第七十一話 隆景視点:ボクたちの同盟
いつもより長くなってしまいました。
小早川隆景視点ですー!
上月城に一人呼び出され、数日間もてなされた小早川隆景、もとい隆子。
何かひどいことでもされるか、人質とされて毛利に何かしら不利な要求でもしてくるかと思ったがそういうことはなく。
また、同じ境遇である前世での友人・寧々子と再会するという想像を超える出来事があったり、人生は何年生きても驚くことが絶えないものだなぁとしみじみしていた。
「ここでの生活もあまり悪くはないし、彼らと共にいる分にはむしろ居心地がよさそうなんだけどね~」
「そう思ってくれたならよかったよ」
「ねねチャン」
一人、与えられた部屋でお茶をしていたところに音もなく現れた友人を笑顔で出迎える。
「見た目がオジサマだから前世のままの口調だと違和感すごいわね」
「いや~今だけは許しておくれよ。この時代に生まれてから素でいられた人間は父上を除いて君だけなんだ~」
「毛利元就には見せていたの!?」
「いやぁ~あの人ね、めちゃくちゃ良い人なんだよ~。頭よくていろいろ家のためにやったから悪い人みたいに言われているけどめっちゃ家族思いなんだよ~。転生者だとは言わなかったけど、何かを我慢していることはバレていたみたいでね、さすがは父親~」
「前世の記憶がある以上、心から本当の親だと思うことが私や三吉にはできなかったけど、たかちゃんは本当の父親のように思ったんだね」
「最初は前世の記憶がなかったんだよ~。なんか、成長していく途中で自分の中でなにか違和感を覚えて悩んでいたある日に前世の記憶がやってきたんだ。だから純・小早川隆景だった時期もあるんだよ~」
「そこは私と同じなのね」
ほほう、転生状況も似通っているとはさすがはソウルメイト。
「そういえばねねチャンは何しにここへ~?」
「ちゃんと仕事の話しにきたんだよ。でも、その前に確認したいんだけど、たかちゃんがこの時代に生まれてから今まで私達が知る歴史と変化のあるときってあった?」
「今がまさにそれだよ~読めないし知らないしでボクの地位落ちるんじゃないかと不安~」
「今、味方にあまり信用されてないの?」
「そんなことはないけど、この先も変化があるならやっぱり知っている記憶に依存してしまっているところがボクはあるから~」
一応あとから前世の記憶を得たので純粋に小早川隆景として生きた時もある。
だから全く戦周りのことを考えられないということはない。
父・毛利元就にも仕込まれた部分もある。
しかし前世の記憶を全く利用していないかというとそんなことはない。
むしろ依存に近い部分はある。
大事な決断ほど、前世の記憶を掘り起こして選んでいる。
だから、あまり時代変化をされると個人的には嬉しくない。
「ねねチャンは、ねねさまにお願い事されてることもあって歴史を変えるつもりなんだよね~?」
「そうだね」
「今回もそうするつもりなんだよね~?」
「ここも大きい戦の一つだからね。たかちゃんはあまり歴史を変えたくないのかな」
「そうだねぇ。小早川隆景は別に嫌な死に方をしたわけではないし、やらかしたのは養子の秀秋だし、もし歴史変化で家族につらい思いさせたりすることになるんだとしたら、あまり望ましくないな~」
ねねチャンは前世では最も仲が良かった親友だ。
できれば敵対関係にありたくはないけど、ボクはこの時代であまりに長く生きてしまった。
そしてほかの転生者と、ねねチャンと出会うのが遅すぎた。
こちらでできた家族に、情ができてしまった。
「そっかぁ。じゃあお願い事は無意味そうだね」
「一応内容を聞こうかな~」
「私の仲間になってほしいな~って」
「織田と同盟ってこと?」
「ううん、個人的に」
個人的に、仲間に。
どういうことだろうか。
「そのまま毛利にいて小早川隆景やってていいから、情報共有といざってときにお互い力を貸してほしいなって」
「そのいざってときは今じゃないのか~い?」
「今は三木城攻略がどちらかといえば信長様のお望みなので、それほど急を要してはいない。けれど、ここで同盟組めたらお互い流す血が少ないかな~って」
「そうだねぇ。けど、ボクたちでも別所長治を止めることはできないよ? 彼は結構秀吉殿を敵視している。それはボクたちの預かり知らぬところで君たちが彼に与えた印象のせいだ。彼は己の意志で行動してボクたちの元へ協力をお願いしにきて、己の足で味方を集めて反抗した」
「そうなんだ~。じゃあ別所長治をかばうことはできないな」
かばう?
