第八話 盛大な夫婦喧嘩 -浮気劇最終幕-
昨日更新できなかったので本日更新!
浮気章、最終幕です!
蘭丸ののんびり手刀を受け、再び気を失った秀吉が次に目を覚ました場所は、秀吉も見覚えのある場所だった。
そこは織田信長の現在の居城・岐阜城。
元は美濃斎藤家の稲葉山城だったものを信長が稲葉山城の戦いで勝利し、手に入れ、岐阜城と改名して居城としている。
その岐阜城の天守閣の中央に秀吉は横たわっていたようだ。
しかも結構雑に。
「ここは……岐阜城か?」
「そのとおり」
空気を切り裂くほど鋭く、人の上に立つにふさわしい風格と雄々しさを兼ね備えた声。
秀吉が聞き慣れ、尊敬する者の声。
声の方向へ秀吉が顔を向けると、予想通りの声主・織田信長がいた。
その信長のすぐ横に、寧々子は控えていた。
控えている寧々子が秀吉を見る目はとても冷たく、顔には半分ほど影が覆っているように見える。
「信長様!? それにねね!? なぜ二人が一緒に……はっ! 信長様が誘拐されたねねをすでにお助けになっていた!?」
「めでたい頭をしておるわ、サル。仕事は優秀だというのに、女が絡むと途端にお前は使い物にならんな」
「ええ!? そんなことありませんよ。わしはいつでもどこでも優秀ですぞ」
「ハッ、よく言うわ。優秀な男であるなら妻が夫を召し抱える者のところに押しかけになぞ来ぬと思うが?」
「は? 押しかけ? 誘拐ではなく?」
「今度は余が誘拐したことになっておるのか? 失礼なサルだ」
全く状況がつかめず、目を点にする秀吉に信長は「やれやれ」とため息を吐きながら首を横に振る。
そのまま信長はすぐそばにいるねねの肩に手を回して抱き寄せた。
するとそれまで冷酷な表情を浮かべていた寧々子が両手を合わせて拝む姿になる。
いつか見た光景である。
「ねねは旦那があまりにも女を連れ帰ってくるものだから、浮気しすぎであると余に訴えにきたのだ」
「し、しかしこのご時世です。多くの嫁を抱えてもおかしいことではないかと……信長様とて一人ではありますまい」
「余はいいのだ」
「そんな無茶苦茶!?」
「こんなに想っている美女がいるというのにお前はなにが不満なのだ」
「不満はありません! わしは決してねねと離縁したいなどと思ったことはありませぬ。それは神にだって誓いましょう!」
冗談抜きで言っているのか、秀吉の顔は真剣そのもの。
それを見て、寧々子が秀吉を見る目の色も変わる。
「じゃが、確かに他の女子の元へばかり行っていたわしが悪い……。じゃが、ねねはねねで城を不在にすることもあろう?」
「どこかの旦那様が仕事放棄、小姓たちからも逃げているからではありませぬか」
「ぐうの音も出ん」
「論破されておるではないか。城や領地の管理までできる女子など稀だぞ。今となっては幼かったねねを余が娶らなかったことを後悔するぐらいだ。ねね、今からでも遅くはないぞ?」
「まぁ」
「まぁ、ではないわい! 何を真に受けておるのじゃ、ねね。昔からおぬしはわしより信長様贔屓がすぎるぞ! わし、旦那!! 夫!」
「まぁ、ねねが余を贔屓してしまうのは余のカリスマ故であろうな。ねねは余が天下人となる前から余を見込んでいたからな」
「そういう信長様こそ、私を他とは違うと申してくださいましたわ」
まぁ、実際、未来人なんで。
という言葉は飲み込みつつ。
微笑ましく会話する二人を見て、布を口に加えて悔しがっているかのような悔し顔を浮かべている秀吉。
そこで何か思い当たったのか、あっ、と声を出す。
「もしやこれまでの夢のような出来事。全て二人の差し金か!?」
「そうだ」
「ええ」
「あれ全部夢ではなく現実!? 待て。ねね、半兵衛ともイチャついておったな!? 顔がいいからとそれはどうなんじゃ!」
「あなたこそ、顔がいいからと誰でも彼でも声をかけているじゃないですか。お返しです」
「顔がいいから仕方がない!」
「では私も仕方ありません」
「なにぃ!?」
もはや普通に夫婦喧嘩を初めてしまった秀吉と寧々子。
寧々子は信長のそばを離れて、秀吉の目の前に立って堂々と言い返す。
