。子供じゃないんだから腕切断さいけつくらいでいちいち騒がないで下さい。」


カツンという音がして、裁断機が90度まで上がった。

刃が付いた部分をスライドさせ、肘辺りまでに移動させる。

このまま振り下ろせば綺麗に関節から切れる位置である。


「ぐはぁ!!…っぐっ!!…げぼっ!!!」


「まだ切ってませんよー、リアクションは切ってからにして下さい。」


「…っ!………」


「はい、せーの…」


サクッゴキッという音が響く。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁ、へ?」


腕の辺りをそっと見ればお花畑が隠していて見えない。

切れたって感じはあったけど、これで終わり?


「あのー、終わったんですか…?」


「はい、終わりましたよ。最近規制が厳しくてですね、グロいのは隠さないとダメなんですよ。それもモザイクじゃいけないって。」


なるほどね、準天界も大変だ。

男は垂れ落ちる血液を紙コップで受けると、それを机の上に置いた。トマトジュースの様な血である。


「それでは採血を終了しましたので、待合席でお待ち下さい。」


「あ、はい。」


両腕手首に付けられていた重々しい手枷を外され、俺は待合席に座った。

それにしても採血をされるとは思わなかった。何に使うんだろう?本人確認?

俺は壁の上に貼られたポスターを見た。


「君も異世界転生をしよう!」


あーね。よく読んでみると、どうやら対象者に条件はなく、誰でも異世界転生をして望んだ力が手に入るらしい。

但し世界を救うこと、だってさ。俺も応募しよかな。


あ、してたわ。さっきの窓口そういえばそんな感じのとこだった。

無意識のうちにやってたんだなぁ。


なぁんてね。知ってましたー、ふふふん。

「え、そうなん!?知らんかったわ!」的なね。

ん〜どんな能力手に入れよっかなー。即死スキルとかは趣が無いか。やっぱりバトルとかすんのかな。ワクワクするじゃねぇか。



ピンポーンピンポーン。

お、呼ばれてるのか?

慌ててさっきの窓口まで行く。


「申し訳ないんですが、只今異世界転生は好評につき満員なんですよ。」


黒メガネがちっとも申し訳なさそうな顔で俺に言う。


「へ?それは困りましたねぇ。」

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