第六話 限界が近いようですね
航大がぶっ倒れてから20分後…
「おーい!起きろー!昼だぞー!焼けるぞー!」
「うぅ…」
「焼肉だぞー!砂漠で焼肉になっちゃうって、ちょっとほんとに!
起きて、航ちゃん!」
必死の形相で航大を起こしにかかるソプラ。
今にも干からびそうである。
「…俺も…し…ぬ…。」
「とりあえず『絶海』使って!楽になるから!早く!」
「…う…『絶海』」
二人を大きく取り囲む薄い青色の膜ができる。
「…お、楽になってきた。」
「もおほんとに、死ぬかと思いましたよ!
魔力切れは20分あれば魔力液で治ってますから、
あとは砂漠で体力奪われてただけだったんですよ!
そんなこともわかんないんですか!」
「俺が魔力切れになったの、お前が教えねーからじゃねーか!」
「さーて、なんのことやらー。」
ソプラは口笛を吹くかのように口を尖らしてみせる。
「あ、そっか、反省してないのか。」
「あ、ひはい、ごへんなはい、いはいでふっへ!」
ほっぺたをつねられ涙目になりながら必死に謝るソプラを見て、
すぐにつねっていた手を放す。
「いたたたた…もうちょっと手加減出来ません?女の子なんですよ?
とにかくですね、早く村を目指しましょう!」
ふざけ合えるまで体力が回復し、早速砂漠を歩き始めた。
ソプラ曰く、この砂漠は『テミラ砂漠』といい、
このエルジュの世界にある最も大きな島『テミラ島』の南にある唯一の砂漠らしい。
二人は島の外周を沿う形で島の南西部にあるアサイファを目指していた。
歩く道中の景色には煌びやかな南国の海と黄金の砂漠という
航大には見慣れない景色が広がっていた。
もう一つ航大に見慣れないことがあった。
「これいつまで倒しつつげるんだよ…。」
「そんなこと言うんだったら、早く攻撃スキル拾ってくれません?
30分ぐらい戦いっぱなしなんですけど、私、一人で。」
二人の周りには常にと言っていいほど、ベアールが付きまとっていた。
攻撃スキルを持っていない航大は戦闘に参加せずに、
『絶海』で暑さを凌ぐだけで、ソプラに任せっきりだった。
「もうそろそろ魔力が切れるんですけど…。」
ソプラの持っていた魔力液も底をつきはじめ、
航大も『絶海』を保ち続けることが難しくなってきた。
「やべ、暑いのだけは嫌だな。」
「それよりモンスター倒してる私の心配してくれません!?
女の子なんですよ!?」
まだ村も見えてこず、二人の気力はどんどん無くなっていった
。ベアールを倒すスピードも落ち、『絶海』も発動できなくなり、
二人は砂の上にしゃがみこんだ。
本格的に命の危険が迫りだした時だった。
「くそっ…あ、あれなんだ?」
航大の少し前にきらきらと光る手のひらサイズの球体が落ちていた。
「…っ…それです、それがスキルです…
もう私は、持てないんで、航ちゃん、拾ってください…」
今にも倒れそうな様子でソプラは言う。
その言葉に従うようにして、航大は球体を取るべく体を動かす。
それに気づいたのか、ベアールは阻止しようと一斉に襲い掛かる。
「…っ航ちゃん!」
ベアールがソプラがもうだめだと思った瞬間だった。
「『吸収陣!!!』」
周囲を取り囲んでいたベアールの動きが鈍る。
「『五色乱爆!!!』」
そしてベアールは色とりどりの爆発に飲み込まれていく。
「………」
その様子を見るのが最後に、ソプラは気を失った。
てれれれってれー。新しいわざー。
ところで、絶海があれば、砂漠でもだいじょうぶってことは、
夏クーラーなしで過ごせるんで、電気代が安くなりそうですね。