第七十二話 秀吉暴走前!?
三成は優秀だったし、秀吉にも目をかけられたし、気に入られてましたが、
それでも歴史上秀吉の思考を変えさせられるだけの存在にはなれなかったですよね…
三吉はなれるのでしょうか……
上月城の軍師組が一段落ついた頃、三木城攻略に取り掛かっている三吉たちは無事最初に予定していた各担当の支城攻略に成功していた。
羽柴秀吉と荒木村重は野口城。
織田信忠率いる兄弟軍は神吉城・志方城。
これらが各軍の担当支城。
そして、これらの攻略が終わった次なる目的地は、兵糧攻めの要ともいえる海沿いに立地する二つの支城・高砂城と魚住城であった。
「この二つの支城を落とせば兵糧輸送の手段は陸地のみに限定されます。とはいえ、制海権を未だ小早川隆景が握っている以上油断なりません。海軍をお持ちの村重さまのお力が大変必要な状況ですので、ぜひこれからも尽力を賜りたいです」
次なる支城攻めの前に、軍師不在の秀吉のために軍師代理をしている大谷平馬から戦況の説明がされていた。
支城を一つ一つ攻略していくことで着実に三木城を孤立へと導いてはいるものの、未だ孤立と飢えを与えるまでには道が遠い。
そこで平馬は半兵衛に頼まれていた荒木村重の監視と安心材料を引き出す手段の件で、安心材料に「あなたが必要なんです」作戦を試みることにしてみた。
やはり自分が必要な人間であると言われることは承認欲求が満たされ、味方全体に対してまでいいイメージを持つことはなくても、一人自分を認めてくれる人間がいるだけで気持ちは大分変わるかもしれない。
「――まぁ自分はただの一小姓だが」
「平馬?」
「いや、なんでもない」
声をかけられた村重は突然の個人指名に驚いて虚を突かれたかのような表情になるが、すぐに神妙な顔つきへと変化し、頷く。
「此度の援軍としての役割が終わればすぐに摂津へ戻り、制海権を奪うべく尽力しよう」
「ありがとうございます」
「荒木殿、わしからも頼む。織田は海での戦いに不慣れで、船もあまり持っていない。荒木殿の力が織田には必要なのじゃ」
「――うむ」
少々の間があったことが気になる平馬だが、ここであまり畳みかけても不自然に思われかねない。
それで無用な疑念を抱かせては元も子もない。
平馬は続いて再び高砂城と魚住城攻めについて説明と各自の攻めルートを指示する。
みな、それを確認すると軍議は終了し、各自の持ち場へと戻っていった。
平馬も戦支度を始めると、戦準備を終えたらしい三吉が近寄ってきた。
「先程の荒木殿への声かけは牽制?」
「言い方が悪い。君、そういうとこ本当にのちに刃となって自身に返ってくるよ。それに本当のことだ。このあたりの制海権を握っているのは未だ小早川隆景だ。俺たち織田軍側はそもそも海戦に弱いということもある。海がある地で育ち、海軍を持つ荒木殿のような人物は必要不可欠だ。だからこそ半兵衛殿も気にかけているんだ」
「うっ、ごめん。なるほど……」
「それに海上からの兵糧を止め、荒木殿を摂津に戻し、制海権を奪う戦いへと行かせても荒木殿だけでは海上輸送を止めることは難しい。そこもどうにかしないといけないんだけど、こればかりはこちらでどうこうできることじゃあないしね」
とても小姓にしておくにはもったいないぐらいの見通し力だな、と思い、三吉は一瞬何か考えるが、今は戦の前なのですぐに余計な思考は打ち払う。
「三吉、お前の面倒をみたいが、今回に限っては荒木殿のことも見ていなくてはならない。隊を近くにはしたが、戦況によっては離れることもあるだろう。しかし」
「半兵衛様も小寺様もいない現況で秀吉様を一人にするわけにはいかない。大丈夫だよ、逃げ足だけは速いから僕」
「それで秀吉様置いて逃げるなよ。ちゃんと連れて行くんだぞ」
「そこまで落ちぶれちゃいないよ!!」
ハハハッと軽く笑うとそのまま平馬は自身の所属する部隊へと向かっていった。
それを見送ると三吉は秀吉の元へと戻っていく。
支城攻めが始まり、各部隊がそれぞれ攻略に動き出す。
その最中、本陣にて未だ静観している秀吉がそばに控えている三吉に声をかける。
「佐吉。半兵衛や官兵衛たちは無事かのう……」
「そうですね……全く連絡がないのが気になりますし、兵も上月城にいる尼子軍だけ。宇喜多様が動いたという報せもありますが、それだけで毛利を追い返せるとは思えません。心配ですね」
「むう……この二つの城を攻め落としたあと、上月城へ行けないかみなに打診してみよう!」
「し、しかし信長様の命は三木城攻略であり、援軍の皆さまもそのためにいらしています! それに逆らえば秀吉様はまた謹慎、それ以上の罰を受けることになるかもしれませんよ!?」
「じゃが!! わしはわしの軍師たちのことが知りたい! それに半兵衛は数年前より体調があまりよくなかった。最近は家康殿より仕入れた薬が効いていると言っていたが、それも長きに渡る戦やこの前こっそり駆け回っていた影響でまた悪化している可能性もある。心配じゃ……」
これはまずいな。
秀吉様は時々感情に任せた行動を起こすことがある。
それこそ数年前の、柴田勝家殿の援軍に行った時に戦況が覆るどころか悪化の一途をたどると判断したとき、主の命を蹴り、勝家様を置いて独断撤退したときがまさにだ。
こういう独断がいいときもあれば、悪い時もある。
これをいさめることができる人は正直限られすぎている。
最も信頼を寄せる竹中半兵衛様、愛するねね(中身は姉)様、親友の前田利家様。
この方々以外に今、彼を止められる人物がいない。
僕がどうにかその位置に収まらないと、先々がまずい気がする。
「秀吉様、やはり連絡を待ちましょう。こちらからも伝令を送ってみますのでもう少しご辛抱ください」
「そうはいってもな……もう上月城を去り、支城攻略が始まってから一月は経っておる。何かあったかもしれん」
「それでも切れ者二人が揃っております。何か危険な状況であればそれこそ連絡がなにかしらあるはずです。なにもないということは逆に手出し無用だということかもしれません。もう少しだけ、もう少しだけ待ちましょう」
「ううむ……」
あまり納得がいっている様子ではないが、最終的に秀吉は三吉の言葉に頷いた。
しかし三吉の頭では警鐘が鳴りっぱなしだ。
早く戻ってきて、姉さん、半兵衛さん!
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