時々この友の思考が読めないところがあるな~。
そういうところもいいところだと思っているけど。
「どうして別所長治をかばお~と? そういえば、この上月城を初めて攻めに来たとき、確か秀吉は城内の人間全員の惨殺を命じたはずだけどそうはならず、全員宇喜多直家の元に送ったんだっけ~?」
「あれは私の案。宇喜多を調略するためのね」
宇喜多の調略をあの時点で視野に入れていたのか。
我が友ながら、侮れない視野だ。
やはり私に衝撃を与えた同人誌を作った者なだけはあるな。
「ねねチャンは転生しても変わらないね~」
「それ褒めてるの? けなしてるの?」
「褒めてるよ~。むしろ安心する。普段は人を疑わなきゃいけないから~君が変わらないなら言うことは嘘偽りないって信じられる。 ……個人的に仲間になるっていうのは、承諾してもいいよ」
「ほんとに!?」
「うん、ただし一つ条件~」
「な、なんでしょう……」
ボクの友は、親友は前世から変わらない。
数日前、天守で同人誌を落とした時の狼狽も昔と変わっていない。
大事な部分は、本当に。
ボクはゆっくりと親友の心臓がある方の胸を指差して。
「君の同人誌を、ボクにちょうだいな」
きっとこの時代では誰も見たことがない、思考を停止し、うろたえた表情になるボクの親友。
懐かしいなぁ。
前世でねねチャンのいる学校に転校してしばらく経った頃、一人で図書室の隅っこ、人目の死角になる場所で一人ノートに何か書き殴っていた彼女。
とても集中していたのか、近付いても全く気付かなかった彼女の隣に座ってじっとノートの中を見ていた。
初めて彼女の絵を、物語を、読んだときは自分と同い年の子がこんな素晴らしいものを生み出していることに感動した。
そして、内容も面白かった。
彼女がボクに気付くと、「ひえあっむっ」と叫びそうな己の口を自分で塞ぎ、こちらが驚くほど焦ってノートを抱えながら椅子を横に倒して転び、痛みに一瞬苦しみながらもそのまま身を翻して隅っこへカサカサと移動する。
なぜここに。中を見られた。
それだけじゃないだろうけど、いろんな気持ちがかき混ぜられた表情でこちらを見返していた。
最初からいろんな意味でボクには衝撃的だった。
そして、とても気になる人だった。
ノートの中身を褒めると、与えられた餌を前に、食べるかどうか悩む野良猫のようにこちらを見てきた後、彼女はお礼を言った。
それからボクは何度もここに通い、彼女もだんだんボクに気を許してくれるようになった。
ノート一冊書き終わった頃にそれをねだってみたところ。
ねねチャンは必死に悩んで、もがいて、最後に苦悶の声を漏らしながら震える腕で差し出してきた。
そして、今もあのときと同じように震える腕で、今度は顔を逸らしながら差し出してきた。
ボクもそれを変わらず笑顔で受け取る。
「じゃあ、これでボクたちだけの同盟は成立~。信長みたいに破棄したら、晒しちゃうからね~?」
「ウッ……マモリマス……」
その翌日、上月城から一人出てきた小早川隆景を出迎えた、数日前彼を上月城まで護衛した毛利兵士たちはやたらニッコニコな彼の笑顔を非情に不気味がった。
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