第七十六話 若き小姓の疑問
軍師たちが帰ってきましたが戦況は思わしくないですね~
上月城から帰還した半兵衛様と官兵衛様を休ませる意味も込めて、軍議は即解散。
一行は中国攻めの本拠地である姫路城へ一度帰還した。
元々の予定にも高砂城と魚住城攻略後は三木城の動向をしばらく監視だったので織田軍は警戒を緩めない程度にお休みムードに包まれていた。
しかしお休みムードなのは一介の兵士のみで、軍師や小姓たちがそんな状態にあれるはずもなく。
俺は、帰還して身だしなみを整えたばかりの半兵衛様にすぐさま呼び出しを受けていたのだった。
「首尾はどうですか? 平馬」
「はっ。ご報告申し上げます」
支城攻め期間中、半兵衛様に受けていた指示・荒木村重の監視の報告を始める。
自分の見た範囲では怪しい行動はみられなかった。
しかし最後の高砂城・魚住城攻めの際、意味ありげな質問を受けたこと。
必要なことは事細かに説明をした。
報告を聞いた半兵衛様はしばらく考え込む様子を見せた後、ニコッと笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。行動に隙がないなら探せる粗はないかと思いましたが、その質問聞き出せたことは大きな収穫です。やはり君に頼んだのは正解だったようです」
「三吉ではこういうことはできないでしょうからね」
「否定できないところが悲しいですが、そうなんですよね。素直ですからね、彼」
「これからどうなさるおつもりですか?」
「正直、ここで見せる隙がそれ以上ないならば彼の意志は固いものなのでしょう。裏切ることを止めることはできないかもしれません。しかし、裏切ることが分かっているのでこちらは先手を打つことができる。味方への被害をいかに少なくし、主君を勝利へ導けるか。軍師が戦場で考えることはそれだけです」
「そう、ですね」
半兵衛様の言うことは正しい。
秀吉様は特に出世欲の強いお方。
今回の中国攻めが成功すれば、これまでより信長に目をかけてもらえるようになり立場も大分安定するだろう。
我ら家臣や小姓はそれを支えるのが役目。
―――荒木殿もかつては信長に仕える小姓であり、その武勇を認められて一大名へと上っていったお方。
近くで主君を見てきたはずなのに、なぜ今更裏切りなど。
「――平馬。あまり余計なことを考えるべきではないですよ」
「えっ」
「顔に出ています。今はいいけれど、知将を目指すならあまり無闇に顔に出ないように気を付けてた方がいい。僕たちの主は秀吉様です。間違っても、信長でもなければ荒木殿でもありませんので、それは忘れないように」
「はい。承知しました」
それだけ言うと半兵衛様は俺を下げた。
まだ残っている仕事をこなしながら俺は荒木殿のことを考えていた。
小姓から武将へと成り上がり、今では主君を裏切るかどうかを悩むまでになった者。
いつか自分もそんなことを思う日が来るのだろうか。
俺は荒木殿のことをあまり他人事だと思うことができずにいた。
平馬を下げた後、自室で今後のことをどうするか半兵衛が悩んでいると次なる来客が訪れてきた。
「上月城から戻ったばかりなのだから少しくらい休憩してもいいんじゃない?」
「そうですよ。もしまた体調悪化したらどうするんですか。はい、これ今日の分です。携帯させていた分は使い切りましたよね?」
「いい時に来る姉弟ですね~。助かります」
部屋に来たのは寧々子と三吉。
寧々子は無論変装しているので男装状態である。
半兵衛は三吉が用意してくれた自分用特別配合薬を受け取ってまずは飲み干す。
そこから一息ついてから二人に向き直る。
「休みたい気持ちは九割ほどありますが、そうも言っていられません。平馬の報告を聞くに、荒木殿の裏切りは避けられない様子。早めの手を打っておく必要があります」
「九割休む気じゃん。安心材料を与えれば裏切りの可能性は低くなるって結論づけなかったっけ」
「つけました。が、織田が敵としている足利義昭や本願寺への支援提供を辞めるつもりがないのでしょう。せめてそれを辞めれば幾分か気が楽になるでしょうに。それを彼自身も恐らく分かっている」
「まぁ、みんながみんな信長様の敵は俺の敵―! なんていうわけではないものね。だとすると、旦那様の状況はなかなか厳しいものになりそうね」
荒木村重が裏切ると、まず未だ攻略の成っていない三木城の別所長治と同時に相手をしなくてはならない。
しかも援軍に来ている織田信忠軍は荒木村重の対応に追われることになるのでこちらの兵力が著しく減少することになる。
さらには背後に毛利。
今、上月城を宇喜多直家が担当しているとはいえ、宇喜多は毛利ほど強大な軍ではない。
結局のところ、史実と同じ状況に立たされかけている状況だった。
読了ありがとうございます。
ブクマ・ptよろしくお願いします!
次回、明日更新!




