第六十八話 三吉のコンプレックス
姉弟は難しい。。。
三木城に籠城する別所長治を討つべく策の準備に取り掛かる姫路城の羽柴軍一行。
荒木村重以外に信長より送られた後続の援軍も到着し、姫路城で数日休めたことで兵たちの士気も通常に戻っている。
秀吉より兵糧攻めでいく、と方針を告げられてから三吉は補給線を断つための要となる三木城周辺の支城について情報収集と長期戦になることを見越してこちらの兵糧準備にとりかかっていた。
しかしそれ以外にもう一つ三吉には気がかりがあった。
「三吉」
「平馬」
城内を駆け回っている三吉を捕まえられる人間は少ないが、平馬だけはなぜか見つけられる。
平馬も秀吉の小姓なので三吉同様、戦の準備に追われている。
しかし平馬は物資や資金の調達が得意な三吉と違い、戦略の提案が得意なので秀吉から軍議の場に積極的に呼ばれ、部隊の人数調整や配置など実践的な部分を任されることが多い。
そして、平馬のそういった面に着目しているのは秀吉だけではなかった。
「半兵衛様から頼まれたことはできているの? 平馬」
「抜かりない。お前は顔に出やすいからこの件はあまり考えず、荒木殿にも必要最低限の接触だけにして戦支度してくれよ」
上月城周辺に秀吉たちが陣を構えていた頃、そちらへ向かう前に姫路城へ立ち寄った半兵衛より平馬はある任務を預かった。
それは、荒木村重を泳がせる形での監視。
寧々子曰く、今より数か月経った頃に裏切るらしい。
だが、半兵衛たちが播磨を駆け回り、国人衆を説得していたのと同時進行で荒木への対策を得るべく情報収集をしたが、現状敵に該当する武将から荒木へ接触することはなかったそうだ。
また寧々子たちの見解では荒木村重は臆病者であるということで一致している。
なので、誰かの接触がないうちは荒木村重の自身の精神力が問題となる。
泳がせる形をとるのは無用な疑いを相手に抱かせない目的があり、それでも一切目を離さないのは敵から接触してこない可能性がゼロとは言えないからだ。
「監視もだけど、安心材料を与えるために何か聞き出せ、と言う部分が問題じゃない?」
「そこがな。いくら三吉よりうまく人と付き合えているとはいえ、そこまで器用ではないぞ俺は」
「さりげにディスるのやめてよ」
「バカにしている、という意味で合っているか?」
「なんでこういうとき、言葉の意味の悟りが早いの」
「長い付き合いだからな」
ははは、と笑う平馬を三吉は不服そうに見る。
「まぁ竹中殿の任務は気負わない程度に頑張るさ。それよりもお前は今度の支城攻めに参加するんだろ? どこの部隊にいくんだ」
「効率重視で、要所である海沿いの二つの城を落としたいからそのどちらかを攻める部隊に加わるつもり」
「効率重視という部分はらしいと言えるが、お前は武力ではあまり並の兵士と大差がないだろう。無理せず他の城がいいのでは?」
「そういって平馬は僕を海沿いの城攻め部隊から外すつもり?」
「そこまで無理に変えるつもりはないが、俺は三吉についていくつもりだからな」
「え」
キョトンとする三吉に平馬はやれやれとため息を吐く。
「幾度か戦を経験したとはいえ、未だ戦うことにびくついているお前を放っていけるほど俺の心は非情にはできていない」
「うっ……だって人を殺すことに無縁な時代に生まれ育ったから抵抗が……。むしろ適応できてるあの人の方が恐ろしい……」
「おねねさまか? あの方は未来人であるとは思えないほどこの時代環境に適応しているな。武力も幾人かのお墨付きがあるらしいじゃないか。とても姉弟とは思えない差だな」
平馬には三吉が未来からの転生者であることを話しているので、姉がおねねさまの中身であることも実は打ち明けている。
そして約束を守って誰にも言っていないのでほんとにいい人。
いい人だが、姉と比べるのは勘弁してほしい。
生前、両親への反逆から成績がガタ落ちして落ちこぼれの烙印を押された姉・寧々子だが、本当は落ちこぼれでもなければバカでもない。
本気になれば元の成績に戻れるし、有名ないい大学のいずれかにも行けただろう。
さらには成績という数字だけでは測れない部分、例えばコミュニケーション能力やこの時代でも発揮されている環境適応力といった、生きていく上で大事なスキルも三吉以上に持ち合わせている。
自分の好奇心が向いた分野への探求心もまたすごい。
コスプレを始めた時は化粧技術や裁縫技術もすこぶる向上していったし、同人誌を書き始めたときも画力の向上がめざましかった。
そんな姉の側にいて、勉強して成績だけ気にしている自分に正直、焦りを感じていた。
親はそれだけ気にしていればいいと言っていたが、僕にはどうしてもそう思いきれなくて。
だから親が見えないところで僕は姉と共にいた。会話をした。
――そうすれば少しは姉の優れた部分が自分にも分けられるような気がして。
職人の弟子が師のやり方を、見て、覚えるように。
「そうあからさまに落ち込まれてるとは、すまなんだ。おねねさまとお前は前世がどうあれもう別人。赤の他人だ。それを抜きにしてもおねねさまはおねねさま、三吉は三吉だ。あまり気にする必要はないし、お前はお前のしたいようにすればいい」
「平馬……ありがとう。そうだね、僕は僕だ」
「そうそう、その意気だ。とりあえず支城攻めは共に参るからな」
「分かったよ」
二人はそこで別れ、それぞれの持ち場へと戻っていった。
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