第八十一話 裏切り者の末路
久しぶりにそこそこ長く書いてしまった!
荒木村重から逃げ切った三吉と平馬は姫路城へ着くなり、半兵衛の元へと向かった。
先に秀吉へ知らせようかとも思ったが、そんなはずはない、と一蹴されては意味がないし、全ての事情を把握している半兵衛であれば間違いないだろうという結論に至った。
「半兵衛さん! ――あっ」
半兵衛の元へと直行した三吉と平馬の目に入ってきたのは、半兵衛だけでなく変装した寧々子及び官兵衛、そして秀吉の姿だった。
「皆さまお揃いでしたか」
「なんじゃ、そんなに慌てて。お前たち今日はあまりわしの前に姿を見せていなかったな。さぼりか?」
「そんな冗談を言っている場合ではありません!」
ピシャリ、と強めに言われてさすがの秀吉も肩をすくませる。
並々ならぬ様子に半兵衛は真顔で二人へ言い放った。
「荒木村重はどうなったのかな?」
「申し訳ございません。失敗です」
「――そうか」
特に感情が揺れ動く様子がない半兵衛に二人は怪訝そうな表情を彼に向ける。
二人の言いたいことに答えようとするが、話についていけていない秀吉が動揺を見せる。
「荒木殿が、なんじゃ? 半兵衛、わしの知らぬところでまたなにかやったのか?」
「まだ何もしていませんよ。ただ、彼は信長だけでなく、今、僕たちが相手にしている別所長治に支援をしている本願寺や足利、まぁ足利は間接的にでしょうが、その二人と親しい方なのでなにか変な気を起こさないか、と危惧していたのです」
「疑り深いのう。それが軍師の仕事ではあるんじゃろうが。しかし荒木殿は信長様のお気に入りじゃないか。裏切る理由がどこにある」
「そう見えますよね。人の思惑とは表面だけでは計り知れないですよ、秀吉様。現に、二人が今慌ててきた理由は、彼が裏切ったことの報告ではないでしょうか」
そうなのか? と問いかけるような表情で秀吉が二人の方へと顔を向けると、二人は暗い面持ちで頷いた。
二人の返事に秀吉はみるみる顔色が変化し、冷や汗が噴き出す。
「これはとてもまずい状況ではないか?」
「三木城は兵糧攻めで行く方針でしたし、その一角であった支城攻めも半分終わっていますから決して悪い状況ではありません。とりあえず残りの援軍である信忠様にこのことを報告し、あちらの出方を伺いましょう」
半兵衛はそのまま秀吉を連れて部屋を出てしまった。
部屋に残ったのは三吉、平馬、官兵衛、変装している寧々子。
話の流れを遮ってはいけない気がして黙って見守っていた三吉と平馬だが、半兵衛たちが出ていくと寧々子へと詰め寄った。
「半兵衛さんめちゃくちゃ余裕すぎない!? なんで!? こうなるって分かってたの!?」
「覆ったらいいな~程度にしか考えていなかったということよ。そもそも半兵衛はあらかじめ言っていたでしょう? 失敗したときの保険を用意しておくって。今、その保険が機能しているところ」
「保険とはなんですか!? おねねさま!」
「暗殺」
寧々子の答えに二人は愕然とする。
三吉は思わず姉の襟元を掴み、食い掛った。
「それってつまり最初から殺すつもりだったってことだよね!? 相手は味方だった人だよ!? それでも容赦なく殺せるの!?」
「今更きれいごとを言い出すつもり? あなただってそれなりの人数を傷つけたり殺したりしてきたでしょう? なんで対象が味方だった人間に裏切られても刃を向けられないのよ」
「でも、話し合ってうまくいった可能性だって……!」
「あったわ。だから任せた。でも失敗した、そうでしょう? 失敗しなければ保険は機能することなく杞憂に終わればそれが一番だったのよ」
失敗しなければ。
寧々子の言葉は三吉の心にぐさりと刺さる。
三吉は平馬の言葉なら届くのではないか、と確信に近い気持ちでいたのだ。
それが見事に打ち砕かれ、挙句の果てにその相手が今頃殺されているのかと思うと、救えたかもしれない命を救えず、悔しい気持ちを抱える。
「……三吉、もういい。半兵衛様もおねね様も機会を与えては下さった。裏切り者となってしまった以上、二人が暗殺しなくても信長様が討ち取りに行っていたはず。結果的に結末は変わらないように思う」
「平馬……」
「俺はとても考えさせられたよ。きっと彼が言う通り、考える時がくるんだ。この人でいいのか、と。彼はその一つの解、俺の未来の一つの形なんだ。説得は叶わなかったけど、彼の行く末は知りたいと思う」
三吉と違って平馬はいたって冷静だった。
平馬にとって村重への処遇がどうこうというのは、三吉ほど動揺していない。
こんな時代故、当たり前にあるような事。
それにそこまで村重と親しかったわけではない。
ただ、何度も言っているように、彼が自分の未来の形の一つである、とだけ考えていた。
微妙な空気が部屋を満たす中、静かにしていた官兵衛が三吉と寧々子をはがし、人の気配を廊下から感じて扉へ視線をやる。
すると静かに部屋の扉が開けられた。
「たっだいま~! あっれ、みなさまおそろっち~!」
急に空気をガラッと変える存在が入ってきた。
服部半蔵である。
少々服がいつも以上に乱れているところに一仕事こなしてきた感じがうかがえる。
「首尾は?」
「あのトゲトゲした軍師殿はいないのかぁ~ まぁあんたでいいか。そこにおいといたよ」
そういって半蔵は扉に寄りかかり、廊下への道を開ける。
官兵衛は無表情のまま部屋をでて、すぐそこにあった桶の前にしゃがみこんで中を確認する。
「―――確かに。間違いない」
「ふふん。軍師殿にギャフンと言わせるつもりだったけど、あとで伝わるしいっかね~! 任務、ちゃあんと果たしたよ」
あとから部屋を出て三吉、平馬、寧々子も官兵衛の後ろから覗き込む。
そこには、確かに荒木村重の首が入っていたのだった。
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