第六十五話 知らぬ転生者
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みんな! 台風きをつけて!!
寧々子は走った。
胸に、命と同じだけの価値、いや、魂を分けた書物を抱えながら。
脇目もふらず、自身が今変装していることさえ忘れて。
自分の変貌ぶりにみんな驚いて追いかけてくる人はいないだろうという冷静に状況を客観視する自分と、この書物を一瞬たりとも見られたことに対する羞恥心でどうにかなりそうという自分と、板挟み心理状態で今の寧々子の心は不安定だった。
なのに。
「待って!!」
よりによって斬りかかってきた人物・小早川隆景が自分を追いかけてきているではないか。
待って、などと呼び留めて止まるとでも思うのか!?
そんなに秀吉が憎いの!?
それとも気が付かぬ間に私が何かしてしまっていたの!?
どうしても殺したいらしい執念に脱帽せざるを得ない。
しかしだからといって自分にはこの時代に逆行転生してきた理由があり、やらねばならないことが山のようにあるから今死ぬわけにはいかない。
寧々子は上月城を走り、部屋に入ったり、適所で扉を閉めて目くらましをして隆景を撒こうとするが、いくら寧々子が武将並の実力ある立ち回りができるからと自分より明らかに十年以上乱世を生きている人物に及ぶわけはない。
慎重に思考する人間だと認知していたが、それは家の方針やあらかじめ攻め入るときの策を考える時に適用されることであって、動いている間まで考えが遅いわけではないだろう。
このまま鬼ごっこがもう少し続くかと思いきや、突然背後から気配が消えた。
ほんとに背後からいなくなったのか確かめようと近くの部屋に入って後ろを振り返ると、
「ようやく止まってくれました~」
「っ!」
パシッ、と肌と肌がぶつかる音が響く。
どうやら寧々子の行動を先読みして部屋で待ち構えたらしい。
「待って、と言ったのにどうして聞いてくれないんですか~」
「急に襲いかかってきた相手に待てと言われて待つ人がいるのですか!? 絶対に殺されると思うでしょう」
「それもそうでした。つい」
「そんな気軽な感じに言われても困るんですけど。殺すつもりがないのならどうしてこんなに追いかけてきたのですか」
「その同人誌、どこで手に入れたのですか?」
一拍の間。
どうしてこれが同人誌だと知っている?
寧々子の顔を冷や汗が伝う。
私や弟をこの時代に呼んだ本物のねねさまが預かり知らぬ転生者がいる?
全く考えなかった可能性だが、よくよく考えればねねさまは自身の願いを叶えるため、過去のやり直しをしに時代を逆行し、未来から自分らを呼んだ。
もしや、ねねさま以外にもこの時代の未来を変えたがっている人が、いる?
気になるが、今は目の前の問題だ。
この人は誰だ?
小早川隆景を演じている、この人は。
「ボクは、この世に生を受けて以降~、ボクと同じ者を探しています~。その書はまさしく手がかり。先程君へ向けた刃の構えもフェンシングが元になっています~」
「フェンシング……そういえば日本刀を扱う動きとしてはおかしかったような」
「う~ん? もしや竹中重治ではなく、あなたが転生者?」
「えっ! 小早川隆景も転生者!?」
また一拍の間。
目をパチクリさせて見つめ合う二人。
「「お名前は……あっ」」
聞きたいことが重なったようでハモってしまう二人。
まだ見ぬ転生者との初の邂逅であった。
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