それを見てまたもやため息を吐く信長。
「お前たち、喧嘩はここではないところでせよ。せっかく余が筋書きを描いて皆に役を演じてもらっていたというのに、結局のところサルは反省していないようだ」
「え? みんな? ……あ!」
信長がそこまでいうと、廊下に控えていた前田利家、森蘭丸、竹中半兵衛、石田三吉が部屋へと入ってきた。
それをわなわなと青い顔をしながら震える指でみなを指す。
「みんな共犯者か……!?」
「まぁそういうこったな! おめぇがねねをちゃんと大事にしないからだぞ。俺がまつを大事にしているくらいに大事にしろ」
「利家は男としては異常じゃ。美人よりもまつというではないか」
「それのなにがいけないんだ、アアン?」
「利家様の言う通りです! 利家様は女性にとって憧れの男児と言えましょう」
「ねねー! 全然わしに味方しない」
圧倒的数の不利に立たされてガクッと地に膝をついて崩れ落ちる秀吉であった。
「ウッウッ。しかし今回の一件でわしはよりねねが大事だと言うことが分かった。もっとねねを大事にする……しばらく新しい女子も作らぬようにする……」
「ようやっと分かったか。これで余、自ら脚本したかいがあるというもの」
「……信長様、おつかれさまでございます」
「おう。蘭丸、みなに茶でも振舞ってくれ。一息ついたら各自戻るがいい」
蘭丸が急いで茶を用意しに部屋を出る。
利家は秀吉に手を貸して慰めという名の説教を始め、三吉と半兵衛は寧々子へ近づく。
「おねねさま、おつかれさまです」
「半兵衛も三吉も付き合ってくれてありがとう」
「喧嘩の度にこんなことになっても困るのでこれきりにしてください、ねねさま」
「それはあの人次第かしら」
「やれやれ。困った主夫婦ですね」
三人とも呆れ顔を浮かべるものの、目が合うと自然と笑いが出た。
寧々子がまた男二人と仲良さげにしているのを見て、利家の説教から抜け出す意図も含んだ秀吉は三人の間に割って入る。
「ねねはわしのじゃーー!」
そういって、寧々子をきつく抱きしめる。
それをみて皆、ハイハイとなだめる。
茶の準備を終えた蘭丸が戻ってくると、皆は茶をおいしくいただいた。
一息ついて、みなで岐阜城を出るか、となった時。
「ねね、近こう寄れ」
「はい?」
信長に呼ばれた寧々子は先に皆を送って信長へと近寄る。
すると、文を渡された。
これは、寧々子の記憶にある史実でもあった、浮気を訴えたねねへ信長から送られた手紙だろうか。
「帰りの道中でも、城へ戻ってからでもかまわん。サルと二人で読め」
「ありがたく頂戴します。この度は誠にありがとうございました」
「かまわぬ。余も久し振りの息抜きになった。また顔を出すとよい。いつでも待っているぞ」
「はい。ありがとうございます」
信長から受け取った文を懐へしまい、寧々子も皆を追って天守を出た。
「ねね、なんじゃその手紙は」
帰りの道中、信長からもらった手紙を開いてみた。
秀吉と寧々子は同じ馬に乗っており、二人でゆっくり帰路へついている。
「信長様からよ」
「なんじゃと!? いつのまに! して、なんと?」
「えっと」
――いろんな女へ目移りが激しいの男だが、ねねがいなければ戦で成功を収めることも城を持つこともなかったかもしれない。
今後もいい功績があげられるよう、どうか、支えてやってくれ。
「の、信長様ァ……」
「なんだかんだ言って、いい人ですね。 ……ん?」
「な、なんじゃ……ぐずっ」
「いや最後に」
――しかし秀吉ではなく、余にさらなる発展をもたらすための協力をしてくれるというのであれば余の隣に席を設けるのでいつでも言ってほしい。
話はいつでも聞こう。
「の、信長様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 絶対ダメじゃああああああああああ!!」
秀吉の叫びが辺りを木霊した。
読了ありがとうございます。
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寧々子も演技で男とべたべたしたからもはやどっちに正義はあるのか(笑)