第七十七話 願望と保険
結局史実どおりになってしまうのか、危機的状況に立たされてる一行。
珍しく三吉が半兵衛に強く申し出を!!
戦況が思わしくない方向へと進んでいる寧々子たち。
史実通りになるかどうか、その鍵を握っているのは荒木村重。
彼の監視をさせていた秀吉の小姓・大谷平馬の報告を聞いた竹中半兵衛は彼の裏切りの阻止は難しいと判断。
最悪の事態を避けるべく先手を打つために何をすべきか考えている半兵衛に、三吉が意見する。
「あの、半兵衛さん。平馬にやらせてみませんか?」
「え? やらせるってなにを」
「荒木殿の説得を」
意外だ、とでも言わんばかりに目をパチクリさせる半兵衛に、三吉は毅然とした態度で言葉を続ける。
「荒木殿が元は信長様の小姓だったこともあって平馬は何か思うところがあるみたいだし、支城攻略後に合流したとき何か様子が変だった気がして……」
「ふむ。先程話を聞いたときも何か考え込んでいるようでしたしね。なんとなく、彼と自分を重ねているのかもしれないですね」
「重ねる? 平馬と荒木殿は真逆ではないですか?」
「武勇に秀でて勇ましい荒木殿と戦略に秀でて冷静沈着な平馬。確かに真逆だけど、平馬が考えているのはおそらく人柄ではない。君も小姓をやっているならわかるだろうけど、近くで見られるだろう? 主を。ずっと見てきて、思うところがあるなら辞めることさえできただろうに、なぜ今なのか、というところじゃないかな」
「な、なるほど……」
「ちなみに三吉くんは考えないのかな?」
「はぁ……まぁいいところばかりではありませんが、ちゃんと仕事すればできる人ですし危ない目にこれまで何度も遭って来たけどそれを切り抜けられるだけの悪運も備えています。あとこんな姉をなんだかんだ一番に愛してくれているので」
「こんな姉で悪かったな」
「アハハ。君は逆にそういうところはしっかりしているね。君が秀吉様を裏切ることはなさそうだ。平馬は戦略を考えるのが得意だからあらゆる可能性を考える。今回はそれが災いとなっているのかもしれない。といっても、まだ災いかはわからないけどね」
半兵衛は少し己の髪を指先で遊んだあと、先程の三吉のお願いに返事をした。
「君がそういうなら任せてみて少し様子を見てみましょう。まだ時間はありますからね。しかし僕は軍師なので最悪の事態避けも用意します。それでいいかな?」
「ありがとうございます!」
「それじゃあ、伝言は頼みますね。僕はお姉さん借りて自分の役割を果たすから」
「どうぞどうぞ」
「姉の扱いが悪いぞ、弟」
三吉は嬉しそうにしながら慌てて半兵衛の部屋を飛び出していった。
やれやれと肩を落とした寧々子に、半兵衛はするりと近寄った。
「久しぶりの二人きりですね」
「言っておくけど、私達どっちも既婚だからね? ちょ、顔をイイ感じに見せるのは辞めなさい!」
「いやぁ、たまには、ふぁんさーびす、なんてものをしないとね」
「どこで覚えたその言葉」
「あなたの部屋の文台に隠してあった薄い書物からです」
「何勝手に覗いとるんだあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「未来の語学を学ぶには絶好の書物でした。えっと、もし戦国武将があいどるになったら? みたいな名前の書物でしたね」
「ちょ、なにタイトル覚えてるのよ。そんなものに軍師の能力発揮しないでよ! あとあれは語学書じゃありません!!」
猫が警戒するときのように睨みつけ、フシャ――と鳴き声を上げる寧々子をあやしながら本題へと移る。
「それで荒木殿についてですけど、今回裏切って、一度織田から恩赦の機会があるけど聞かない。それで信長を怒らせて妻子や一族の者が次々処刑されるが、自分は逃げ隠れて、のちにまた秀吉様の前に顔を出すが、結局逃げる羽目になる。これで大丈夫ですか?」
「はい」
「今、我々の元には優秀な忍びがいますね?」
「俺っちを呼んだかい?」
すかさず現れる服部半蔵を半兵衛はうっとおしそうに一瞬見るが、すぐに本題へ戻る。
「彼を使って暗殺でいいのでは?」
「家族見捨てて生き残るからいてもいなくても同じってことかしら」
「そこまでは僕、言ってませんよ?」
「意味は同じでしょう! 主の役にも立たない、生死不明の微妙に扱いづらい武将はいらんということでしょう!?」
「そこまでは(以下略)」
「軍師殿おっかないねぇ~ まぁ気持ちは分からんでもないけどね。忍びだったならそいつは十分切り捨てごめんなところ、ただの武将だから生きていられるんだろうしな~」
今の半蔵のさりげない発言から読み取れる可能性に、忍びも苦労しているんだなぁと感じる寧々子。
「僕は秀吉様が天下とってくれればいいので。運よく平馬の説得が成功すればそれでもいいですし、失敗した場合はそれで片をつける。どちらにせよ、裏切りの前ならば摂津は織田のもの。信長への損はないですし、秀吉様への被害は抑えられる」
「あんまりいい方法じゃない気がするけど、確かにあとあと影響が少なそうという点では、そうねと言わざるを得ない」
「失敗するなよ、へっぽこ忍者」
「へっぽこじゃないってとこは見せてやるよ~! 機会があったらな!」
若き青年たちが一人の人間を生かそうと走る一方、どす黒い大人は一人の人間を始末することで決着がついてしまったのだった。
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